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幕間ー15

「陛下の大御心を煩わせることはやりたくありませんでしたが、止むを得ませんでした」斎藤実元海相は半分独り言を言った。

「陛下のお言葉が無ければ、陸軍は欧州派兵をしないだろうからな。大久保利通卿のようなことはしたくはなかったが」山本権兵衛前首相は斎藤元海相に声を掛けた。陸軍には何としても欧州派兵を決断してもらわねばならない。では、どうするか、2人で知恵を絞った末に止むを得ない手段として選んだのが、天皇陛下の心を動かすことだった。山本前首相も斎藤元海相も尊皇の心は篤い。だからこそやりたくはなかったのだが、他に陸軍に欧州派兵を決断させる手段はなかったのだ。斎藤元海相が発案し、山本前首相がこの手段の採用を決断したのだが、その際に、山本前首相は思わず幕末の頃、大久保卿らが天皇を玉呼ばわりして道具と半分みなしていたことを想起してしまった。非常手段だったな、本当に使いたくはなかった手段だったと山本前首相はあらためて思った。ちなみに天皇のお言葉は内々の話になっている。知っているのはあの場にいた6人以外には元老クラスのものだけだ。

「ともかく粛々と陸軍の士官、下士官の派遣を受け入れ、海兵隊等を再編制しましょう。後悔は戦争の後に幾らでもしましょう」斎藤元海相は吹っ切るように言った。山本前首相も肯いた。


 大庭柯公は、陸軍が海兵隊等再編制のために数千人規模の人員を海軍に派遣するという情報を手に入れていた。本当に世界大戦が終わるまでの一時的なものとはいえ、すごい規模だ。あれだけ欧州派兵に消極的だった陸軍が態度を急変させるとは、一体何があったのだろうか。大庭は懇意な情報源に片端から何故陸軍が欧州派兵について態度を急変したのか、その理由を尋ねているが、理由を知らないか、理由は知っているが絶対に話せないとの一点張りかのどちらかだった。まさか、天皇のお言葉でもあったのだろうか。大庭は首を振って考え込んだ。


 海軍次官の秋山真之少将を秋山好古陸軍中将が訪ねていた。

「執務中に失礼する」秋山中将は一声かけて次官室に入った。兄弟とはいえ、公務中である。秋山少将は敬礼して出迎えた。

「海軍式の敬礼はそうするのか。この年になって覚える羽目になるとは思わなかったな」秋山中将はぼやく様に言った。秋山少将は微笑みながら言った。

「大臣室に直接行って、辞令を受け取られてもよかったのでは」

「まあ、そうだが。お前と直接会って、腹蔵の無い会話をしたかった。わしを欧州派遣軍の総参謀長にするだと。寺内陸相に呼ばれて、海兵隊へ出向の辞令を受けたが、その際に海軍は欧州派遣軍の総参謀長にわしを任命するつもりだと言われてな。どうして、そういう話になったのか、話してもらえないか」

「欧州派遣軍の司令部に陸軍の将官をいれないわけにはいきませんからね。そして、林忠崇元帥と共に戦った経験があって、優秀な将官と言うことになると、兄上が最適と加藤友三郎海相は考えられました」秋山少将は丁寧に答えた。

「欧州の戦場では完全に騎兵が廃れているのに、騎兵科のわしを欧州に送り込むとは陸軍に対する嫌味かとまで思ったぞ」秋山中将は言った。

「そんなことはありません。それに騎兵科が何らかの原因で復活するかもしれませんよ」秋山少将は兄をなだめた。

「騎兵科の復活か。何か新兵器が出てきて、有効に活躍できるようにならないとだめだろうな。そんな時代が来ればいいな」秋山中将は言って、弟の目を見据えた後、海軍大臣室にあらためて向かった。

幕間の終わりです。次話からカポレット(チロル)編になります。

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