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第1章ー6

 8月10日、江田島の海軍兵学校から至急、上京して海兵本部に出頭してきた土方勇志大佐は何となく居心地の悪い思いをしていた。

 8月7日に海兵本部から、至急、海兵本部に出頭させられた理由が今回の欧州大戦にあるのは内心で推測できている。

 だが、自分は海軍兵学校の教頭職にある身であり、しかも階級は大佐に過ぎない。


それなのに各鎮守府海兵隊長を含め、在京の海兵隊提督ほぼ全員を集めた会議に出席するように指示を受けたのだ。

 何故に自分まで呼ばれたのか、その理由が土方大佐には分からなかった。


「斎藤実海軍大臣は、海軍本体の説得に忙しく、この会議には出席できないとのことだ。

 代わりに海軍次官の私、鈴木貫太郎が海軍省や内閣の意向を説明させてもらう」

 鈴木次官が会議の司会を務めた。


 斎藤が海相になる際、鈴木を特に海軍次官として要望した。

 海兵隊出身の2人で海軍省を掌握できるのか、という不安の声も当初はあったが、山本権兵衛首相と林忠崇元帥の後見と本人たちが本来の力量を発揮することで、斎藤と鈴木のコンビは粛軍を無事に成功させ、海軍省を完全に掌握している。


「欧州は8月4日に英が独に宣戦を布告したことで、伊を除く英独仏墺露の欧州列強が全て交戦状態に突入した。

 英はこの現状に鑑み、独東洋艦隊の跳梁を防止等するために我が国の参戦を望むという意向を伝えてきた。

 この意向を受けて、山本首相は、同盟国の信義を果たすために我が国も参戦するべきであると考えており、閣議を開いた結果、山本首相の考えは全面的に閣議で支持された。

 また、元老からも山本首相が閣議で決めた事なら反対まではしないという意向が全員から示されている。

 だが、一応は日本は止む無く参戦したという姿勢を示すために、明日8月11日から1週間の期限をおいて独に最後通牒を突きつけ、その拒否を待って参戦と言うことになった」

 鈴木次官は説明した。


「本当に拒否するのですか」

 軍令部第3部長の一戸兵衛中将から疑問の声が上がった。

「拒否するに決まっている。

 独東洋艦隊全艦の武装解除と日本への引き渡し、更に青島要塞以下全てのアジアの独領を武装解除した上で日本の保障占領下に置くことを全面受諾するか、戦争かという最後通牒だからな」

 鈴木次官が言った。

 その答えを聞いた海兵隊の会議参加者全員がうめき声をあげた。


「もし、少しでも条件を付けて受諾と言う回答が独から来たら」

 一戸部長が更に言った。

「それは当然拒否と言うことになる。

 それを理由に戦争だ。

 山本首相はそう明言している」

 鈴木次官はそう説明した。


 会議参加者のほぼ全員が呆れた表情になる。

 土方大佐も同じ表情を浮かべながら思った。

 そんな条件を付けた最後通牒を独が受け入れるわけがない、少しでも参戦を日本はしたくなかったというアリバイを作るためだけではないか。


「そして、日本が正式に参戦したら、陸海軍が共同して速やかにアジアの独の植民地、中華民国内の青島要塞等の山東省にある独領土、更に南洋諸島を制圧して、独東洋艦隊を殲滅するという計画である」

 鈴木次官が言葉を続けた。

 土方大佐はその答えを聞いて得心した。

 日英同盟から考えても妥当な線だ。

 その計画が完了した後は、英仏露の後方支援に我が国は徹することになるのだろう。


「なお、この計画が完了した後は、我々海兵隊を欧州に第一陣として派兵することを、山本内閣は計画している。

 斎藤海相は忌憚のない意見を海兵隊幹部から聞いたうえで、山本内閣に回答するつもりだ。

 諸君らの意見を聞きたいと斎藤海相は言われている」

 鈴木次官は発言を締めくくった。

 列席している海兵隊幹部は顔を見合わせた。

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