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第1章ー13

 任官したばかりの大田実少尉から提督昇進を目前に控えた土方勇志大佐まで海兵隊所属の士官はほとんどが欧州派兵を目前に控えて英仏2か国語習得に悪戦苦闘していたが、全員が苦戦していたわけではない。


 柴五郎横須賀海兵隊長は英仏中の3か国語に堪能という偉才の持ち主だったし、他にも語学については他人には言わないが、何で他人が習得するのに苦労するのか分からないという者がいた。

 皮肉なことに海兵隊の実質のトップは2人共そういう者だった。


「林元帥は、英語は大丈夫なのですか?」

 9月5日、斎藤実海相は一応は林忠崇元帥を気づかう発言をしたが、口先だけなのが分かる口ぶりだった。

 林元帥も笑って答えた。

「一人娘からは年寄りの冷や水も程々に、と悪口を言われているがな」


「ミツ殿にですか。海軍省でも林元帥が唯一頭の上がらない人物と怖れられていますよ」

「人の娘をそんなに怖い人物にするな。30前の妙齢で結婚相手を探しておるのに」

「海兵隊いや海軍全体を探しても林元帥の娘をもらうのは中々いません」

「ほう、どうしてだ」

「そりゃ、林元帥が頭が上がらない人物と言うだけで皆、逃げ腰になります」

「どれだけ噂が酷くなっているのだ」

 林元帥は嘆いた。


 ちなみに余談だが、ミツは父が欧州出征中に林元帥の知人である犬養毅が媒酌した縁談を受け入れて、岡山県の銀行家にして政友会の代議士である妹尾順平に嫁ぐことになる。

 同じ県内出身とはいえ、政友会と対立している立憲国民党の党首、犬養毅が縁談を媒酌したことは新聞を一時、賑わせることになったが、犬養自身は知人の娘が嫁ぎ先を探すのに困っているのを手伝って、何が悪いと開き直ったという。


「それはともかくとして、英語を学ぶのは楽しんでおる。何とかなりそうだ」

「70歳前で、そう言えるのは中々ですな」

「そういう斎藤海相も語学の達人ではないか。イングランド人か、スコットランド人か、英語の話し方で分かると聞いたぞ」

「そんなことはありません。アメリカ人なら出身が東部なのか、西部なのか推測できますがね」

「充分すぎるだろう」

 林元帥も斎藤海相に冗談交じりの会話で返した。


「それはともかくとして」

 林元帥は真顔になった。

「明日の陸海軍協議会の前に、海兵隊内の意見のすり合わせをしておきたい。特に中国問題だ」

「分かっております。青島要塞攻略後に必ず中国とはトラブルになります。どう対処すべきでしょうか」

 斎藤海相も真顔になった。


「とことん強硬論を吐け、わしの名前を持ち出してもいい。中国とは全面戦争か、平和かの二択しかない、と周囲に思わせておけ。義和団事件と最近のセルビア問題から、わしはそう思うようになった」

「中途半端はダメということですな」

 斎藤海相は、林元帥の内心を覚った。


 斎藤海相は、本多正信の生まれ変わりとまで評された本多幸七郎提督の愛弟子である。

 林自身も、斎藤は首相の才があると認めている。

「そうだ。周囲の腰を引かせろ。中途半端な覚悟で中国と戦争をしたら泥沼になる。欧州で戦争中に片手間で中国と戦争をする余裕などあるものか」

 林元帥は吐き捨てるように言った。


「中国と戦争をするなら、中国全土、モンゴルからチベットまで占領する覚悟でやれ、ということですな。右翼の過激派と言えど、そこまで言う強硬派は中々いませんな」

「だからこそ、却って周囲の腰が引けるのさ。一撃ガツンとかましたら、中国と和平できるなんて思うな、戦争するなら中国全土占領までとことんやるぞ、と海軍が叫んだら、誰も却って中国に対して強硬論が吐けん」

 林元帥は斎藤海相に言って聞かせた。

 長くなったので分けます。

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