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第8話

 朝が来て、俺達は歩きだした。


「なぁ、この道遠回りじゃないか? 進むべき方向はあっちだろ?」

「湖があるんだから当たり前だぜ、人は大自然には逆らえないからな」


 今俺達が進んでいる道は湖を迂回する形になっており、かなりの大回りだ。追手に追われている今この道が真っ直ぐだったらなと考えてしまうのは道理だろう。とここで、俺に名案が閃いた。


「水よ、凍り付け!」


 フリーズ

 水を凍らせる魔法である。呪文は「水よ、氷付け」である。


「おいおい、何をするつも……うおっ!」


 湖の水が一直線に凍りついていく。


「よし、これで渡れるな。」


 我ながら天才だ。このショートカットで追手を大幅に引き離すことが出来る。


「本当に大丈夫なのか? 割れたりしたら濡れるぞ。」

「大丈夫だって」


 俺が先に歩き始め、ギージュが後から着いてくる。

 湖の半分ほど進んだ頃だった、


「うわっ……水面から、魚の背びれが見えるぞ……」

「まずい! ホボザメだ! 背びれは魚だが、残りは人食いザメだぜ!」

「ま、まぁ落ちなければいいんだろ、落ちなければ。気をつけようぜ」


 さすが異世界、こんな意味不明な生物がいるなんてファンタジーだぜ。ファンタジーだけど。


 数分が経った。


 水面には魚の背びれの他にもサメの背びれらしき物も見える。


「なぁ、あれは何なんだ?」

「あれはモロザメの背びれだな」

「普通のサメとは何が違うんだ?」

「骨と身と皮と鰭はおんなじだぜ」

「それって相違点なしってことか?」

「……そうだ」

「誰だよ命名した奴は!」


 さらに数分が経った。


 ピシッ……ピシッ……


「なぁ、なにか聞こえないか?」


 ギージュが聞いてくる。


「いや? 何も?」


 ピシピシッ……ピシピシッ……


「明らかに、聞こえるだろう!」

「ナンノコトカナ〜」


 ピシピシッ……バキッ!

 俺達は湖に落下する。


「だから言ったじゃねぇか!!!」

「すま……ゴボッガボガボ!」


 モロザメとホボザメの集団が迫ってくる! 水中では詠唱ができない! 大ピンチだ!

 ここで役に立ったのがギージュだ。腰に差していた曲刀を振り回すと鮮血が舞い、サメが次々に三枚おろしになっていく。


「ヘルプ! ガボガボ…… ギージュ!」


 ギージュが俺を抱き上げる。本当にこいつを拾っていてよかった。


「ガボッ! サンキューギージュ!」

「それよりあのサメ共を何とかしろ、埒が明かねぇぞ!」

「わーってる! 水の渦よ! 我が敵へ!」


 超威力の水流がサメたちを吹き飛ばす。


「さらにだ! 土の槍よ! 我が敵共に空から降り注げ! レインオブザスピアー!」


 レインオブザスピアー

 今考案した俺のオリジナル魔法。空から大量の土製の槍を降り注がせ、敵を一網打尽にする。


 全身に槍を突き刺され沈んでいくサメ達。俺の勝利だ!


「やったぜ!」

「そう、喜んでる場合じゃないと思うんだがな……」

「なんでだ? 大勝利じゃないか!」

「お前、俺達が湖の中心にいることを忘れてるんじゃないのか!?」

「そうだった!」


 結局俺はギージュに抱えられながらギージュの泳ぎによって湖を脱出することになった。総合時間は遠回りしたのとほとんど変わらなかった。


「くそっ……」

「坊主、俺がいなければ死んでたぞ? もっと俺に感謝してもいいと思うんだがな……」

「すまん、ありがとよ、ギージュ」

「いいってことよ。まぁちょっと今回はムカっとしたが、今までのと帳消しって形でいいだろ」

「そうか、これからはギージュに頭が上がらないな」


 寒い体を火魔法で暖めながら言う。


「おっ……俺にもその火球近づけてくれよ」

「いいぜ」

「あったけー! 生き返るぜ!」


 そんなことを話しながら歩いていると、俺は重大な忘れ物をしたことに気がついた。


「あっ!」

「何だ坊主?」

「フカヒレ取ってくるの忘れた! 美味いのにアレ!」

「フカヒレ……あっ! すっかり忘れてたぜ!」

「あれがあれば今夜はフカヒレスープだったのに!」

「ちくしょう! またいつものスープかよ!」


 今夜の晩飯はいつものよくわからない具材たっぷりのギージュ特製スープだった。俺達は半泣きになりながらそれを食べた。しかし不思議と二人共フカヒレについては言わなかった。そう、言うと惨めになるからだ。言わないのが二人の暗黙の了解になっていたのだ……

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