第9話
俺達は数日間旅をし、やっと次の街に到着した。門の近くは街の規模に似合わずかなり賑わっている。
「今度は追いかけられないよな……」
「どうだろうな」
俺達が街に入ろうとすると門番が俺達に声をかけてきた。
「レース参加者の方ですか?」
「レース?」
「ええ、この街名物なんですよ。ルールは簡単、この門から向こうの門までこのゼッケンをつけて走るだけです。参加費無料なので、是非参加して下さい」
「優勝賞品とかはあるのか?」
「ありますよ、豪華食料1ヶ月分です!」
「コソコソ……受けろ、ギージュ。もうあのスープは飽きたぞ、優勝賞品があれば美味いものがいっぱい食える」
「よし、参加するぜ」
ギージュは俺を抱きかかえレース参加者の集合場所に移動する。もちろんこれは俺の入れ知恵だ。ちなみにゼッケン番号は23番だ。
集合場所ではテンプレものの冒険者ギルドにいそうなチンピラが幅を利かせていた。チンピラは俺とギージュを見るとこちらにやって来る。
「お前さん、ガキを抱いたまま参加するなんて舐めてるじゃねぇか」
「別にいいだろ」
ギージュが反論する。
「兄貴! こんな舐めた奴に現実を見せてやってくださいよ!」
「おう! 3大会連続優勝の俺様の力を思い知らせてやる!」
うわ……こいつ負けフラグを自分からぶっ立ててやがる。
「おじさん、かませ?」
「んだとこのガキ! ぶち殺してやる!」
「うちの坊主に手を出したら、死ぬのはお前だぜ」
ギージュが凄みを効かせる。
「ヒ、ヒィッ! すいません!」
うわぁ。見かけによらず、気が弱いぞこいつ。
新たな集合場所名主がギージュになったところで、実行委員会らしき男がやって来る。
「さぁ、レースを始めましょう! 準備はいいですか? みなさんお気に入りの選手には賭けましたか?」
どうやらこのレースは賭けの対象になっているらしい。
「それでは……ヨーイ、ドン!」
男の掛け声と共に選手が一斉に走りだす。周囲に砂埃が舞い、大きな足音が鳴り響く。
「ボソッ。火よ、かの者に力を」
ファイアストレングスアザー
他者の身体能力を強化する応用下級火魔法。術者の魔力によって込められる魔力が変動し、魔力の強い術者ほど身体を強化することが出来る。呪文は「火よ、かの者に力を」である。
「えー大本命15番、ダントツの一位です!」
マイクがないのに声がここまで聞こえてくる。あの男、恐ろしい声の大きさだ。尚15番はあのチンピラだ。
「おおっと! だがここで23番がいきなりの加速! 速い! 速い! どんどん選手を抜き去り、15番に肉薄する! 子供を抱えながらもこの速度! すごい! すごいぞ23番!」
そりゃそうだ。不正してる上にギージュの身体能力はそんじょそこらの一般人とは比べるべくもない。俺がいなくてもギージュは簡単にトップを取れただろう。
「ヒ、ヒイッ! お許しください!」
「なんだかわかんねぇが、抜かせてもらうぜ!」
ギージュがチンピラを抜かすと、横の路地から白い創美に身を包んだ兵士たちがやって来る。教団兵だ!
「待て! 背教者共!」
「おおっと! 教団兵が乱入か!? 23番はお尋ね者だったようです! さすがお尋ね者! 逃げ足が速い!」
結局こうなるのかよ! だが鍛えているとはいえ教団兵はタダの人間! 俺達が追いつかれるはずがない! ふと後ろを見ていた俺の目に12、3の少年が止まった。
「風よ、我に速度を」
ヘイスト
風を纏い、高速で移動することを可能にする魔法。呪文は「風よ、我に速度を」である。
!? 教団兵のはずの少年が、魔法を使った!?
「いけ、勇者様! 背教者を消し去るのです!」
ものすごい勢いで追い付いてくる勇者と呼ばれた少年。手には明らかに魔力の篭った剣を持っている。まずいぞ。これはまずい。さすがのギージュでも俺を抱えたまま逃げつつ魔法戦士と戦うのは分が悪い! 糞、何がどうなってやがる!?
「強大な魔力を持った小さき子。君を生かしておくわけには行かないんだ。さようなら。炎の渦よ、我が敵へ」