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第1章ー14

「軍人が弱気な意見は中々言えませんからね。本音としては、無茶をいうな、と叱りつけて、妥当な線で議論はおしまいにしたいのですが」

 斎藤海相は言った。

「それは良くない。とことんまで突き詰めて相手に考えさせることだ」

 林元帥は言った。


「亡くなられた伊藤博文公は、重要な問題については、とことんまで突き詰めてまとめないと気が済まない方だった。なあなあで物事を済ませては、絶対に禍根を残すと言われていた。大体において異存が無いというのではダメだ、異存が無いならすぐにそれに応じた手段を示せ、が口癖だった。わしもそう思う。大体において異存が無いといいながら、何度、海兵隊の要望を海軍本体が無視したことか」

 林元帥は嘆いた。


「それを海相の私に言いますか」

 斎藤海相は林元帥をたしなめたが、内心では同感だった。

 斎藤自身も海軍本体に何度も煮え湯を飲まされている。

 海兵本部次長としてしかり、海相になってからの粛軍等しかりだった。

 山本首相と林元帥が後見してくれなかったら、粛軍は大失敗に終わっていたろう。


「ともかく安奉線等の権益は1923年に中国に返還することになっておる。だが、現状からすれば、今の内にその権益を大幅に延長して確保したいものだ。青島要塞攻略後に、中国に対してその交渉をせねばな」

 林元帥は悪い顔をした。

 斎藤海相も似たような顔をした。


「同感です。しかし、そうすると小知恵を回して、要らん要求までしようとする輩が出そうですな。欧州が戦争で大混乱になっている間に、中国を日本の半植民地化してしまおうという輩が」

「小村元外相の亡霊がよみがえるか」

 斎藤海相の話に林元帥は合いの手をうった。


 小村元外相は国益をとことん重視した。

 外相として当然と言えば当然だが、英米との協調の上で国益を確保しようとする伊藤博文公らとは考えが合わないときも多々あった。

 だが、小村元外相はとことんまで突き詰めるという点では、伊藤博文公と一致しており、その点では尊敬できると林元帥は評価していた。


 だが、今の問題は小村元外相の薫陶を受けた外務省の少壮官僚だった。

 彼らは物事をなあなあで考えてしまう。

 中国は脅せば引っ込む、欧米も世界大戦の真っ最中だから介入できない、日本の最大限の主張を要求して、この機に中国を日本の半植民地化しようと彼らが企んでいることは間違いない。

 もし、日本の主張が問題になったらすぐに撤回すればよい、と彼らは考えている。

 問題になったので撤回するでは、中国からも欧米からも大幅な不信を買い、外交上大幅な失点になることが彼らには分かっていない。


「わしは欧州に行くのでお前に任せる。お前の目からして要らん要求が、外務省なり陸軍なりから出だしたら、とことんその要求を受け入れて最後通牒まで中国に突きつけるとお前は主張しろ」

 林元帥は斎藤海相に言った。

「腰の据わっていない輩は困りますな。まさか海軍が自分たちの主張を全部受け入れて、最後通牒まで言いだしては」


「拒否したら日中全面戦争、チベットまで進軍しろ、と海軍が叫びだしたら、彼らはもっと困るな」

「海軍が自分たちを止めてくれるはずが、止めてくれないのですからね。自分から言いだして、海軍の弱腰を非難するはずが非難できない。慌てて海軍を止めに掛かるのが目に浮かびます」

「何しろ自分たちの方が専門家だからな」

「専門家が自分の馬鹿をさらけだしては自爆行為ですな」

「そういうことだ」


 林元帥と斎藤海相は悪い話をした。

「海兵隊と言うか、海軍はそう動くべきだと考えるが。斎藤海相はどう考える」

「自分も全く同感です」

 斎藤海相は林元帥の主張に全面的に同意した。

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