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第4章ー5

 林忠崇元帥は、露での革命の流れの早さに脅威を覚えると共に、参戦後の米国に対してできる限りの便宜を与えようと試みた。露で革命が起こり、事実上、露が世界大戦から脱落するのと引き換えるように4月6日に米国が独に宣戦を布告したのである。この情報を得た林元帥は、表裏一体の工作を米国に対して行った。外務省や海軍省を経由した表、鈴木商店以下の民間等を活用した裏、こういった工作によって、米国からの物資等の援助を日本に少しでも得ようと林元帥は必死になった。何しろ1914年の参戦から3年が経とうとしている。最早、日本海軍の継戦能力は限界に達しようとしていた。海軍本体の出身である山下源太郎中将や八代六郎中将らは林元帥のこの動きは、日本の国益を最終的に損なうのではないかと危惧したが(この背景には東郷平八郎元帥の意向があった。日本と米国は何れは戦争をせざるを得ない。そのために日米対等の海軍力が必要不可欠と東郷元帥は獅子吼しており、山下中将や八代中将は海軍の大御所と言える東郷元帥の意向を無視できなかった。)、それなら米国の支援無しに海軍本体は世界大戦を戦い抜けるのかと林元帥に皮肉交じりに言われては、最終的に沈黙せざるを得なかった。さすがに米国と言えど、日本に援助を求められたからと言って、すぐには日本に援助をできなかった。だが、この工作は1年後に大きな果実を日本にもたらすことになる。


「やはり、露は持たないか」1917年8月、林元帥は、欧州派遣軍参謀次長に転じた吉松茂太郎中将の報告書に目を通した後に考え込んだ。吉松中将は林元帥に改めて口頭でも説明した。

「もう、どうにもなりません。先月の戦いで露軍は最終的に崩壊しました。師団単位で戦線から離脱を露軍は始めています」

「そうか。どうにもならないか」林元帥は肩を落とした。

 1917年7月、露軍の最期の攻勢は開始された。この攻勢は当初は成功しているようで、30キロも露軍は前進した。だが、それは独軍の罠に自分から飛び込んだだけだった。独軍の「後手からの一撃」であっという間に露軍は崩壊した。露軍を前進させることで、補給拠点から露軍を切り離す。そして、補給切れでボロボロになった露軍に独軍は一撃を加える。革命騒動でずたずたの露軍が前進しても補給が届くことは無い。何故なら兵站を担う後方部隊程、戦意が低下しており危険な前線に補給を届けようとしないからだ。そして、何とか戦意を保っていた前線部隊も補給切れと独軍の逆襲の相乗効果で崩壊するはずという独軍の目論見は、その通りに、いやそれ以上に露軍に効果を発揮してしまった。独軍が露軍を崩壊させた後に前進していないのは、単に補給の問題からに過ぎない。

「東部戦線が事実上なくなった独軍は西部戦線や伊戦線に部隊を転用してくるでしょう。その部隊を活用した攻撃を警戒すべきです」吉松中将は林元帥に警告した。

「確かにそうだな」林元帥は肯いた。

「伊軍は自分たちが優勢であるとして、引き抜ける限りの部隊をイストリア方面に向けようとしています。チロル方面は我々に任せたいという話があったと思いますが」

「うむ、確かに伊軍総司令部からそういう話がわしに来ている」吉松中将の問いかけを林中将は肯定した。

「その話は危険です。イストリア方面で独軍が加わって墺軍が大反攻に転じた場合の予備部隊が無くなります。今は我々、日本海兵隊が予備部隊として使えますが、それが無くなっては」吉松中将はそこで言葉を切って、林元帥を見据えた。

「分かった。わしから伊軍総司令部に警告を出そう。だが、聞いてくれるかな」林元帥は言った。伊軍は無警戒だ。

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