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第1章ー3

崖を転がり落ちるように欧州情勢は急激に悪化します。

 サラエボ事件勃発当初は、世界中の誰1人、世界の緊張がここまで高まるとは考えていなかった。

 だが、各国の思惑の差がここまでの緊張を引き起こしてしまった。


 墺帝国は従前の情報から皇太子暗殺の背後にはセルビア政府内の過激派が潜んでいることを承知していた。

 今回の暗殺事件は、セルビア政府を軍事的恫喝により屈服させるいい口実になる。

 だが、セルビアの背後には露がいる。

 そうなると独の支持が必要不可欠である。


 7月初め、墺外務省は独に今回の件について独が自国を支持するのかの確認を行った。

 ここで、独は皇帝が軽佻極まりない判断をした。

 独は墺を全面的に支持するとある意味で白紙委任状を与えてしまったのである。


 確かに他国の皇族を政府機関の一部が暴走して暗殺することが許されないことは当然である。

 だからといって、ものには限度と言うものがある。

 独は墺にある程度はクギを刺しておくべきだった。

 セルビアへの最後通牒の内容について事前連絡を求めるとか、幾らでもその時ならば、まだ手は打てた。


 墺は独の白紙委任状を手に入れて、早速、セルビアに対する最後通牒を準備した。

 だが、7月22日まで墺軍の一部は援農のために休暇に入っていた。

 そのために最後通牒の通知は7月23日までずれこんだ。

 さすがに1月近く経つと各国も頭が冷えている。


 墺がセルビアに対して突きつけた内容は同盟国の独でさえ、驚愕する代物だった。

 そして、英仏露はそれを独も承知しているものとみなした。

 欧州列強は慌てふためくことになった。

 急に世界戦争の危険が高まったのだ。

 セルビアは墺の要求を全面受諾はできないだろう。

 それはセルビアにとって憲法違反の内容であり、国の主権を侵害する内容を含むからだ。

 墺も(本当は事前には知らなかったが)独も世界大戦を望んでいるのだ。

 英仏露等はそう判断し総動員を検討しだした。


 墺はそんなことになるとは全く思わなかった。

 墺外務省は独の白紙委任状があることで安心し、セルビアとの限定戦争にしかならないと思い込んでいた。

 英仏露が世界大戦の危険があると言っても、耳を塞いだ。

 単なる脅しだ、独が守ってくれる。

 総動員による睨み合いが起こるかもしれないが、露も小国のセルビアのために独墺と全面戦争までの決意はできまい。


 独は世界大戦を覚悟した。

 露仏の総動員が完結して睨み合いになっては、独墺の国力では最終的には敗北してしまう。

 露仏の総動員が完結する前、露仏どちらかの総動員が発令された段階で独も直ちに総動員を開始して、速やかにベルギーに侵攻し、まずは仏を打倒、続けて露を打倒するしかない。

 ベルギーに侵入することで英が参戦するかもしれないが、そうするしか独に勝算は無い。


 吉松軍令部第4部長は、欧州各国首脳部の7月24日段階での政治判断についてはまだ把握していなかったが、独が墺に白紙委任状を出していたことから、墺が最後通牒で暴走する可能性大と判断し、そのように林元帥に分析して説明した。


「墺はセルビアと戦争をするつもりなら、すぐに皇太子暗殺直後に総動員をして戦争をした方が良かったのではないかね。折角、皇太子が都合よく殺されてくれたのに」

 林元帥は世界大戦を眼前に控えて皮肉を言った。


 吉松部長は、林元帥の口調にヤクザの鉄砲玉のように扱われた墺皇太子に対する深い哀悼の念が裏に込められていることを感じた。

 墺皇太子夫妻の葬儀に墺帝国の皇族は誰一人参列しなかったが、墺帝国内では皇帝から庶民までそれを当然とみなしたという。

「確かに墺がセルビアとだけ戦争をするつもりなら、そうすべきでした。しかし、今や世界大戦が間近に迫っています」

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