第1話
俺の名はアレン、頭は金髪、年は2歳。前世は日本人だったことを朧気に覚えている。どうやらここは地球ではない異世界らしい。今は母親に抱かれて昔話をされているところだ。本当は恥ずかしくて逃げ出してしまいたいのだが、この体に力では、どうやっても逃げられない。クソっ胸の感触が気持ちいいぜ。
「というわけで悪い魔法使いは血祭りにあげられました。おしまいおしまい」
血祭りって、2歳児に教える言葉じゃないだろう。呆れながら、俺は反応する。
「ママ、ぼく、魔法、使える?」
このようにふざけたしゃべり方をしなければならないのが腹立たしい。というかなんで異世界なのに言語は日本語なんだよ。日本人超優遇仕様じゃねぇか。アメリカ人舐めてんの?
「何言ってるの! 魔法なんてダメよ!」
母親は魔法のこととなるといつもこれだ。本当にふざけているぜ。異世界に行ったら魔法使い。これは常識だろう。
この世界についてわかっていること2つ挙げてみる。この世界、経験値システムがあるらしい。それを知って部屋にいるゴキブリを数百匹ぶち殺したが、全く強くなった感触はない。というかゴキブリ出すぎだろう。異世界にもゴキブリいるんだな。あとは魔法使いの噂を全く聞かないが、いることは確かだ。昔話にもよく出てくる。オチは100%血祭りだが。なんだよ血祭りって。苦笑いをこらえて笑うのに必死だったぜ。アハハハハ!魔法使い、死んだ! みたいに笑う2歳児って不気味じゃないのか? 親はそれを見て微笑ましそうな顔をしてたがな。馬鹿みたいだ。
ある日俺は、ある決意を胸に母親に声をかけた。
「ママ、出かけて、いい?」
「いいわよー?」
この親は放任主義すぎる。昼間は二人共出かけているので、俺は出かけ放題だ。だがいないことがバレるのが嫌だったので、今日まで我慢していた。だがその我慢とも今日でおさらばだ!
親がいない隙に家を出て俺の住む街であるバルガス王国のエルスの街を歩いてみる。なるほど中世ファンタジー。コテコテだな。糞は落ちてないぞ。衛生管理はしっかりしているようだ。
とりあえず本屋を探す。魔法を覚えるなら魔導書、これテンプレ。ラノベにもそう書いてある。本屋本屋。あった。めっちゃ怪しい作りで、明らかに魔導書がありそうだ。とりあえず入ってみる。
本屋の中は薄暗く、立ち読みには向いてなさそうだった。というか本はガラスのショーケースに入ってる。高いんだな、本。うわ、この店水晶球とか置いてあるわ。期待大だな。俺は本屋の主人らしき老婆に花しかける。老婆ー、魔導書よこせー。
「おばあちゃん、魔導書、ある?」
「……坊や? 誰に頼まれたの?」
「頼まれた?」
「うちには魔導書は置いてないよ」
俺は老婆の顔に浮かんだ動揺の表情に気づいていた。これはこの店魔導書置いてあるな。喜びの表情を顔に出さないようにしつつ、俺は老婆に畳み掛けた。
「嘘。魔導書、ある」
「ないよ! そんな物、あるわけ無いよ!」
「嘘だ〜嘘だ〜!」
「あんたねぇ、第一字が読めないでしょ!」
あっ、この世界の字が日本語かは確かめていなかった。というか生まれてから一度も字なんて読んでないぞ。まぁとりあえず、漢字カタカナひらがなだと仮定してみる。
「読めるんだもん!」
「はぁ……ならこれ読んでみなさい?」
老婆が指したのは一冊の本のタイトルだった。誰でも出来る! 監禁陵辱! 犯罪くせぇ。ダメだこの店。置いてある本がろくなもんじゃねぇ。
「誰でも出来る! 監禁陵辱!」
「嘘……でしょ?」
「読めるぜ、糞ババァ」
もう隠さないことにした。このしゃべり方のほうが楽だ。
「誰が糞ババァだって? まぁいい。魔導書はあるよ。ただし読むのは犯罪だし、持ってるのも犯罪だ。絶対に誰にも読んだことを言うんじゃないよ。」
そんなこと初めて聞いたぞ。
「なんで犯罪なんだ?」
「この国の名前を知ってるかい? レプラ教国だ。教団は魔法が邪なものだとして禁じてる。ふざけた話だよ、力に邪も糞もあるもんかい。」
「なるほど。まぁいい。魔導書を見せてくれ。」
そういえば親が食事をするときに神に感謝しますとか言ってた気もする。というか言ってた。なるほど国教が魔法を禁じてるのか。
「このガキ……なんでここまで頭がいいのかねぇ。私は幻覚でも見てるのか?」
「ボケてんじゃねぇよクソババァ。早く魔導書見せろってんだ。」
「そうさね、見せるし、教える。あんたは私の弟子だ。この年で文字も読めるし、流暢に喋れる。強い魔力も感じるから、必ず大成するよ。」
俺には魔力があるらしい。やったぜ。これで魔法が使えることがわかった。