そのに! 「変態眼鏡サンタ」
サンタもいろいろ大変なんだね。というより、アルバイト雇ってるんだ。
「それで、どうしてあたしのベランダに来たの?」
もう高校生であるあたしに、初夢は配布されないよね。
あれ? なんでそっぽ向くの? なんかバツが悪そうにしてる。
「実は……トナカイに振り落とされた」
このお堅そうな見た目で、ついでにオレ様思考なのに、ドジなの? この人。
「……」
「そこで黙るな! 何か言え、何か!」
「そっかぁ」
「遠い目をするなっ、居たたまれなくなる!」
文句が多いなぁ、この眼鏡サンタ。
だって、神妙な口調で間抜けなこと語られても、こっちが困るよ。
「サンタに悪夢しか持ってないあたしでも、なんかちょっと、空しい気分になっちゃうよ……」
「だーかーらっ、仕方ないんだ! ここが目的地だとしても、奴らは普通、空上で急停止しない」
ぶつぶつ文句をこぼして、すごく不機嫌そうだ。その証拠に、こめかみには薄く血管が見えてる。
一応同僚なら、打ち合わせくらいするよね。それなのに何もないってことは。
「嫌われてるんじゃないかな?」
「あっさり残酷なことを言うのは、この口か。ああ?」
「いっ、いひゃいよ! ひゃなひて~」
「……フンッ」
うう~。ほっぺ、思いっきりつかんで、伸ばされた。間違ったことは言ってないのに。
憎らしくなって、上目づかいでジトッとサンタくんを睨んだ。
「会話くらいしとけばいいのに」
「チビ、動物と話せるのか?」
「ごめん。無茶だったね」
サンタくんは、わかればいいと深く頷いた。
「とりあえず、サンタだってわかったか、チビ。まあわからんと言われても、知らないが」
「チビじゃないけど、わかったもん」
もう、またチビって言った!
でも、さっきから会話しててわかったけど、この人は変な人でも、悪い人ではなさそう。
嫌いなサンタが実在するのは信じたくないけど。
「サンタくん、ケータイ返して。もう通報しないから」
「……それは俺のことか。安直過ぎる。チビ、お前、成長力だけじゃなくて、ネーミングセンスもないのか」
「しっ、失礼だよ! い、嫌なら呼び方変えるけど」
「一応聞くが、何だ」
「変態眼鏡サンタ」
「……もう、サンタくんでいい。好きにしろ」
なんで肩落として、へこんでるの?
話題がずれたから、もう一回サンタくんに要求した。
「ケータイ、返して」
「却下。悪いが、物を呼ぶのに使わせてもらう。その後にすぐ渡す」
うん。とっても偉そう。悪いって感じたんだったら、お願いしますくらい言ってくれてもいいのに。
でも、この人に文句言うだけ無駄だよね。常識通じないし。
「使うのはいいけど、何呼ぶの?」
「トナカイ」
「話せないはずなのに?」
「念の為、あらかじめ奴らの耳元に、俺のケータイと接続してるマイクがセットしておいてある。あいつらの仲間呼ぶ鳴き声と同じ声出して、呼ぶんだ」
「ふぅん。なんかよくわかんないけど、すごいね」
「まあな」
あ、嬉しそう。褒められるの、好きなのかな?
もしかして案外、サンタくんって、単純?
そうしてる間に、サンタくんは動物の鳴き声っぽい声を出して、ケータイに聞かせていた。
……なんか、こう言うと失礼だとは思うんだけど。
「お笑いの一発芸みたい」
「聞こえてるからな」
「ヒャッ!?」
あ、頭にチョップされたぁ。
「女の子に何するのっ!」
「黙れチビ。くだらないことを口にするな。それより、ほら」
「わわっ」
ポンと放り投げられたケータイを、なんとか両手で受け止めた。
人のものなんだから、丁寧に扱ってほしいよ。壊れたらどうする気なの?
……どうもしないだろなぁ、サンタくんは。
「何はともあれ、とりあえずだが礼を言う。助かった」
「…………」
う、わわわわわわ。
こ、これは、ちょっと……。
「おい。なんか言ったらどうなんだ?」
「っ! …………そ、それは……どう、も」
「? なんだ? チビ、微妙に顔が赤いぞ」
「な、ななななんでもないよ!」
も、もうっ! 不意打ちの笑顔は反則だよ。サンタくん、もとは結構かっこいい顔なんだもん。
不覚にも熱くしてしまった頬を、彼に見せないために、両手で挟んで隠した。
うう~~しっかりしなきゃ! この人は、あたしが嫌いなサンタなんだよ!? おまけに変質者疑惑があって、オレ様なのに。
ついに、『彼』の呼び名が出てきました!
名前? 変態眼鏡が苗字でサンタが名前ですよ?
……うそです。冗談ですとも。
それでは、今日も読んでくださり、ありがとうございました。