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第1章ー11

 視点が度々変わってすみません。草鹿龍之介の視点からの日本の欧州派兵の話になります。

「おい、日本の海兵隊がフランス救援に行くらしいぞ」

 8月26日の昼食時に、同期生の1人が草鹿龍之介に叫ぶように言った。

「本当か」

 草鹿も驚いた。 

「ああ、この新聞に書いてある。海軍省が発表したらしいから間違いないだろう」

 同期生は新聞を示した。


 草鹿は慌てて目を通した。

 確かにそう書いてある。

 時の流れが速すぎる。

 草鹿は呆然とした。


 草鹿たち海軍兵学校第41期生は浅間、吾妻に分乗して遠洋航海を行い、ハワイ、北アメリカを巡航して8月11日に帰国したばかりだった。

 ちなみに同じ海軍兵学校第41期生でも大田実ら海兵隊志願者は、遠洋航海にはいかず、各鎮守府海兵隊で海兵隊士官の教育をあらためて綿密に受けている。


 帰国して大田らに草鹿が会ってみると、大田らはすっかり海兵隊士官らしくなっており、お互いに少し違う世界にいることを寂しく思ったばかりだったが、世界の時の流れは速かった。

 6月末に墺皇太子夫妻が暗殺されたと遠洋航海中に聞いた時には、大変なことになったな、と同期生同士で話をするものの、一番過激な意見の持ち主でさえ、墺とセルビアが戦争になるというくらいだった。


 それが、7月末に墺がセルビアに最後通牒を発したという話を聞いて以来、1日1日と世界情勢は急激に悪化、帰国してみると欧州全体が戦火に包まれていた。

 日本も日英同盟の誼で参戦するのだろうか、参戦するとしてどの程度のことをするのだろうか、と同期生同士でひそひそ話をするうちにも、山本権兵衛首相は独に最後通牒を突きつけ、1週間以内に全面受諾か、戦争かを迫った。


 それでも、海軍本体の同期生の間では青島要塞を陥落させ、山東半島と南洋諸島の独の植民地拠点を日本が占領し、独東洋艦隊を全滅させれば、日本は事実上平和になるという意見がほぼ全体を占めていた。

 だが、その頃から、海兵隊に行った同期生の態度が妙になった。

 それとなく探りを入れると、日露戦争のような状況に海兵隊はなっていることが推測されだした。


 どうも怪しいと海軍本体の同期生で話をしていると、海兵隊の欧州派兵の話が飛び込んできた。

 墺がセルビアに最後通牒を突きつけてから、わずか1月。

 1月前に日本が海兵隊を欧州に派遣すると誰が想像していただろうか。

 総司令官は林忠崇元帥が務めるらしい。


 つまり海兵隊は総力を挙げて欧州に赴くことになる。

 大田たちも当然大多数が欧州の戦野に行くのだろう。


 草鹿は目まぐるしく頭を回転させた。

 まさか、こんな事態が起こるとは、

 幾ら治に居て乱を忘れずと言われると言っても、世界が戦火に包まれるのがこんなに早いとは、

 草鹿は呆然とするばかりだった。


「おい、大丈夫か」

 気が付くと同期生が自分に大声を掛けていた。

「すまん。自分の考えにふけっておった」

 草鹿は同期生に謝った。


「自分も新聞の見出しを見た時は同様だった。気にするな」

 同期生は草鹿に言った。

「大田らは欧州に行くのだろうな」

 草鹿は半分独り言を言った。


「行くのだろう。それにしても欧州戦線は激戦らしいぞ。既にフランス軍だけで10万人以上が死傷したという噂が流れている」

「ちょっと待て、奉天会戦の時の日本軍の全体の死傷者でさえ10万人もいないはずだぞ。どこからその話を聞いた」

 草鹿は同期生の話に驚愕した。


「身内が軍令部にいてな。噂話だが、と断って教えてくれた」

 同期生は得意げな顔で言った。

 草鹿は思った。

 大田らは大丈夫だろうか。

 靖国に行くことになるのではないか。

 まだその時の草鹿は、自分たちもその嵐に巻き込まれるとは思わなかった。

 だが、1年も経たないうちに海軍本体も、陸軍も嵐に巻き込まれることになる。

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