ゼロ〈1〉
誰かの呼ぶ声が聞こえた。弱々しくて消えそうな助けを求める声。
生まれて16年と少し。期待されたことも、頼られたことも無かった。逆に言えば俺が誰も信用することがなかったからそんな声を聞き逃してたのかも知れないけど。
はっきり言おう。オレは皮肉屋だ。というよりは卑屈だ。自分に無いものを持っている奴を見れば羨ましいし、褒められても世辞くらいにしか思えない。なんの取り柄もないし、度胸もなければ、成績だって目立つことはない。努力なんてのは一番嫌いな言葉で「成るように成る」ってのが座右の銘だと思っている。努力して報われないなんてことにならない様に、なるのが怖いから逃げ道を作っているだけだ。
で、そんな俺が、今、生まれて初めて必死になっている。何故かって?死にかけているからだ。
因果応報とは言うけれど、俺が何かした訳ではない。
「あ、あの」
腕の中の少女が戸惑った様子で見上げる。
「黙ってろ!舌噛むぞ!」
吐き捨てるように怒鳴って走り続ける。
喉は干上がるように乾いているし、息をするのも痛いくらいに肺が悲鳴を上げている。足なんてパンパンだし、力仕事なんしたことも無いから気を抜いたら少女を抱き上げている腕は力を失うだろう。そして何より怖い。
「私を置いて逃げてください!」
「うっせぇ!黙ってされるようにされろ!」
「でも!」
「いいから黙ってろ!!」
少女がこうなっている事が因果応報と言うのなら、俺が置かれている状況も因果応報だ。手を差し延べるってのは責任を持つこと。
救うってのはそういうことだと、爺さんに教わった。だったら俺は責任を持つだけだ。これは俺だけのモノだ。