表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

長い長い一日シリーズ

【競作/転】長い長い一日:花火

作者: 尚文産商堂

「起きなさい」

トンネルの中のように誰かの声が反響している。

目を開けると、道の真ん中だった。

そして、すべてを思い出す。

「あの時のあの液体は」

「ここへくるためには、必要なことだったのだよ。ここは妖世界(あやかしせかい)と呼ばれておる。我々がおる世界の一部だ」

そうだ、俺は幼馴染を連れ戻すために、ここへ来た。

そして、今一緒にいる人は、大学の友人の祖父。

青江瑞垣(あおえみずがき)さんだ。

俺の手伝いをしてくれているが、それもこれも、160年前の契約が原因らしい。

「あの、一つ聞いてもいいですか」

「ああ、いいとも」

俺はちゃんと立ち上がって、瑞垣に聞いてみた。

周りは薄ぼんやりとしているが、歩くのに問題はなさそうだ。

「160年前、なにがあったんですか」

瑞垣が歩き出したのを見て、俺もそのすぐ横を歩く。

「ペリー来航ぐらいは、日本史で習っただろ」

「確か、1853年でしたね。それに、同じ年にはプチャーチンが長崎に来てます」

「そうだ、そして江戸幕府が崩壊へと向かっていくわけになる」

話の筋が、まだよく見えない。

それに気づかないのか、瑞垣は語りをやめない。

「江戸時代までは、彼らは我々のすぐ横にいた。常に一緒におり、互いに影響を及ぼし合っていた。だが、鎖国が終わり、海外の文化や人が入ってくると、彼らが海外の写真などに映ることが増えた。当時から彼らは保守的な性格で、あまり映ることを良しとすることはなかった。そこで、当時の将軍徳川家定と彼らの長老の間である約束が結ばれた」

「それが、160年前の契約と呼ばれている物ですね」

「そうだ」

その時、花火が打ちあがった。

赤色、黄色、青色、そして橙色の4色花火だ

「おーう、おーう。

 我の愉しみぞや、なんぞやと。

 かくもあるべき愉しみや。

 今日は宴、明日は祭り。

 終わりなき世の宴なり。」

旋律は前と変わらないが、言葉が変わっている。

そんな歌が聞こえると同時に、瑞垣が俺に言った。

「向こう側のようだから、行くぞ」

「彼らに会うんですか」

「当然だ、そうでなければ誰が君の幼馴染を取り返すのだ」

瑞垣に言われて、確かにそうだと気付いた。

彼らへの橋渡しはしてくれるが、それからs買いは、自分でどうにかしなければならない。


花火を打ち上げているのは、10年前と変わらない連中だった。

「長老へお会いしたい!」

そこへ、瑞垣が叫ぶ。

打ちあがっていた花火が消えると同時に、空気まで凍ったように静まり返る。

「ワシに何か用かね、瑞垣や」

「長老、160年前の約束、よもや忘れたわけではあるまい」

「三ヶ条についてやろ。それならば、諳んじて見せようぞ。一つ、人間と(あやかし)は分かつ。一つ、人間と妖は干渉せず。一つ、人間と妖は関係せず」

「であるならば、なぜ人間の時間において10年前、鈴木宗見(すずきそうみ)を連れ去った」

鈴木宗見が幼馴染の名前だ。

「鈴木宗見…おお、10年前、確かにワシの元に残ったが…ふむ、影替(かげかえ)をここへ」

長老がパンパンと柏手を打ち、その人を呼んだ。

「あちゃあ、ここまで来ちゃったか」

その人は、10年前、本物の鈴木宗見と入れ替わるように現れて、今はアメリカに留学しているはずの偽鈴木だった。

「お前、アメリカに行ったんじゃ……」

「この世界は、広いようで狭いんだよ、河島荘司(かわしまそうし)くん。人界(じんかい)のすぐ横に、妖界は広がっているんだ。だから、私がここにすぐに連れてこられても、不思議じゃない」

「この子は、残念ながら鈴木宗見ではない」

長老が言うと同時に、彼女の顔がぐにゃりと曲がり、すぐに俺の顔となった。

「あっしは影替。影借(かげかり)とも呼ばれています。狐や狸のように誰かの姿になり、その性格から癖から何から何までを演じます。目と向かってみた人物じゃないとなることはできませんし、雰囲気から違うことも多々ありますが。その上、あっしのその時々の雰囲気に応じて、因果を変化させることもできます」

「なら、本物の鈴木は何処に行ったんだ」

俺は影替に迫って聞く。

もしかしたら、因果を変化させたから、本物が消えたという可能性もある、そう俺は考えた。

だが、その考えは声と共に消えた。

「ここだよ」

知った声が、俺の後ろから聞こえてきた。

「鈴木宗見、か?」

俺が振り向いてみたのは、10年前と全く同じ姿の鈴木だった。

「……帰ってこいよ」

「河島君は、大きくなったんだね」

「さすがに10年もたつとな。なあ、帰らないか?」

「そうねー。確かに楽しかったけど、そろそろ帰らないといけない時がきたみたいね」

長老へそれから鈴木が振り向く。

「長老さん、今までありがとうございます」

「うむ、おぬしも達者で暮らせ」

影替がそれから俺たちに近寄った。

「10年間、ありがとうね。これは、そのお礼」

俺たちを、同時にトンと胸を押した。

頭の中で花火が同時に100発ぐらい鳴り響いたかのように目の前が瞬いた。

そして、俺は意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ