表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

そのよん!   「サンタクロースだからな」


「しかし、なるほどな」

「な、なにが? なにが、なるほどなの?」


 な、なんか納得するとこ、あったっけ?

 見上げると、サンタくんはレンズの奥の目を細めて、あたしをじっと眺めていた。


「ようやく、理解した。俺がここに落とされたのは、チビのためだ」

「え? え?」


 さっきからずっと静かだったのに、突然なんだろ? あたしには、さっぱりわかんないよ。


「チビ。お前、名前は?」


 どうして名前? しかもズボンから白い紙取り出して、何かチェックしてるし。


「い、つき立谷たつやつきだよ」

「やっぱりな。お前、配布者対象だ」


 何のって聞こうとして、頭に浮かんだことですぐに中断した。でも、まさか、ね。


「も、もしかして、それって初夢の?」

「ああ」


 あっさり肯定しないでよぅっ!

 じゃ、じゃあもしかして、その手に持ってるのは、配布リストなの!? 個人情報駄々漏れだよ!

 ……って、そうじゃなくって!


「どういうことか、あたし、全然つかめてないよ!?」

「チビが夢嫌いなせいで、今夜寝るかどうか予測できない。だから、俺に話しつけさせて無理矢理にでも睡眠とらせようって魂胆だろ。

 トナカイに細工するなんて、ボケる直前のくせに悪知恵だけは回りやがるッ……!」


《あいつら、いつか締める》ってサンタくんは意気込んでるけど、あたしはまるで思考が追い付かない。

 えっと、つまり、あたしは夢を見なきゃいけないってことかな?

 …………。


「嫌。あたし、絶対絶対ぜ~ったいに、眠んないもん!」

「却下。寝ろ、今すぐに寝ろ。5秒以内に寝ろ」

「嫌だもん。起きてるからね!」

「ふ、ざ、け、る、な。営業妨害だ。俺の仕事に支障をきたすな」

「嫌ったら嫌なのっ!」


 だって眠ったらまた、一人になっちゃうんだから。あたしには、嫌いなモノをわざわざ見る気なんてない。

 腕を組んで、プイっとサンタくんから顔を真横に向けた。

 ツーンだ! 何騒がれても、あたし寝ないもんっ!


 チラッと横目でサンタくんをうかがうと、彼は握り拳を震わせて、なおかつその顔の筋肉がピクピク痙攣けいれんしてた。

 うっ……こっ、怖いよぅ。目だけ笑ってないし。


「いい度胸だ、チビ。わかった、そこまでお前が俺の頼みを断るなら、こっちにも考えがある」

「……サンタくん、一言も頼んでないよね?」


 あたしの反論が耳に届かないのか、サンタくんはいまの季節と同じくらい凍えた冷笑をたたえた。

 こ、拳をかかげてるけど、何する気っ? ねぇ!?

 爽やかというよりも寒い笑顔で、サンタくんはあたしに言った。


「サービスだ。ボルドーか鳩尾殴られるか、どちらがいいか選ばせてやろう」

「いやいやいやいやっ!! 待って! あたし女の子なのに、殴られるの!? しかも、選択肢ないよね??」

「あるだろ。首か、腹か」

「どっちも痛いからヤだよ! しかもそれ、夢みるというより気絶のほうだよねっ? 最悪、渡っちゃいけない川とか見ちゃうよね!?」


 なるべくなら、百歳になるまでその川は渡りたくないんだけど!

 あたしの主張でさすがに暴力はいけないと考え直したのか、サンタくんは握っていた手をほどいて、腕を組んでいた。


「チビが抵抗するから悪い。おとなしく寝ればいいものを」

「嫌いなモノは、嫌いなんだもん」


 互いの頑として譲らない態度に、サンタくんは怒りを通り越して、(あたしに対して)バカらしくなったらしい。

 ピリピリした殺気を消して、大きなため息を大袈裟にこぼした。まるで働きアリを見るような視線で、あたしを。

 ちょっとイラッとするかも。多分、わざとだ。


「何がそんなに嫌なんだ? まさか、怖い夢を見たくないとかいう、くだらない理由じゃないだろ」

「……………………そうだよ。いけない?」


 怖いものや悪いものを見る確率は、あたしの場合120%なんだもん。ずっと浸っていたいものなんて、見た試しがないから。

 嫌いなモノに蓋をしたいっていうのは、わがままなことじゃない、はず。


 だけど、サンタくんは短く息を吐いて、口の端を歪めて笑った。

 い、いま、なんでか知らないけど、思いっきりバカにしてるよね!?


「チビ、お前人の話も聞けないのか。俺が言ったことくらい脳髄に刻み込んでおけ。言ったはずだ、配る初夢はいいやつだと」

「あ」


 そういえば、確かに言ってた。《本人が描く良い夢》を、将来その人が希望を持たせるためにって。

 じゃあ、あたしも?

 あたしも、今日は良い夢が見れるの?

 毎晩見てた、悲しかったり、寂しいものじゃなくて、何処にでもある普通の夢が。


「ほ、本当……?」


 実は嘘で、またいつかの、誰からも気づいてもらえない夢じゃないよね?

 信じても、いいのかな?

 あたしが一番嫌いな、サンタなのに。


「幸せな夢を、見せてくれるの?」


 すがるように、サンタくんに尋ねた。

 サンタが願いを叶えてくれたことなんてなかったのに、あたしの言葉には期待がこもってた。

 本当は、冷や汗をかいて起きることとか、徹夜し続けることには、もううんざりだったから。


「当たり前だ。だましても俺は得しない」


 サンタくんははっきり否定してくれた。

 けど、まだあたしが不安なのを察してくれたのか、自身満々の様子であたしの顔に指をさした。


「チビにはきちんと、一番の初夢を配ってやる。ケータイを借りた礼だ」


 偉そうにサンタくんは、ふんぞり返ってそう告げてくれた。

 とどめに、自分に親指を突き立て、誇らしそうに宣言した。


「なにしろ、アルバイトではあるが、俺は夢を運ぶ、サンタクロースだからな」





   ***



 超・絶・展・開(笑)。


 ご都合主義です。この物語はコメディーしかないので、そんなもんだと流すか諦めるかしてください。


 それでは、また次話でお会いしましょう。

 読んで下さり、ありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます!
「ミスキャスト!」
現在連載中です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ