そのよん! 「サンタクロースだからな」
「しかし、なるほどな」
「な、なにが? なにが、なるほどなの?」
な、なんか納得するとこ、あったっけ?
見上げると、サンタくんはレンズの奥の目を細めて、あたしをじっと眺めていた。
「ようやく、理解した。俺がここに落とされたのは、チビのためだ」
「え? え?」
さっきからずっと静かだったのに、突然なんだろ? あたしには、さっぱりわかんないよ。
「チビ。お前、名前は?」
どうして名前? しかもズボンから白い紙取り出して、何かチェックしてるし。
「い、伊月。立谷伊月だよ」
「やっぱりな。お前、配布者対象だ」
何のって聞こうとして、頭に浮かんだことですぐに中断した。でも、まさか、ね。
「も、もしかして、それって初夢の?」
「ああ」
あっさり肯定しないでよぅっ!
じゃ、じゃあもしかして、その手に持ってるのは、配布リストなの!? 個人情報駄々漏れだよ!
……って、そうじゃなくって!
「どういうことか、あたし、全然つかめてないよ!?」
「チビが夢嫌いなせいで、今夜寝るかどうか予測できない。だから、俺に話しつけさせて無理矢理にでも睡眠とらせようって魂胆だろ。
トナカイに細工するなんて、ボケる直前の癖に悪知恵だけは回りやがるッ……!」
《あいつら、いつか締める》ってサンタくんは意気込んでるけど、あたしはまるで思考が追い付かない。
えっと、つまり、あたしは夢を見なきゃいけないってことかな?
…………。
「嫌。あたし、絶対絶対ぜ~ったいに、眠んないもん!」
「却下。寝ろ、今すぐに寝ろ。5秒以内に寝ろ」
「嫌だもん。起きてるからね!」
「ふ、ざ、け、る、な。営業妨害だ。俺の仕事に支障をきたすな」
「嫌ったら嫌なのっ!」
だって眠ったらまた、一人になっちゃうんだから。あたしには、嫌いなモノをわざわざ見る気なんてない。
腕を組んで、プイっとサンタくんから顔を真横に向けた。
ツーンだ! 何騒がれても、あたし寝ないもんっ!
チラッと横目でサンタくんをうかがうと、彼は握り拳を震わせて、なおかつその顔の筋肉がピクピク痙攣してた。
うっ……こっ、怖いよぅ。目だけ笑ってないし。
「いい度胸だ、チビ。わかった、そこまでお前が俺の頼みを断るなら、こっちにも考えがある」
「……サンタくん、一言も頼んでないよね?」
あたしの反論が耳に届かないのか、サンタくんはいまの季節と同じくらい凍えた冷笑を湛えた。
こ、拳を掲げてるけど、何する気っ? ねぇ!?
爽やかというよりも寒い笑顔で、サンタくんはあたしに言った。
「サービスだ。ボルドーか鳩尾殴られるか、どちらがいいか選ばせてやろう」
「いやいやいやいやっ!! 待って! あたし女の子なのに、殴られるの!? しかも、選択肢ないよね??」
「あるだろ。首か、腹か」
「どっちも痛いからヤだよ! しかもそれ、夢みるというより気絶のほうだよねっ? 最悪、渡っちゃいけない川とか見ちゃうよね!?」
なるべくなら、百歳になるまでその川は渡りたくないんだけど!
あたしの主張でさすがに暴力はいけないと考え直したのか、サンタくんは握っていた手をほどいて、腕を組んでいた。
「チビが抵抗するから悪い。おとなしく寝ればいいものを」
「嫌いなモノは、嫌いなんだもん」
互いの頑として譲らない態度に、サンタくんは怒りを通り越して、(あたしに対して)バカらしくなったらしい。
ピリピリした殺気を消して、大きなため息を大袈裟にこぼした。まるで働きアリを見るような視線で、あたしを。
ちょっとイラッとするかも。多分、わざとだ。
「何がそんなに嫌なんだ? まさか、怖い夢を見たくないとかいう、くだらない理由じゃないだろ」
「……………………そうだよ。いけない?」
怖いものや悪いものを見る確率は、あたしの場合120%なんだもん。ずっと浸っていたいものなんて、見た試しがないから。
嫌いなモノに蓋をしたいっていうのは、わがままなことじゃない、はず。
だけど、サンタくんは短く息を吐いて、口の端を歪めて笑った。
い、いま、なんでか知らないけど、思いっきりバカにしてるよね!?
「チビ、お前人の話も聞けないのか。俺が言ったことくらい脳髄に刻み込んでおけ。言ったはずだ、配る初夢はいいやつだと」
「あ」
そういえば、確かに言ってた。《本人が描く良い夢》を、将来その人が希望を持たせるためにって。
じゃあ、あたしも?
あたしも、今日は良い夢が見れるの?
毎晩見てた、悲しかったり、寂しいものじゃなくて、何処にでもある普通の夢が。
「ほ、本当……?」
実は嘘で、またいつかの、誰からも気づいてもらえない夢じゃないよね?
信じても、いいのかな?
あたしが一番嫌いな、サンタなのに。
「幸せな夢を、見せてくれるの?」
すがるように、サンタくんに尋ねた。
サンタが願いを叶えてくれたことなんてなかったのに、あたしの言葉には期待がこもってた。
本当は、冷や汗をかいて起きることとか、徹夜し続けることには、もううんざりだったから。
「当たり前だ。騙しても俺は得しない」
サンタくんははっきり否定してくれた。
けど、まだあたしが不安なのを察してくれたのか、自身満々の様子であたしの顔に指をさした。
「チビにはきちんと、一番の初夢を配ってやる。ケータイを借りた礼だ」
偉そうにサンタくんは、ふんぞり返ってそう告げてくれた。
とどめに、自分に親指を突き立て、誇らしそうに宣言した。
「なにしろ、アルバイトではあるが、俺は夢を運ぶ、サンタクロースだからな」
***
超・絶・展・開(笑)。
ご都合主義です。この物語はコメディーしかないので、そんなもんだと流すか諦めるかしてください。
それでは、また次話でお会いしましょう。
読んで下さり、ありがとうございました!