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第1章ー10

視点が変わります。

新聞記者から見た日本の第一次世界大戦参戦に対する視点です。

「ふん、山本権兵衛首相、対独宣戦布告を表明。平和を希求する我が国の最後通牒を独が黙殺したため、我が大日本帝国は止む無く対独戦争を決意した、と山本首相は声明を発表。モノは言いようだが、あんな最後通牒を出しておいて、平和を希求するもないモノだ」

 大庭柯公は鼻を鳴らして言った。


 8月19日、日本は独が日本からの最後通牒に返答しなかったことから、対独宣戦を布告した。

 ここに日本は英仏露側に立って世界大戦に参戦したのだ。

 日本が参戦したのを見て、隣国の韓国も日韓安保条約の友誼に基づき対独宣戦を検討しているらしい。


 大庭は思った。

 韓国の場合は、国内の混乱を戦争で挙国一致体制に移行させるためだろう。

 全く独はいい面の皮だ。


 東京朝日新聞記者の大庭の下には続々と日本の対独参戦に伴う情報が入ってきだした。

 陸軍や海軍本体は、早速動きだし、陸軍は青島要塞の制圧を、海軍本体は独東洋艦隊殲滅のために動き出しているらしい。


 大庭は、ふと気になった。

 何故、海兵隊が動いていない。

 青島要塞制圧には海兵隊の総力を挙げれば充分なはずだ。

 それなのに何故、陸軍が動くのだ。

 大庭は同僚と共に海兵隊の動きを探ったが、中々海兵隊の動きがつかめない。

 海兵隊の動きがつかめたのは、8月25日になってからで、海兵隊自身の発表によるものだった。


「海兵隊は欧州派遣軍総司令官として林忠崇元帥に内示を発令。青島要塞の陥落と独東洋艦隊の殲滅が果たされ次第、海兵隊2個師団はフランス救援のために欧州へ派遣されるだと」

 大庭は目を剥いた。


 併せて林元帥の談話も発表されている。

 戊辰戦争の際にフランス軍事顧問団が旧幕府歩兵隊をはじめとする奥羽越列藩同盟の幹部の助命のために奔走してくれたこと。

 それによって、自分たちが生きながらえることが出来たこと。

 その恩義に報いるために、サムライとして日本武士道精神を発揮するために自分から欧州派遣軍総司令官への任命を希望したことが発表された。


 大庭はやられた、と思った。

 まだ、日本国内は対独宣戦の興奮が冷めていない。

 こんな時に林元帥の談話と海兵隊の欧州派遣の話が出たら、誰もこれを表立って止めろとは言えなくなる。

 林元帥ら海兵隊幹部は対独宣戦と同時に海兵隊の欧州派兵の話を発表したかったのだが、英仏のメーカーからの兵器購入の話がすぐにはまとまらず、鈴木商店の高畑誠一ロンドン支店長が奔走することで、やっと8月24日、英仏のメーカーからの兵器購入の話がまとまった。

 これによって、海兵隊の欧州派兵の際の最大の障害が取り除かれ、8月25日に海兵隊の欧州派兵が発表されたのだった。


「どうする。海兵隊の欧州派兵反対論を唱えるか」

「唱えられるか。後手に回ってしまった。どうにもならん」

 同僚からの問いかけに、大庭は諦めきった顔をして答えた。

 おそらく他の新聞社でも記者たちは同様の顔をしているだろう。


「わしは名前通りの大馬鹿になってしまった。海兵隊が動いていないことで怪しいと思うべきだった。そして、海兵隊の秘密主義から怪しいことに気づけたのに、まだ気づけなかった。林元帥の談話付きで海兵隊の欧州派兵の話が飛び出してしまった以上、わしには海兵隊の欧州派兵反対論を唱えられん。サムライとして恩義に報いたいという林元帥にお前たちはケチを付けられるのか?」

 大庭は東京朝日新聞社の同僚の面々を見回しながら言った。

 同僚は皆、大庭から視線をそらしてしまった。


「そうだろう。山本首相や林元帥、その他対独積極参戦派の面々は入念に計画済みで、世論誘導策まで考えていた。発表前なら何とかなったがな」

 大庭は歯ぎしりするしかなかった。

 日本は地獄に飛び込むしかない。

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