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第4章ー14

 11月9日、陸軍航空隊司令官の福田雅太郎中将は、航空隊が被った損害の累積結果に顔色を少しずつ変えつつあった。頭で理解していたのと、実際に損害を被るのとではやはり衝撃が違う。地上部隊への物資投下や地上部隊の攻撃は航空隊の損害を累積させる公算が高いことは、ヴェルダン要塞攻防戦での海軍航空隊の戦訓や英仏からの情報提供によって、自分も知ってはいた。だが、自分の心の片隅では陸軍航空隊はそんなに被害を被らなくても済むのではないか、と希望的観測を抱いていた。だが、現実は少しずつとはいえ損害が累積しつつある。海軍航空隊を率いる山下源太郎中将はヴェルダン要塞攻防戦の経験から平然としているらしいが、自分は耐えられるだろうか。そして、今後にこの戦訓を本国にきちんと伝えなくては、福田中将はあらためて決意した。福田中将の目の前の報告書には、カポレット=チロル攻勢が始まって以来、全体の2割近くの操縦員が失われた旨が記載されていた。半月で2割、50名以上の操縦員が失われる。これが現在の航空消耗戦なのか、操縦員を育てるのに最低3月、できたら半年掛かるのに、福田中将は目の前が少しずつ暗くなるのを覚えていた。


 一方の地上部隊、海兵隊は元気旺盛だった。撤退を開始した独墺軍を袋叩きにしてくれる、その意気込みにほぼ全員が逸っていた。それにはこれまでの戦闘で帰らぬ人になった戦友等の復讐という側面もあった。

「欧州に来るまで、毒ガスというのが、こんなに汚い戦術とは知らなかった」山下奉文大尉は言った。

「皮膚すら侵すマスタードガスの使用、ガスマスクを外させて、敵兵を死傷させるためにくしゃみガスとホスゲンを併用する等々、効果的な戦術なのは確かだが、こんな戦術は認められんと林忠崇元帥や秋山好古大将が言うのも最もだ。こんな戦術で靖国に赴いた部下のためにも独墺軍を叩きのめしてくれる」

 山下大尉の檄に大田実中尉や牛島満中尉も肯いた。その思いを他の海兵隊の面々の多くも共有していた。その勢いから、海兵隊は攻勢が始まる前の戦線よりも進撃し、トレント市街を一部の部隊が望めるまでに反撃が成功したが、損害が累積したことや山間部の補給の困難からそこで反撃は中止となった。


「やっと日本軍は追撃を止めてくれたか」11月15日にロンメル中尉はトレント市に何とか部下をとりまとめて、たどり着くことに成功していた、日本軍の追撃は急で、航空攻撃も熾烈だった。自分より先任の士官は次々と戦死又は負傷して部隊の指揮を執れなくなっていき、気が付けば所属する大隊の最先任士官として自分は大隊の指揮を執るようになっていた。更に連隊でも第2位の士官として事実上の副連隊長を務めてもいた。師団の最先鋒を務めていた自分の所属大隊の兵の8割を何とかトレント市街まで生きて撤退させることに成功した自分を師団長は激賞して、受勲を約束してくれたが、ロンメル中尉としては何とも受勲理由が不本意なものに思えてならなかった。

「そりゃ、部下を生還させたというのが功績なのは認めるがな」ロンメル中尉は周囲に誰もいないのを確認した上で一人でぼやいた。

「自分としては大量の捕虜を得たとか、そういう戦果を挙げることを夢見ていたんや。それが、部隊全体では戦果を挙げられずに、攻勢に出たはずが、敗走する羽目になって、それなのに受勲できるやなんて、敗北を糊塗したようにしか思えんやないか」ロンメル中尉はぼやくうちに、段々と自分の感情が激して涙が溢れるのを覚えた。

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