第11話
勇者事件から数日後。俺達は街道沿いの村に到着した。
「おお! 旅人が来たぞ!」
「旅人じゃ! 旅人じゃ!」
「「うおおおおおおーっ!!!」」
俺達が村に近づくと、大勢の村人が家から出て俺達を歓迎してくる。
「なんか、変な村だな」
俺はギージュの耳元で話す。
「そうだな、おかしなところに来ちまったみたいだぜ」
俺達は推定村長に案内され村長の家に案内される。
「さあさ、こちらの部屋にお泊まり下さい。何もない所ですが、どうぞごゆっくり……」
「ああ、ゆっくりさせてもらうぜ」
「そうそう、この村の名産であるキュウリでもいかがですか?」
「キュウリ?」
「ギージュ、キュウリってのは緑色の曲がった棒みたいなやつだ。美味いぞ」
異世界にもキュウリがあるのか。初めて知ったぞ。まあそのキュウリが人に噛み付いたり、殴りかかったりしなければの話だが。
「では、ありがたくいただくことにしよう」
「ありがとうございます。これ、旅人様にキュウリを持ってまいれ」
「はい、只今」
村人が持ってきたキュウリは何の変哲もない普通のキュウリだった。
「では私はこれにて……親子水入らずを邪魔したくありませんのでね」
村長は部屋を出る。
「行ったな。これで自由に話せるぞ」
「アレン、これ、噛み付いたりしないのか?」
「何を言ってるんだギージュ、キュウリが噛み付くはずがないじゃないか」
「そ、そうか? それにしては凶悪な見た目だと思うが」
「キュウリってのはこんな見た目なんだよ。一見トゲトゲした棒に見えるが、ちょっと苦いだけで甘みもある」
「あ、ああ」
「それではいただきます」
パリッポリッ……
「うめぇ! この村のキュウリは絶品だな!」
「辛い! 辛い! 何だこの味! ふざけてるぜ! あの村人共ぶっ殺してやる!」
「落ち着けギージュ! キュウリが辛いはずないだろう!」
「ふざけるな! 唐辛子並に辛いぞ! 水! 水!」
「どうしました旅人様!」
「そ、村長! 水! 水を持ってこい!」
「水ですね! おい! 水を持ってこい!」
「はい! 只今!」
村人が水を持ってくる。俺は少しずつキュウリをかじりつつ豹変したギージュを見つめていた。
「旅人様! 水です!」
「おお、助かった……オエエエエエエ! なんだこれ! いつぞやのサーベルタイガースープの味がするぞ!」
「えっ……」
「ふざけるな! ちゃんとした水だ! ちゃんとした水を持ってこい!」
「今のがちゃんとした水ですが……あ、キュウリの絞り汁ならありますよ!」
「それ、いい。ぼく、ほしい」
「お子様にも持ってきますね」
「だから水だ……待て! 水!」
ギージュは床を転げまわっている。さすがに俺もギージュの様子がおかしいと思い始めた。
「キュウリの絞り汁でございます」
「ゴクッ……おいしい」
「ゴクッ……辛い! 辛い! ふざけるなてめぇ!」
ギージュが曲刀を抜き村長に斬りつける!
すると村長は煙になって消えてしまった。
「「何!?」」
ケヒヒヒヒヒ……俺達の周囲に気味の悪い笑い声が響く。
「ちくしょう! なんかきな臭いと思ったら罠だったのか!」
「ってことは俺が食ったキュウリも!? というかギージュにはキュウリがどう見えてたんだ!?」
「おっそろしい顔のとトゲの付いた緑の棒だよ!」
「なんだよそりゃあ! 怪しめよ!」
「仕方ないだろ! キュウリを食ったことなかったんだから!」
「くそっ! キュウリ沢山もらって行こうと思ってたのに! 炎の渦よ! 我が敵へ!」
ファイアストームが部屋の壁をすり抜ける!
「何!?」
「もしかして、この壁すらフェイクなのか!?」
俺が壁を触ると、簡単にすり抜ける。
「そうみたいだな! 早くこんなところから逃げるぞギージュ!」
「おうよ!」
俺とギージュが壁をすり抜けて村長の家から出ると、そこは何もない街道だった。
そして俺達のいた家もまた村長と同じく煙のように消え去ったのだった。
「……ひどい目にあった」
「俺のキュウリが……」
「諦めろ、それにキュウリがあったとしてもう二度と食いたくないぞ……」
「本当は、キュウリって美味いのに……」
「「はぁ……」」
俺達はそれぞれの思いを抱えながらどんよりしつつ街道を進むのだった。