第5話
衛兵は周囲を見渡しながら、道行く人々に金髪の小さな男の子を見なかったかと聞いている。3歳ぐらいで流暢な言葉をしゃべる……俺じゃねぇか! というか言葉に関する俺の偽装工作は意味がなかったようだぞ。
「すまん、俺のせいで」
「……まぁ、恨むことにするぜ」
ふとここで俺に名案がひらめいた!
「ギージュ、耳を貸せ」
「……なんだって!?」
「風よ、我に天駆ける力を与え給え!」
スカイウォーク
風を足元から噴射して空を飛ぶ中級魔法。靴などを履いていても効果は発揮される。呪文は「風よ、我に天駆ける力を与え給え」である。
だがこの魔法だけだとギージュは地上に置いて行かれ敢え無く御用となる。別に俺はそれでもいいのだが、少し後味が悪いのでギージュも連れて行くことにした。
「火よ、我に力を!」
ファイアストレングス
身体能力を強化する下級火魔法。術者の魔力によって込められる魔力が変動し、魔力の強い術者ほど身体を強化することが出来る。呪文は「火よ、我に力を」である。
俺の魔力でこれを使えばギージュぐらいなららくらく持ち上げて運ぶことが出来る。
「うぉぉぉぉ!」
暴れるギージュを抑えながら、俺は悠々と空を飛んで衛兵達の頭上を通りぬけ、見事南門の通過に成功した。
「やったぜ!」
「死ぬかと思った……魔法って、すごいんだな」
「まぁな、さぁ次の街へ行くぞ」
俺達は街道を進み始めた。
「とりあえず探知魔法を使うぞ、追手がいるかも知れないからな。風よ、我に敵を教え給え!」
ウィンドディテクション
周囲の生命体の大まかな位置を知ることの出来る魔法である。ただし種類はわからない。呪文は「風よ、我に敵を教え給え」である。
俺が探知魔法ウィンドディテクションを使うと藪の向こうに引っかかる奴がいる。
「ギージュ、向こうの藪の中に何かいるぞ。山賊かもしれん」
「坊主、まかせろ。敵だったら俺が仕留めてやるぜ」
ギージュが藪の中に入っていきしばらくすると、サーベルタイガーの死体を持ってくる。死体には傷ひとつなかった。
「追手でも山賊でもなかった、単なるサーベルタイガーだ」
「サーベルタイガーを無傷で持ってくるって、お前意外とすごいんだな」
「これでもプロの暗殺者だからな、背後から首を折れば一撃だぜ」
「そうだ、その死体、俺が魔法で保管しておくぞ」
「まさか、アイテムボックスの魔法を使えるのか?」
「ふっふっふ……開け、異次元への扉! アイテムボックス、オープン!」
最後のはいらない。
アイテムボックス
サーベルタイガーの死体
「おおっ……死体が消えた!」
「俺にかかればこの程度おちゃのこさいさいよ!」
俺達は歩き始めた。その後は特に障害もなく、しばらく道を進み日も暮れた頃、俺達は野営することになった。
「地面に直で寝るのはまずいぜ」
「そういう時は……大地よ、天の恵みを今ここに育て給え」
地面から大量の草が生えてくる。
「この上に寝ればいいだろ、下手なベッドより寝心地はいいはずだぞ」
「お前の魔法、ホント便利だぜ……」
寝る前に薪を取ってきた俺達は、焚き火でスープを作ることになった。調理役はギージュだ。
「薪を取ってくるついでに食える木の実や野草なんかを取ってきた。これで作るスープは絶品だぜ」
「暗殺者って料理も上手いんだな」
「そりゃあな。ターゲットを殺すまでに三日三晩飲まず食わずでもいいが、食事の調達をしたほうが成功率は上がる」
ギージュの30分クッキングのコーナー
まずはサーベルタイガーの肉を曲刀でカット、鍋に投入します。
色が変わってきたら、水を投入します。
そして食べられる大根状の何か(名称不明)を茹でます。
さらに食べられる野草(名称不明)を投入します
仕上げに食べられる木の実(名称不明)を投入して完成です!
お味はどうですか? ギージュさん?
「……ウプッ」
「どうした? ギージュ?」
「小便の味がする……前に作った時はしなかったから、サーベルタイガーの肉がやばいんだ……」
「小便の味とか言い過ぎだろ。食べてみるぞ……ウプッ」
「「オエエエエエーッ」」
汚料理は廃棄するまでが汚料理です☆
「はぁ……今夜の晩飯は、抜きだな」
「そうだな」
ギージュが相槌を打つ。
「さぁ、寝るか。正直子供の体だから、かなり眠たいんだ」
「ちゃんと寝ろよ、坊主。寝首をかいたりしないから安心するんだぜ」
ギージュは俺が安心して眠れるよう見張り番をしてくれるようだ。やっぱりこいつはいいやつだ。そう思いつつ俺は魔力の訓練をしながら眠りについた。