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第1章ー9

 林忠崇元帥は、鈴木貫太郎海軍次官を通じて、斎藤実海相に海兵隊の幹部全員が、海兵隊の欧州派兵に賛同した旨を伝えた。

 斎藤海相はそのことを山本権兵衛首相に伝え、山本首相はそれに対して、海兵本部や軍令部第3部に欧州派兵の準備を行うように下令した。

 このことを知った伊集院五郎軍令部長は軍令部長の頭越しに山本首相が海兵隊の欧州派兵の段取りをしたことに渋い顔をしたが、海軍の重鎮である山本首相が相手である。

 渋い顔をするだけに止めざるを得なかった。


 山本首相の指示を受け、海兵隊の重鎮、林元帥と一戸兵衛軍令部第3部長、内山小二郎海兵本部長の3人だけの会議が持たれた。

「派兵規模はどう考えています?本当に2個師団を欧州に、しかも西部戦線に派兵するのですか」

 内山海兵本部長は他の2人に尋ねた。

「わしが欧州派遣軍の総司令官になる。こういえば分るだろう」

 林元帥は言った。

 一戸第3部長と内山海兵本部長は顔を見合わせた。


「つまり、2個師団総動員ですか」

 一戸第3部長は確認した。

 林元帥は肯いた。


「しかし、林元帥が総司令官にならなくても。私なり、一戸第3部長を総司令官にしてもいいのでは」

 内山海兵本部長が口を挟んだ。

「お前たちだと中将が総司令官と言うことになる。英仏が無理な要望を出してきた場合、階級の問題から断れまい。わしが総司令官なら、元帥だから、英仏も無理な要望は遠慮せざるを得ない」

 林元帥が言った。

 

 2人は唸った。

 確かにその通りだ、自分たちが総司令官だと階級の問題から、英仏に海兵隊が使い走り扱いされる問題がある。


「それに戊辰戦争で命を救われた恩義から70歳近い老提督が欧州派兵の先頭に立つというのを、新聞は悪くは書けまい」

 林元帥はにやにやと人の悪い笑みを浮かべた。


 欧州大戦は、日本の国民にとっては対岸の火事もいいところだ。

 欧州まで海兵隊を派兵すると言うことになると、そこまでしなくともよいという新聞が必ず出るだろう。

 国民の血を欧州で流す必要はない、そうどこかの新聞が書きだせば、他の新聞も追随する怖れが高い。

 

 だが、林元帥が戊辰戦争の命の恩人のためにサムライとして欧州派兵の先頭に立つというのなら世論の流れは微妙に変わる。

 日本の武士、サムライとして恩義に報いると獅子吼する林元帥を新聞紙上で悪く書くと日本人の恩義に報いるという道徳を何と考えると世論の反発を食らうだろう。


 そして、戊辰戦争の際にフランス軍事顧問団により親兄弟が助命された人間は、土方勇志大佐のように何人もいる。

 林元帥が今こそフランスの恩義に報いるため、フランスの窮地を救うために海兵隊への志願を募ると言えば、それに呼応する人間が多数出るだろう。

 欧州まで父兄が被った恩義に報いるために海兵に志願するという人たちを、新聞は称賛はできても、けなすことは決してできるものではない。


 一戸第3部長と内山海兵本部長は顔を見合わせたが、林元帥の言葉には道理があると思わざるを得なかった。

 欧州まで海兵隊が行くには、世論が海兵隊の支持に回ることが必要だ。


「2個師団を欧州に輸送し、武器弾薬等を補給することについてはどう考えているのです」

 内山海兵本部長は、林元帥に実務的な面から問いただした。

「兵の輸送に関しては、基本的に鈴木商店に依頼する。シーメンス事件があったから、三井には頼めん。外務省を通じて英国にも協力を依頼しよう。小銃以外の武器弾薬は英仏製を現地で購入する。武器弾薬はできる限り英仏と共用しないと補給が大変だ」

 林元帥の発言に他の2人も同意した。


「では準備に取り掛かります」

 内山海兵本部長が会議を締めくくった。

 他の2人も肯いた。

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