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第4話

 隣町であるラギアの街に俺は潜伏していた。幸い目立たない子供の姿であるため、今の所追手の姿はない。

 だが安心してはいられない。俺はエルスの街で怒りに任せ数人の衛兵を殺害している。そのような大罪人である俺を教団が見逃すとは思えないからだ。


 そもそも教団の教義とは何なのか? それを知るにはこの世界の成り立ちから知らなければならない。

 まず唯一神がいたらしい。その唯一神が寂しさの余り作ったのが自身の子供たちである神々と、この世界なんだそうだ。

 そこまではいいんだが、この作られた神々は力がほしい余り唯一神を集団で殺して力を奪おうとしちまったらしい。でも結局その力は魔力となり世界の人類に降り注ぎ、神々もまた力を得た人類にぶっ殺されてしまったらしいんだ。

 教団の教義ってのはこの唯一神ーーまぁ教団は主神って呼んでいるらしいがーーを殺しちまった神々とそれを殺しちまった人類にはとんでもない原罪があって、それが魔力という形で宿っているって事らしい。そんでまぁ魔力を使わずにいれば神々が復活するとか何とか。要するに魔力が全部悪い! って事だな。だから魔力を扱う魔法使いを迫害するんだ。全く馬鹿げた話だ。そもそも魔力は人類が神々を殺す前から人類に宿ってるじゃねぇか。どうせこれを指摘したって知らぬ存ぜぬだがな。


 とりあえず腹が減った。もちろん俺は金を持っていない。生ゴミでも漁るほか無いか。そう思い歩いていると前から衛兵がやって来た。まずい。俺はとっさに裏通りに隠れる。

 裏通りに隠れていると、後ろから気配がすることに気づいた。はっと後ろを振り返ると30を少し過ぎた程度の背の低い黒髪オールバックのおっさんが俺を睨んでいた。このおっさん、只者ではない。気配の隠し方が完璧すぎた。魔法で知覚を強化していなければ確実に見つけられなかっただろう。


「何だ坊主? 向こうへいけ」

「やだ!」

「しっ……大きい声を出すんじゃねぇ」


 どうやらこいつも衛兵から隠れているらしい。明らかに衛兵の方を注視しながら俺と会話していた。これは使えるかも知れないぞ。面倒な状況になったら、まとめてファイアストームで吹き飛ばすだけだ。


「おっさん……俺を雇わないか?」

「雇う?」

「指名手配者だろ、あんた」

「……」

「その様子だと図星だな。俺も指名手配者だ。仲間がいたほうが何かとやりやすいんじゃないか? 腕は立つぜ」

「坊主……冗談はよすんだな、さぁあっちへいけ」

「冗談じゃないさ。俺はこう見えても魔法使いだ。中級までなら使えるぞ」

「それなら見せてみろ。使えないんなら痛い目に遭わないうちにさっさとあっちへ行くんだな」


 普通こんなことを言われたら口封じを考えるが、このおっさんからは微塵もそんな気配を感じない。、指名手配者の癖に意外と良い奴のようだ。


「風の力を持ちし球よ、飛べ」


 おっさんは驚きながら俺のウィンドボールを躱す。


「あぶねぇじゃねぇか……まさか本当にこんなガキが指名手配犯だったとはな。いいぜ。俺はギージュ。プロの暗殺者だが、ヘマをしてな。少しの間だが、協力しようじゃねぇか。」

「ありがたい、俺はアレンだ。早速だが、もうだいぶ飯を食っていないんだ。一緒に飯屋でも行かないか? もちろんお前のおごりでな」

「お前、まさかそのためだけに俺を利用しようと……まぁいい。魔法使いの用心棒とは、心強いからな」


 俺とギージュは近くの定食屋に入った。


「ビッグサーモン定食を2つ。小皿も頼む」

「あいよっ! ビッグサーモン定食2つ!」


 ビッグサーモン定食は、大きな鮭の切り身と、固そうな黒パン、それにミルクの入った椀がセットでついてきて3G(ガル)だ。日本円で言うと300円くらいか。正直割高な気がする。

 ギージュは微笑ましそうな顔をしながら切り身を半分ほど小皿に切り分け、パンを半分に切って小皿に乗せて俺に渡した。


「ありがとよ、ギージュ」

「喋らなければ、かわいいんだがなぁ……」


 俺達は食事を取りながらこそこそと会話する。


「ギージュって暗殺者だろ? 人何人くらい殺したことあるんだ?」

「2本指で数えきれないくらいだな」

「俺まだひと桁だぜ……すごいな、それでよく性格曲がらないな」

「お前その年で殺人者か……恨み事を言われながら殺した相手がもっと多ければ性格も曲がったんだろうが、俺は暗殺者だぞ。寝ている間に殺したり、背後から首を切り落としたり……殺した感覚もクソもあったもんじゃないからな」

「そうか。で、なんでお前指名手配なんてされてるんだ? 俺はもちろん魔法使いだからだが」

「女房が浮気しててな。苛ついて斬り殺しちまった。感情に任せて殺っちまったもんだから、すぐ足がついてな。過去の罪状も一気に出ちまったもんで、捕まったらおしまいなんだよ」

「俺達、似た物同士かもな。俺も感情に任せて魔法を使っちまったんだ」

「そうか」


 話している間に俺達はまずかった定食を食べ終わり、街を出ることにした。


「俺はアルム王国に行くつもりだが、ギージュはどうなんだ?」

「俺はとりあえずほとぼりを冷ます。アルム王国か。この国とは仲が悪いから、逃げるには絶好の場所だな」


 俺達はアルム王国のある南門に向かって歩いていた、が。


「まずいな……」

「ああ、まずいぜ」


 南門の前には衛兵が複数立ちふさがっていた。

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