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エピローグー1

エピローグの開始です。全て1917年の12月下旬が舞台になります。

 1917年12月下旬、陸軍省に勤務しているヘンリー・モーズリーは、恩師のラザフォード博士をクリスマス休暇を利用して訪ねていた。

「お久しぶりです」

「よく来てくれた。ガリポリからよくぞ生きて帰ってきてくれた」

「その科白は、去年も聞きましたよ」

「いや、ガリポリから帰ってきた後、本国勤務が続いていてよかった。もし、ガリポリで君を失っていたら我が国にとってかけがえのない人材を失うことになっていた」ラザフォード博士は落涙していた。

「サムライのおかげですよ」モーズリーは笑って言った。

「去年も言いましたけどね」

「はは、ま、一杯やろうか」ラザフォード博士は弟子のモーズリーに酒を勧めて、歓談することにした。


「本当にこの戦争はいつ終わるかな」ラザフォード博士は弟子に問いかけた。

「露で革命騒動が起きて戦争から脱落しましたが、米が参戦してくれました。来年中にはこの戦争が終わると思いたいですな。そういえば、日本のサムライは獅子奮迅の活躍をしていますな。全く伊では使いこなせなかったみたいです」

「そういえば聞いたか。デイリー・ミラーが、伊陸軍士官は江田島に留学した方がいい、と記事に書いたので、伊の駐英士官が抗議した。そうしたら、真実を書いて何が悪いと(ロンドン)タイムズまで取り上げたらしいな」

「ええ、陸軍省内では爆笑の嵐でしたよ。確かに真実だとね」モーズリーも笑った。江田島は日本の海軍兵学校のある場所である。陸軍士官が海軍士官学校での再教育が必要とされては笑われて当然だ。だが、今年のカポレット=チロル、一昨年のガリポリと江田島出身者が士官の大半を占める日本海兵隊は戦果を挙げ続けており、英陸軍省内でもデイリー・ミラーは真実を書いているという意見が大半だった。そういえば、ガリポリで会った海兵隊の大田と言う士官はまだ生きているだろうか、モーズリーは懐旧の情がわいた。


 大田実中尉は、その頃、マルセイユの酒場で同期の草鹿龍之介中尉らと酒を酌み交わしていた。

「トレントの灯りが見えていたらしいな。いっそのことトレント市を占領すればよかったのに」

「いや、伊軍の面子をこれ以上潰すわけには」草鹿中尉の煽りに、大田中尉は笑って返したが、内心は全く違うのが表情から丸わかりだ。大田中尉としては伊軍の面子をもっと潰してもよかったのでは、とさえ思っている。

「それにしても江田島の同期会は寂しくなる一方だな。海でも何人か戦死してしまった」酒が入って涙もろくなったのか、涙を少し浮かべながら、草鹿中尉はぽつんと言った。

「そうですね」大田中尉は相槌を打った。海兵隊を志願した海軍兵学校の同期生での生き残りは自分だけ、海軍航空隊編制のために移動させられた海軍本体の関係者も青木を皮切りに何人も亡くなっている。そして、とうとう艦隊勤務の者も独墺の潜水艦攻撃の前に何人かが戦死したと聞く羽目になった。自分自身が怖くて、本当に何人が死んだのか調べていないが、同期生で生き残っているのは半数を何とか超えるくらいにまで減っているのではないか、大田中尉はふと思った。

「これ以上、同期生の戦死の報を聞きたくないものだが、まだ戦争が続いている以上、聞かざるを得ないのだろうな。本当に何人が生き延びて終戦を迎えられるのだろうな」マールを呑んでみたいと言って、草鹿中尉は呑んだのだが、思ったよりきつかったらしい。草鹿中尉の酒はかなり回っていた。海軍航空隊のトップエースにはとても見えない。

「生き延びましょう。何としても」そう言って、大田中尉は草鹿中尉に半分肩を貸して酒場を出ることにした。

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