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プロローグー9

 草鹿龍之介と林忠崇の仕合です。

 片や、戊辰戦争以来の実戦経験を誇り、西南戦争の抜刀隊隊長を務め、義和団事件の際の義和団団員との死合、日露戦争時の露兵との死闘を経験し、西南戦争時に既に斎藤一や永倉新八といった新選組の猛者が一目置いた日本史上でも有数の実戦経験がある林忠崇と、山岡鉄舟の孫弟子にして後に一刀正伝無刀流4代宗家になる若き日の草鹿龍之介が仕合を行います。

「林元帥にイタズラを仕掛けようとした者は速やかに自首するように。

 既に犯人の目星は付いている」

 土方教頭からの指示は海軍兵学校内に速やかに広まった。


「どうする?」

「正直に話すしかないだろう。既にばれているみたいだし」

 草鹿龍之介は級友に尋ねられるとそう答えて、土方教頭の下に出頭した。


「何で仕掛けようとした」

「海兵隊最強と謳われる剣客にもどこか隙があるのではないか、と思いました」

 土方共闘の問いに草鹿は答えた。


「ふむ。わしにも隙がない訳ではない。だが、あんなに気勢を出していてはばれて当たり前だ」

 後ろからいきなり声がかかって草鹿は仰天した。

 振り向くと林元帥が傍にいる。

 いつの間に背後に、草鹿は戦慄した。


「おもしろいものを見せてやろう。卒業式の後で、腕に覚えのある者を7人連れて、剣道場に来い。当然、軍服姿でな」

 林元帥は言った。


「全員、好きな竹刀を持て。そして、わしと土方にかかってこい」

 林元帥が号令をかけた。

 剣道場には、海軍兵学校生の多くが見物に来ている。


「勝てるかな」

「勝てるに決まっている。8対2だぞ。土方教頭の腕は悪くはないが、俺たちと同じ程度だ。林元帥が強いと言っても限度がある」

「しかしな」

 草鹿たちは言葉を交わしあった。


 防具を付けず、軍服で戦う。

 多対多でだ。

 一方の参加者全員が参ったと言って、竹刀を捨てるまで仕合は続く。

 こんな形式の仕合は初めてだ。

 その戸惑いが8人に共有されていた。


「わしから行かせてもらうぞ」

 林元帥が気勢を発した。

 8人は、その気勢に呑みこまれた。

「1人は土方教頭を牽制しろ。残り7人で林元帥をまず倒す」

 草鹿は決断して、声をだした。


 下手に腕の覚えがある面々を集めたのがまずかったか、林元帥の気勢を直接感じてしまい、蛇に睨まれた蛙のように全員の動きが硬くなっている。

 草鹿は自らが林元帥の正面に立ち、残りの面々で林元帥を取り囲もうとした。


「ふむ」

 林元帥が更なる気勢を発した。

 たちまち、取り囲もうとする動きが鈍くなる。

 特に1人に至っては魅入られたようになって、林元帥が振り下ろした竹刀に自ら当たりに行こうとしだした。


「おい」

 草鹿が声を掛けるが、そいつの耳は今や聞こえていない。

 林元帥の竹刀はそいつの脳天に直撃し、当然、即座にそいつは昏倒して、竹刀を捨ててしまった。


「行け、行くしかないだろうが」

 周囲がはやし立てる。

 実際、それしか勝つ方法は無い。

 このまま行けば、林元帥の気勢に呑まれて1人ずつ倒されていく未来しか見えない。


 草鹿と残り6人は一斉に林元帥に襲い掛かろうとしたが、お互いの竹刀が邪魔になり、どうしても時間差のある攻撃になってしまう。

 林元帥は気配だけで攻撃を感じ取れるのか、完全に見えないはずの背中からの攻撃さえ、完全にかわし切ってしまう。

 そして、心理的にこちらが劣位になると土方教頭の竹刀も冴えわたりだした。


 草鹿が我に返ったのは、冷水を頭から掛けられ目覚めたことからで、気が付くと自分が両手に握っていたはずの竹刀は片付けられている。

「何があったのだ」

 草鹿は自分でも間抜けだと思ったが、半分自問自答した。

「全員、林元帥と土方教頭の竹刀を脳天に食らって気絶したのさ」

 大田実が呆れ返って言った。


「後、最低10年は修行して来い」

 林元帥は、草鹿以下の8人に言い渡した。

「それまで、わしは生きて待っているからな」

「分かりました」

 草鹿以下の8人は誓った。


 だが、第一次世界大戦の嵐は草鹿以外の7人の命を奪い、10年後に林元帥に誓いを果たせたのは草鹿だけだったのである。

 早熟の天才の草鹿龍之介と言えど、豊富な実戦経験がある林忠崇には未だ勝てなかったということで。

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