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エピローグー5

 土方勇志少将は、欧州派遣軍の忘年会が終わった後、1人で物思いにふけった。宿舎の寝床に寝転がり、眠気が来るのを待っているのだが、中々眠気が襲ってこない。


「土方提督」大恩人の林忠崇元帥が涙ぐんでいるのを見て、自分が声を掛けたところ、いきなり林元帥から敬礼されつつ、そう声を掛けられたのには自分のみならず周囲も驚いた。会場全体が一瞬、静寂に包まれてしまった程だ。その後、酔いが回っていた林元帥から、自分に対して思わず敬礼した経緯について弁明を聞かされたが、自分はそんなに父に似ているのか。もし、父が生きていたら、この世界大戦の戦場をどのように思うだろうか。父が知らなかった兵器が多々あり、しかも大活躍している。毒ガス等、父が戦場で実際に使われていることを知ったなら怒るであろう兵器まである。本当にどこまで戦場は変化していくのだろうか、自分はついていけるだろうか。少なくとも林元帥はついていっており、自分からすれば名将であり続けている。自分もそれについていかなければ、父の名を辱めることになる。つい先日、少将昇任の辞令を自分は受けた。併せて柴五郎中将の後任として、第1海兵師団長の辞令も受けている。父と同格にまで昇進したのだ。父に負けるわけにはいかない。だが、父は偉大な存在だ。母のみならず、斎藤一提督や島田魁、永倉新八といったかつての新選組の仲間からも、自分は父の話を何度も聞いたが、父には勝てないと思わされることばかりだった。


 それにしても、林元帥が寂寥感に襲われるのも無理はない。斎藤一提督や永倉新八さんも一昨年にとうとう物故された。新選組については、西南戦争の抜刀隊経験者も新選組の一員であるという考えと戊辰戦争に参加した者に限るべきだという考えがあるらしいが(ちなみに斎藤一提督や永倉新八さんらはどうでもいいと考えていたらしく、共に戦友ではないか、と一言、言われるだけで、それ以上は決して自分に語ろうとはされなかった。)、戊辰戦争に参加した者に限るならば、私が知る限り、全員があの世に赴かれてしまった。西南戦争の抜刀隊経験者にしても、自分が顔まで存じ上げているのは林元帥だけだ。新選組もそれだけ過去の存在になってしまったのだ。そして、自分の下に届いた手紙の内容について、土方勇志は更に思い返してしまった。


 土方歳一、偉大な父にあやかろうと、自分は最初に生まれた長男にそう名付けた。長男は自分が日清戦争に出征している真っ最中に生まれたのだ。長男は自分の期待通りに文武両道共に鍛え上げられ、海軍兵学校第44期生として江田島の海軍兵学校に入学して無事に卒業、海兵隊士官に任官した。そして、ここ欧州に海兵隊少尉として赴くことになったという。とうとう親子三代の海兵隊士官になったか。息子はどんな海兵隊士官に育つのだろうか。そして、息子はどんな戦場を歩むのだろうか。今の自分では想像が及ばない戦場を歩むのではないだろうか。その戦場はどのような臭いをしているのだろうか。目の前の世界大戦にしても、この世界大戦の結果として露では大革命が起こり、崩壊することなど自分には思いもよらなかった露帝国が崩壊してしまった。その一方で、米国が本格的に自分達の味方として参戦する等、大幅な戦況の変化が起こっている。本当に思いもよらないことが起こるものだ、土方勇志は更に想いを巡らせた。


 それにしても海軍兵学校の教え子を自分はこの戦場でどれだけ失うのだろう。卒業式に唯一立ち会った第41期生は半分近くが戦死した。来年には半数を超えるだろう。土方勇志は悶々として中々寝付けなかった。 

 これで第3部は完結です。

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