第13話
俺達はベイルの街に入った。ベイルの街は娼館街で、治安が悪い。俺達がこの街に寄った理由はただひとつ、食料の調達だ。腹が減っては戦は出来ぬ。そういうことだ。
買い物を終え街を出ようとする俺達。だがギージュが突然足を止めた。
「アリシア……」
「? どうかしましたか?」
ギージュにアリシアと呼ばれた女が答える。年は18、9で、髪色は金髪、背は160cmくらいか。顔はというと珍しいほどの美人だ。
「とりあえず、酒場にでも付き合わないか。滅多なことはしないし、俺のおごりだ」
「え、えっと……え、遠慮しておきたいのですが」
「俺は子連れだぞ? 大丈夫だ。ちょっとお前さんの親戚筋に心当たりがあってな」
「し、親戚? 私は孤児で、親戚と言われても……」
「孤児なら尚更だ。一緒に来てもらえないか?」
「おねえさん、来る?」
「ま、まぁ。話を聞くくらいなら」
「そうか。それは良かった。では酒場に入るぞ。おすすめはどこだ?」
「私は酒は飲まないから、わからないわ」
「ふーむ、じゃああそこにするか」
ギージュが指差したのは酒場「風神の帳」亭だった。
俺達は酒場に入った。ギージュが薄い酒を注文し、飲みながらアイラに話し始める。
「まず何から話せばいいんだろうな。俺はギージュ、お前の親戚筋に心当たりがある。死んだ俺の女房だ。お前さんはあいつの若い頃に生き写しだからな」
「でも、それは私があなたの死んだ妻の親戚だという確実な証拠ではありませんよね?」
「いや、それはいいんだ。重要なことじゃあない。お前さん、見た所そろそろ身売りするんじゃあないか?」
「どうしてそれを……? 確かに私は仕事もなく、もう身売りするしか無いと思っていましたが……」
「目だよ、目。その目を見れば分かる。俺は女房の親戚かも知れない女を身売りなんて目に合わせたくはない。実はお前さんにやってほしいことがあるんだ。死んだ女房に生き写しのお前にしか出来ないことが」
「それで、私にどうしろと?」
「うちの坊主、名前はアレンっていうんだがな。こいつがいるだろう?」
「ぼく?」
「こいつの世話を頼みたい。俺達は旅をしているんだ。旅の途中、寂しがったりするかも知れない。そんな時こいつの母親代わりになって欲しいんだ。」
「それはいい話ですが……あまりにも虫が良すぎるのでは?」
「無理にとは言わない。だが俺がお前さんに不埒な真似をしないことだけは約束しよう」
「……分かりました。この子の世話、謹んでお引き受けします、私の名前はアイラです」
「そういうと思っていたんだ」
「それも、目ですか?」
「ああ。目だ」
「おねーさん、おかーさん?」
「そうよ、私があなたの新しいお母さんよ」
「おかーさん!」
正直本当の母親は前世の母親だと思っているし、今世の母親は単なるクズだ。家族ごっこになるが、仕方ないだろう。
俺達は街から出て、近くの森で野宿することになった。
「街の宿屋で寝たほうが、良いのではないですか?」
「俺達は野宿になれてる。こっちのほうが性に合ってるのさ」
「そうだよ」
「そうですか、それでは私も野宿の手伝いをしますね」
俺達は焚き火を囲んでいた。
「アレンちゃんは、何歳なの?」
「さんさい!」
「そう、三歳なのにそんなに喋れるなんて、偉いのねぇ」
「ぼく、えらい!」
「すごいすごい! アレンちゃんはいつか立派な大人になるわよ!」
オリィ婆さんと同じようなことを言わないで欲しい。
「じゃあ、料理を作るか」
「私が作ります。母親は料理も作るものです」
「そうか、それはいいが、ちゃんと作ったら味見させろよ。こいつの飯は俺が管理してるんだからな、滅多なものは食べさせられないぞ」
「そうですか、認められるよう頑張って作ります!」
アイラの作った飯は美味かった。
「おとーさん、おかーさん、ねむい」
「そうね、寝ましょうか」
「不寝番は俺が務める。お前たちは寝てていいぞ」
「アレンちゃん、一緒に寝ましょうか」
「いや! おとーさんとねるの!」
「あらあら……ちょっときらわれちゃったかしらね」
「いや、そんなことないと思うぞ。こいつはすぐ暴言を吐くからな。吐かれたことないだろう? いつかお前にも気を許すようになるさ」
「そう、ならいいんだけど。おやすみ、ギージュ」
「おやすみ、アイラ、アレン」