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第4章ー6

 林忠崇元帥は、ローマの伊軍総司令部を直接訪問してまで、独軍の反攻の危険を警告したが、伊軍は聞く耳を持たなかった。実際、東部戦線が安全になった以上、まずは攻勢に立った場合には仏首都パリを目指せるなり、守勢に立った場合には独本土を護るなりすることができる西部戦線に独軍はまずは東部戦線の兵力を向けるはずではないかと言う伊軍総司令部の主張は当然すぎるくらい当然の主張だった。だが、歴戦の軍人である林元帥の嗅覚は違った。伊軍総司令部の軍人がそう主張すればするほど、逆に自分の考えが正しいと、その嗅覚は警告を発した。林元帥は何とか伊軍総司令部を説得しようとした。

 だが、伊の攻撃防衛の最高指揮権は、伊軍総司令部が持っている。押し問答を林元帥と伊軍総司令部は繰り返したが、最終的に、黄色人種の日本人は単独では白人に対抗できないから、チロル方面の防衛を日本海兵隊は拒否するのだろうと面と向かって伊軍総司令部の軍人多数が林元帥を侮辱するようになっては、林元帥も憤然として、

「それではチロル方面は日本海兵隊が守備を担当します」と啖呵を切らざるを得なかった。それに対して、黄色い猿が何を言っていると伊軍の軍人多数が冷笑して林元帥を追い返したが、その冷笑は年内に豹変する羽目になった。


「済まん。さすがに我慢できなかった」欧州派遣軍総司令部で総司令部の面々を前にして、林元帥は事の経緯を説明した後で頭を下げたが、秋山好古総参謀長以下の面々は、林元帥に同情する前に激昂した。

「林元帥を侮辱するにも程がある」秋山総参謀長が口火を切った。

「そこまで、林元帥を侮辱するなら、ローマに日本海兵隊を進撃させてやる。伊軍に阻止できるのか」たまたま総司令部にいた柴五郎第1海兵師団長が秋山総参謀長に同調して発言した。

「いや、伊首相官邸や国会議事堂を日本陸海軍航空隊総力で爆撃して更地にしてやる」山下源太郎海軍航空隊総司令官が言った。その横では、福田雅太郎陸軍航空隊総司令官もその言葉に肯いている。さすがに林元帥が止めに入った。

「落ち着け、年内に結果は出る」

「年内にですか」山下中将が首をひねった。

「独軍が西部戦線を目指したがっているのは本当だろう。わしもそう思う。だが、その前に墺を延命させる必要がある。伊を休戦に追い込めば、墺はまずは安泰になる」林元帥の言葉に、他の面々も肯いた。確かに伊が休戦に応ずれば、墺はまずは安泰になるだろう。

「その両方の目的を果たすためには短期間で墺伊間の戦闘を墺側の勝利で終わらせねばならない。わしの推測だが、独墺軍は協働してイストリア方面で反攻に転じ、タグリアメント川からピアヴェ川へと進軍を図る筈だ。これに成功すれば、伊軍の主力を崩壊させることが出来、伊の国民の抗戦意欲も失わせてしまうだろうからな」林元帥の言葉に横で秋山総参謀長らも肯いた。

「そして、米陸軍の大兵力が来年の夏には来るだろうからな。それらを考えあわせると、独軍はこの秋に伊戦線で攻撃を行い、伊をこの戦争から脱落させた後、来年の春に西部戦線で大攻撃を行って乾坤一擲の勝利を掴もうとするはずだ」林元帥は、これまでの情報分析から得た自分の考えを皆に伝えた。

「確かに独が最終的な勝利を得ようとするならば、それが最善の方策だと私も考えます」秋山総参謀長は言った。

「そこでだ」林元帥は言った。

「チロル方面に我々海兵隊は移動するが、これに協調して陸海軍航空隊はできうる限り航空偵察任務に努めてくれ」

「独墺軍の攻勢の兆候をつかむためですな」山下中将が言った。

「そうだ。我々はそれを迎撃して勝つ」林元帥は断言した。

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