第7話
俺達は大勢の足音で目が覚めた。
「なんだ……」
「衛兵じゃ、ないだろうな?」
宿の扉が勢い良く開き、完全武装した兵士が入ってくる。
「死ね! 背教者め!」
「やっぱり衛兵じゃないか!」
「俺に任せろ!」
ギージュはそう言うと、枕元にあった曲刀を持ち兵士に向かって一振りした。
それだけで、兵士は急所を突かれたのか一撃で事切れた。
「すごいぜ、ギージュ」
「さぁ、窓から逃げるぜ」
窓の外には兵士がうじゃうじゃと立っている。
「どうする?」
「決まってる、全員死んでもらうぜ!」
ギージュは窓から飛び降りると、曲刀を縦横無尽に振り回す。するとバタバタと兵士が血を吹き出して倒れていく。
「アレン! 来い!」
「あ、ああ。風よ、我に天駆ける力を与え給え!」
スカイウォークで空を飛んだ俺は、ふわりと着地してギージュに合流する。
「逃げたぞ! 追え!」
「総員! 心してかかれ!」
追手がズンドコやって来る。俺達は前や横から来る追手を切り刻みつつ、街の門まで来た。
が、門は固く閉ざされており、門の前にバリゲートすら作ってある。
「坊主! 魔法でぶっ壊せないか!?」
「一応やってみるが、ダメかもしれんぞ! 炎の槍よ! 我が敵に!」
ファイアジャベリン、ウォータージャベリン、ウィンドジャベリン、アースジャベリン
ストーム系魔法の応用魔法である。本来広範囲に働くはずの力を一点に集中させ放つことで、威力を高めることが出来る。呪文は「〜の槍よ! 我が敵に!」である。
大爆発が起きる。やったか!? フラグだったか。どうやらだめだったようだ。バリゲートは崩れたが、何故か門には焦げ目がついただけだ。
そうこうしている間に追手がどんどん集まって俺達を囲んでいく。どうする? こんな時は……
『いいかいアレン。大勢の相手に囲まれたけど、極力相手を傷つけないでおきたい場合に使う魔法がある。それを教えよう。』
『でも、ババァ。敵に情けなんてかける必要があるのか?』
『いつか、きっとそういう機会が来るよ。本当はあんたに危ない目にあって欲しくないけど、あんたほどの力なら絶対にそうなる』
『そうか、なら教えてくれ!』
……そうか! オリィ婆さん!
「水よ、眠りの雲を現し給え」
スリープクラウド
周囲にいる術者が敵対的だとみなした相手に眠りを誘う、薄紅色の気体を周囲に充満させる。呪文は「水よ、眠りの雲を現し給え」である。
食らえ! スリープクラウド! 兵士共は全員眠りについた。
「うおっ……ほんとすげぇな、魔法ってやつは」
「俺がすごいんだがな」
「まぁいい。こいつらにとどめを刺すぞ」
「待ってくれ。今は寝てるんだ、いいじゃないか」
「だがこいつらが起きたら俺達を追ってくるのは明白だぜ?」
「……でも、だ」
「まぁいいさ、俺が眠らせたわけじゃないし、選ぶ権利はお前にある」
「ありがとよ、ギージュ」
門は数度のファイアジャベリンによって粉砕され、俺達は次の街へ逃げることが出来たのだった。
そして夜も暮れた頃、俺達は野営の準備を済ませ、焚き火を囲んでいた。
「今日のスープは美味いな。この野菜がいい味出してるぜ」
「その、なんだ。ありがとよ。俺の料理が褒められたのなんて、初めてだからな……」
「これからは、いつでも褒めてやるよ」
「へへっ……こりゃあこれからはもっと精進しなきゃな。こんな可愛い子供が俺の料理を美味いって言ってくれるんだものな。」
「中身は可愛くないがな」
「それを言っちゃあおしまいだぜ……確かに可愛くねぇな」
「そういや坊主、なんであの時衛兵共をぶっ殺さなかったんだ? 別に殺しの経験がないわけじゃないんだろ?」
「俺はな、オリィ婆さんっていう親しい人を殺しちまったんだ。俺が直接手にかけたわけじゃないんだがな。なぁ、人って殺す度に罪悪感が薄れていかないか?」
「そりゃあ、薄れるけどよ」
「俺はな、追手を殺すことが怖いんじゃないんだ。追手を殺すことでオリィ婆さんを殺してしまった罪悪感が薄れていくのが怖いんだよ。」
「分かるような、分からねぇような……まぁいいさ。それはお前がお前の中で解決するべきことだろう?」
「そうだな。俺は寝るぞ」
「おやすみ、アレン」
俺は日課の魔力訓練をしながら眠りに落ちる。オリィ婆さん……俺、頑張ってるよ。