その1-2
△ 私は自宅に帰る途中、近道をすることにしました。
理由は単純に夜遅くなっていたからです。
隣町の診療所に行ました。別に悪いところなんてありません。個人的な職場体験みたいなものです。
私はこの診療所に行くのが好きです。この診療所の先生は(通称ドクター)個人的に営んでいます。私の住む所は都市ですが隣町は田舎で病院はおろか治療のできる場がほとんどなかったのです。そこに先生が現れ、あまり外に出られない老人の方などの診察をし始めました。それもほとんど無償で。私も先生の患者の一人だったので先生には憧れがあります。だから将来、先生みたいな医者になりたく、こんなことをしています。
話がそれてしまいました。
帰りが遅くなってしまったのはこのためです。早めに帰ったつもりがこんなに遅くなるなんて。
家には叔父様やメイドたちが心配していると思います。ですから正規の道を通らず林を突っ切ろうとしたら、
「・・・道に迷ってしまいました・・・」
誰もいない林の中で月を見上げ、呟いてしまいました。
一人はさびしいものです。周りには草木しかなく、風が吹けばそれらが笑うようにざわめきます。ですけど、それだけです。夜行性の動物なんてものはいません。そのせいでさらに怖いです。
こんなところに来なければよかったのに。でも、がんばれ私。
こつんこつん、・・・ざわざわ・・・ざわ・
そんな、恐怖を見ないように自分を励ましていたら、何か、もの音が聞こえてきます。
夜は緊張して幻聴を聞いてしまうらしいですし、雰囲気的なものにも押されているのかも。私はそれを気にせずに歩を進めます。
ですけど、それから20分程歩き続けたはずでした。近道をしている筈です。こんなに長くかかるなら、こんな道歩きたくありません。普通なら10分もかからない道なのにそれに
こつんこつん、ざわざわざわざわ、つつ、ははは、ふふ・・・にやにや・・・
もの音が大きくなって、明らかに者音にいます。
あまりの恐怖に後ろが向けません、歩を速めれば速めるほどに者音はどんどん大きくなり、接近してきます。
振り向いてはいけない。絶対に、です。小説とかなんかで振り向いたら最後、になってしまいます。私がこの物語でどのようなポジションなのかもまだ不定なのですから、切り捨て自由です。起承転結に起にも満たないでいなくなるかもしれません。
こつこつ、とんとん、にやにや、やあやあ、ふふふふふ・・・
ですけど、人間の好奇心はこんな時でもなくなりません。後ろを向きそうになります。
そんな私の心情も無視して、
とん・・・こんばんは。
「―!! ヒィッ!!」
私の方に重力の無いような手が置かれた時と、振り返った時が重なってしまいました。
そこにいたのは、下位生命体、この世界で言う、下級悪魔でした。
空を飛んでいるというイメージではなく、浮いているといった感じでしょうか。
普通なら出会うなんてありえません。住む場所が違うのですから。
おそらく、使い魔とかじゃなく、野生の下級悪魔なら人間に合ってすることなんて一つです。
人間に、あうの、久しぶり、おいしそう
人間じゃ敵うはずのない握力で肩と口を塞がれて抵抗する隙もありません。
私は戦闘に適した魔法なんて使えませんし。使えるのは治癒魔法。こんなとき役に立ちません。
ていこうしない、じゃ、タベル。・・・いただきます。
恐怖心さえも与えてくれませんでした。
もう私は駄目です。ちゃんと治癒魔法以外に習っておけばよかったな。
もう死んじゃうんだ、たった16で。
儚いな。
そして、私は目をつぶりました。
後ろで落下音を聞いて。