第14話
アイラが母親代わりになった翌日。
ザーザー……
強い雨脚の中、俺達3人は雨具も無しに歩いて行く。3歳児な俺の体力が、限界を告げ始めていた。
「アレンちゃん、大丈夫?」
「らいじょーぶ……」
「しっかりしろ、アレン!」
これは幻覚なのか? 遠くに人影が複数いるように見える。その上馬車の影も……いや、現実だ!
「おかーさん、あれ!」
「馬車が止まってる……あれは、盗賊! 馬車の中の人は大丈夫かしら!」
「行くぞ、アレン!」
ギージュと俺が馬車に向かって近づいていく。無論俺は自力では走れないので、ファイアストレングスをこっそり唱えておいた。
馬車に近づいた俺達に気がついたらしき盗賊が、俺達に向かってやってくる。だが。
シャキン……
ギージュの曲刀の一閃が、盗賊を一刀両断する。
「水の球よ、飛べ!」
俺のウォーターボールが盗賊を弾き飛ばす。飛んでいった先には先回りしたギージュ。勢いを利用して首を難なく切り落とした。
逃げようとする盗賊たち。だがギージュと俺からは逃れられない。一人、一人と息の根を止められていく。そして盗賊は全滅した。
「アレンちゃん、魔法使えるのね。もしかしてギージュさんが旅に出た理由ってこれ?」
「そうだ。だがちゃんはいらないし、ギージュにもさんはいらないぞ」
「そう。しっかし、驚いた。突然アレンが大人みたいにしゃべりだすんだもの」
「皆最初は驚くんだ」
俺達が話している間にギージュが行商人らしき一行に話しかける。
「お前たち、大丈夫か?」
「は、はい。あなた方が盗賊を倒してくれたお陰です!」
「あ、ありがとうございます!」
「私達は旅の行商人なんです。 あなた方のお陰で積み荷も無事でした!」
「よ、良ければお礼をさせて下さい!」
「いいってことよ」
「いや、是非我々の野営に参加してください! 行き先は同じのはずですから!」
「ギージュ、参加しよう。うまい飯が食えるかもしれんぞ」
「それもそうだな、よし、参加するぜ!」
「ありがとうございます!」
結局俺達はその夜まで行商人と他愛もない話をしながら馬車に乗って街道を進み、野営することになった。
「いやぁ、自分たちで薪を集める必要も、食料を集める必要もないってのは素晴らしいぜ」
「まったくだね」
「そうか、今までギージュとアレンはそういう旅をしてきたのね……」
「皆さん、夕食の支度が出来ましたよ!」
「おおっ! 美味そうな匂いもするし、楽しみにしていたところだったぜ! うおーっ、食うぜ食うぜ!」
「ああっ!」
ギージュが鍋に腕を突っ込んで夕食のシチューを豪快につまみ食いする。
「……やっぱりな」
「ど、どうしたんです!?」
「お前ら、俺達に睡眠薬を盛るつもりだったんだろう? バレバレだぜ」
「な、何故バレた!?」
「お、おい! 言っちまっていいのかよ!」
「盗賊から助けた時から、場数に慣れたやつならどう考えたってお前らと盗賊がつながっていたと考える。お前らの瞳や言動には憎悪が詰まっていたからな」
「その上無理やり夕食を共にしようとしている時点で怪しかったんだ。もしかしてもしかすると夕食に毒が入ってないかも知れないと思ってギージュに同行を促したが、ハズレだったようだな。それに俺が魔法を使っているのを見て何も言わなかったのも不自然だ。あの世で演技を練習したほうがいいぞ」
「ガ、ガキが!?」
「というわけで、死んでもらうぜ。盗賊に襲われるふりをして強い相手を選別し、弱い相手なら襲って強い相手なら毒を盛る。その作戦自体は意外といいものだったが、残念ながら相手が悪かったようだぜ」
「ヒ、ヒイッ!」
恐怖を顔に浮かべながら一斉に襲い掛かってくる盗賊たち。しかしギージュの流れるような曲刀捌きが一人、一人と首を飛ばしていく。
「土の球よ、飛べ!」
さらに俺のアースボールが盗賊の頭を泥団子と交換していく。
気がつけば、盗賊は全滅していた。
「はぁ……」
「また、美味いもん食いそびれたな」
「最近うまいものってアイラの飯くらいしか食ってねぇぞ……」
「元気出せよ、ギージュ。パンのかけらやるからさ」
「ううっ……アレン、お前の心遣いに感謝するぜ……」
「おいしい食事なら、また私が作ってあげますから。ギージュもアレンもしょげないで」
「「アイラーっ!」」