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第3話

 アイテムボックスの魔法を覚えてから数日が経った。


 オリィ婆さんの容態は日に日に悪くなる一方だ。治癒魔法も効かず、俺はどうしていいのかわからない。


「アレン、いいのさ。あたしはもう長くない。あんたがいてくれるだけで、救われるよ……」

「ババァ、弱音を吐くんじゃねぇ! まだ生きられるはずだ! あんたほどの魔法使いなら、中級と言わずもっとすごい魔法だって覚えられる!」

「アレン……私はね、もういいんだよ。上級魔法の夢は、あんたに託すさ。」

「ババァ……いや、婆さん……」

「嫌だねぇ、照れくさいじゃないか……ガハッ」

「しっかりしろ! 俺が上級魔法を覚えたら、あんたにも教えてやるよ!」

「いや、それまでに私が生きている確証なんて無いさ。それにあんたにこの国は合ってない。他の国で、平和に暮らすんだ。いいね?」


 突然、俺達の会話を地下室の上から聞こえてきた声が遮った。


「本屋オリィ! お前は神聖なる神の名の下に生きながら、禁忌となる魔法を使った! よって即刻死刑である!」


 衛兵だ! 何故俺達が魔法使いなのがバレたんだ!?


「アレン! 逃げなさい! 隣国のアルム王国なら、魔法使いでも受け入れてくれるはずだ! アルム王国の魔法学院を尋ねるんだ!」


 そう言ってオリィ婆さんは地上へ出る。老い先短い体に鞭打って、だ。


「炎の渦よ! 我が敵へ!」


 ファイアストーム、ウォーターボルテックス、ウィンドストーム、サンドストーム

 元素の力を持った渦を発射する魔術。中級魔法の中では基礎的な攻撃魔法である。呪文は「〜の渦よ、我が敵へ」である。


 オリィ婆さんのファイアストームが衛兵を焼いていく。燃える俺達の本屋。俺は婆さんが時間を稼いでいる間に本屋から脱出する。

 脱出するときに振り返った俺が見たものは、首を切り落とされ鮮血を吹き出すオリィ婆さんの体だった。


 俺は走った。オリィ婆さんを失った悲しみをこらえながら、必死に走った。そして“俺の生まれた”家に着く。俺の本当の家は、もはや無い。


「おかえり、アレン……どうしたの!? その煤!」


 俺の服には煤がついていたようだ。だがそんなことも気にせず、俺は涙をこらえながら自室の部屋に戻り、一人泣いた。オリィ婆さんは俺の命を護るために死んだんだ。俺が殺したんだ。そう思うと罪悪感で吐き気すらしてくる。悲しくて、悲しかった。


 そして夕食の時が来た。

 俺は悲しみを抑えながら両親と夕飯を食べる。味は、しなかった。幼い体が泣こうとするのを収めるのに必死だったからだろう。


「そういえばアレン、オリィ婆さんって本当に魔法使いだったのよ? 変なことされなかった?」

「されなかったよ……」

「魔法使いなんてろくでなし、死んだらいいのになぁ」

「死んだわよ、今晒し首になってるわ。ホント死んでよかったわ」

「そりゃあ良かった。なぁアレン、死んでよかったよな」

「ホントそうね。うちの子に何か変なことしてなければいいけど」


 狂ってる! 親しい人が死んで嬉しい奴がいるわけがない! 俺は激情に任せて魔法を使った。


「水の渦よ! 我が敵へ!」

「ま、魔法! 悪魔の子だぁぁ……」


 表へ吹き飛ばされ、流される両親。俺は急いで逃げる。悪魔の子? 知ったことか。前世の記憶を持っているからあながち間違ってもいないしな。もはや身体強化魔法を使うのに躊躇する必要はない、もはや俺が魔法使いなのはバレたも同然だろう。道を高速で走る俺を見た町の住人が悲鳴をあげるが、知ったことではない。オリィ婆さんを殺して笑う町の住人なんて死ねばいい。そう思いながら俺は晒し首のある町外れに向かった。

 町外れの衛兵の詰め所の前に、オリィ婆さんの首はあった。そしてそれを眺める見物客。本当にふざけている。怒髪天を衝いた俺の怒りの一撃が詰め所に向かう。


「炎の槍よ! 我が敵に!」


 ファイアジャベリンの魔法が衛兵に向かって飛んでいく。驚く衛兵達を、炎が包む。奴らが慌てている隙にオリィ婆さんの首を回収した俺は、それを抱えながらもう一発ファイアジャベリンを詰め所に行使。焼き殺されていく衛兵。ざまぁみろ。俺は町の外に向かって走っていった。


 俺は町の外の森に着いた。ここなら、もう追手はこないだろう。

 地面に穴を掘りオリィ婆さんの首を埋め、土魔法で墓石を作った。


 優しき人、オリィ。ここに眠る。


 ……終わった。俺のあの街での、楽しかった日々は。俺は墓石を一瞥した後走っていく。さらば、オリィ婆さん。目的地は、アルム王国魔法学院。俺の旅が、始まる。

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