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第1章ー4

 吉松軍令部第4部長の分析は結果的に正しかった。

 7月25日のセルビアの墺帝国の最後通牒の一部拒絶から後、欧州はたちまちのうちに戦火の嵐に包まれた。

 8月4日、終に英が独に宣戦を布告。伊以外の全ての欧州列強は交戦状態に突入した。

 その嵐には、日英同盟の誼から当然、日本も巻き込まれた。


「ほう、英から日本も今回の大戦に参戦してくれとの話ですか」

「まずは、青島を根拠とする独東洋艦隊に対処するためにな」

 山本権兵衛首相は、8月7日に林忠崇元帥を首相官邸に呼び出して、相談していた。


 海軍出身の元帥は林以外にも井上良馨、東郷平八郎と2人いるが、政治的見識については2人共疑問があった。

 井上は軍人は政治に関与せずというのが口癖で、政治的な話には拒絶反応を示す有様だった。

 東郷に至っては山本は政治的見識は落第と評価している。

 満鉄日米共同経営を象徴とする友好関係にある米国を仮想敵国とし、それに匹敵する大海軍を作れ、と主張する海軍内の一派を諌めるどころか、それに完全に担がれる始末なのだ。


 それに対し、林は平生は黙っているが、いざという時は海軍内の粛軍をする斎藤実海相の後ろを完全に固めるだけの政治的見識と力量を持っている。

 また、山県有朋元帥以下の陸軍主流派とも友好関係にある。

 軍事絡みの政治的なことについて、私的に山本首相が相談するのに林元帥は最良の人間だった。

 だが、山本首相が林元帥を呼び出したのは、もう一つ理由があった。


「ちなみに参戦範囲は。まさか欧州にまで来いと英は仰せですか」

「そのとおり、欧州にまで来いと英は仰せだ」

 林元帥は半分冗談で山本首相に言ったのだが、山本首相は真顔で答えた。林は内心で慌てた。


「ちょっと待ってください。日英同盟の範囲に欧州は含まれていないはずでは?」

「だが、英は参戦範囲の制限を特に言わずに日本に参戦を促している。それは暗に欧州まで来いと言うことだ。牧野外相もそう言っている。そして、その場合、海兵隊に行ってもらいたい」

「陸軍や海軍本体は行かないのですか?」

「何れは行かせる。だが、まずは海兵隊が先陣を務めてほしい」

「そういうことですか」

 山本首相の一言で、林元帥は全て分かってしまい、自分で自分を納得させた。


「さすが林元帥、元幕府老中候補として黙っていても政治が分かっておられる」

「話を逸らさないでください。要するに陸軍は山県有朋元帥が欧州派兵反対論を唱える、海軍本体は東郷元帥が欧州派兵反対論を唱える。それで、海兵隊をまずは欧州に派兵することで、陸軍や海軍本体を追加派兵したいのでしょう」


「そのとおりだ。実際に海兵隊が欧州に赴くのは、青島要塞や南洋諸島といった独のアジア根拠地を制圧した後になる。そちらには海軍本体や陸軍を活用するので、海兵隊は安心して欧州派兵の準備に専念してほしい」

 山本首相は言った。

「何か希望はあるかな」


「海兵隊が欧州に赴くことは構いませんが、小銃以外の全ての武器は英仏が供給してくれることがまずは第一条件になります。補給の観点から当然のことです」

「外務省に交渉させよう。小銃はいいのか」

「口径の問題からです。日本人の体格からは38式歩兵銃が最良です。英仏の小銃では口径等のために反動が大きく、日本人には扱いかねます」

「他に希望はあるか」

「海兵本部や軍令部第3部(海兵隊担当)と相談して追加希望はさせてください。元老への相談や閣議はどうなっているのです」

「閣議はこれからだ。元老の山県有朋閣下への根回しをお願いしたい。他の元老は私がする」

「分かりました」

 海兵隊は貧乏くじか、林元帥は内心でため息を吐いた。

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