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第1章ー5

 林忠崇元帥は、首相官邸を出た後、海兵本部に立ち寄り、内山小二郎海兵本部長に対して、各鎮守府海兵隊長を海兵本部に至急呼び寄せるように指示し、それに併せて土方勇志海軍兵学校教頭も呼び寄せるように指示した。

 その後で至急、山県有朋元帥を訪ねることにした。


 取りあえず、電報を打って、明日、小田原の別荘の古稀庵を訪問する旨を伝えておく。

 急に訪れるよりも予め来訪の意を通じておく方が、山県元帥と話しやすい。

 幾ら西南戦争以来の面識があるとはいえ、山県元帥は元老のトップであり、林元帥と言えども面会する際には気おくれがする存在だった。


 林元帥が古稀庵を訪問すると、貞子夫人が林元帥を出迎えた。

 取りあえず、手土産を貞子夫人に渡す。

 貞子夫人は、山県元帥の下に林元帥を案内した。

 山県元帥は、林元帥を愛想良く迎えた。

「ろくな話ではないな。わざわざ来訪を予告して、手土産まで持参するとは」

「察しが速い」

 林元帥は、調子を合わせたうえで言った。


「欧州が戦火に包まれ、英国から日本に参戦の要請がありました。取りあえず、アジアの独領を日本には制圧してほしいそうです。山本権兵衛首相から、私に対し、元老の山県元帥の意向を伺うように指示がありました」

「あいつも偉くなったな。元帥を使い走りにするとは」

 山県元帥は皮肉を飛ばした。


 だが、笑顔を浮かべているままだ。

 第一次護憲運動の高まりにより、渋々、他の元老と相談の上で、山県元帥は山本権兵衛を首相に推挙した。

 そして、軍部大臣現役制を廃止する等、山本首相は辣腕を振るったことから、山県元帥は山本首相に意を含んだ。

 だが、林元帥が山本首相と山県元帥の仲を取り持ち、陸軍予算の一部復活を山本首相が認めたことから、山県元帥の山本首相への態度は非好意的中立程度には和らいでいる。


「わしは、日本の参戦には反対だ。欧州諸国が争うのなら、日本は静観して漁夫の利を図るべきだ」

「その考えにも一理ありますが」

 山県元帥の主張を林元帥は一応は立てた。

「この際、日本も英仏露側に立って参戦すべきです。参戦してアジアの独領を獲得し、賠償金も独墺から得ましょう。そして、中華民国との間の満蒙権益等についても、この際に解決してはいかがでしょう」


「ほう、林元帥とは思えぬ。積極的な参戦の発言をするな。まさか、欧州にまで日本陸海軍を赴かせるつもりか」

「そのとおりです、と言ったら」

「わしは断固、反対させてもらう」

 山県元帥は断言した。さて、どう話を持っていくかな、林元帥は頭の中で少し思案した上で決めた。

 ここは感情論で押し通そう。


「山県元帥には不愉快な話を少々させていただけませんか」

「伺おうか」

 林元帥の語りかけに、山県元帥は雅量を示した。

「我が海兵隊の幹部の多くは、私も含めて幕府歩兵隊の生き残りやその血縁者です。戊辰戦争の際に、仏の軍事顧問団の方々は教え子の私達、幕府歩兵隊を救おうと奔走してくださいました。そのお蔭で私達、幕府歩兵隊の面々の多くが生きながらえることが出来ました。今、独に仏は攻められており、劣勢が伝えられています。今こそ、戊辰戦争の際に救われた命で仏に報いたいのです。とりあえず、英仏露側に立った日本の参戦に反対しないでいただけませんか」


「賛成してほしいとは言わないのか」

「そこまでは望みません。反対しないだけで構いませんから」

「ふむ。そこまで言われるのなら」

 山県元帥は考え込みだした。


 林元帥は、内心で舌を出した。

 山県元帥は情に脆い。

 賛成してほしいと言われたら、却って反対論を唱えるだろうが、反対しないでいただきたいと言えば。

「分かった、そうしよう」

 山県元帥は同意した。

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