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第4章ー1 カポレット=チロル

第4章の開始です。北イタリアに海兵隊や海軍航空隊は移動し、陸軍の士官や下士官も応援に駆け付けます。

 秋山好古陸軍大将(海兵隊出向の代償措置として1階級特進)以下の陸軍士官、下士官団が北伊の海兵隊や海軍航空隊駐屯地に続々とたどり着いたのは1917年の春になっていた。秋山大将は欧州派遣軍総司令部を早速、尋ねることにしたが、その場所に仰天した。


「何で、ここヴェネチアに総司令部を置いたのですか」秋山大将は、開口一番に林忠崇元帥に尋ねた。

「いやあ、海兵隊なのを忘れそうなので、伊政府に総司令部をここに置いていいか、と尋ねたら、快諾されたのでな」林元帥は快活に笑った。

「陸軍出身の私は落ち着きません。第一、馬に乗れないではありませんか」

「そういえば、騎兵科出身だったな」

「他人事だからと言って流さないでください」さすがに秋山大将も突っ込んだ。

「こんなろくに歩くこともできない場所に総司令部を置くことは無いではありませんか」

「しかし、人は住んでいる。ずっとな。しかも大都会だ」林元帥は言った。

「そういえば、そうですが」林元帥にいなされている内に秋山大将も落ち着いてきた。

「それに、ここならば戦場の空気が読みやすい。何しろ多少なりとも戦線が近いからな」戦線と言う言葉に秋山大将は反応した。

「戦況はどうなのです」秋山大将は歴戦の軍人の顔つきで尋ねた。

「二流、三流同士の戦いだ。何とか伊が墺を押し込んではいるがな。地勢の影響があるから、進撃が遅々として進まないのは分かるが。伊軍は戦争が下手だ。ローマ共和国、帝国の軍団兵が現在の伊軍の体たらくを見たら、これが自分達の末裔の姿かと泣くのが間違いない有様だ」林元帥は辛辣に伊戦線の状況を評した後に続けた。

「それで督戦というか、お目付け役として自分たち海兵隊が派遣されたわけだ。それにしてもアルプスの麓で戦う羽目になるとはな。海兵隊は山岳部隊ではないのだが。それもあって、思い切り海に近しい、ヴェネチアに総司令部を置いたわけだ」林元帥は言った。実際問題として、欧州派遣軍総司令部は陸上部隊、海上部隊、航空部隊の統括司令部である。日露戦争時の満州軍総司令部より、指揮する部隊の規模は小さくとも範囲は圧倒的に大きい。司令部は独立して設置する必要があった。そして、林元帥が目を付けたのが、ここヴェネチアだった。ここならば、陸上の戦線から自分としては程よく離れているし、海軍本体も歓迎するだろう。ここヴェネチアは、かつて地中海の女王と謳われた海の共和国があった場所だ。伊政府の反応が気になったが、伊政府は総司令部を置くだけなら構わないと言ってくれた。林元帥は、ここで部隊の再編に夏までかけるつもりだった。夏以降、伊軍の尻を叩き、ウィーンを目指してやる。


 同じ頃、牟田口廉也中尉はアルプスの麓で山岳部隊の特訓を受けていた。俺たちは、海兵隊に出向してきたはずではないのか、それなのに何で山岳部隊の特訓を受けているのだろう、牟田口中尉は疑問を覚えたが、そんな疑問を口に出せる雰囲気ではない。ザイルを使った登攀等のやり方、更に山中でのサバイバル技術、スキーのやり方等々、覚えないといけないことは幾らでもあった。更に教官の多くがフランス軍人なので、その点でも牟田口中尉は苦労する羽目になっていた。同期で共に出向してきた相沢三郎中尉に、牟田口中尉は訓練に励みながら、思わずぼやいた。

「何で補給もろくに届かない山の中で戦う訓練を受けねばならんのだ」

「それが軍人の仕事ですから、と割り切るしかないですな」相沢中尉も同様にぼやいた。

「軍人なら補給が大事なのが分からんといかんだろうに」牟田口中尉は更にぼやきながら、訓練に励んだ。

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