私たちの未来
私たちは、時が経つのも忘れて、アーケードの真ん中に座ったままで語り合っていた。 語り合った内容は他愛もない事ばかりだった。 けど、何を話しても楽しかった。 ただ、雅人のとなりにいる、それだけで嬉しかった。
他愛もない事を話しながら、時折、視線が絡み合う。そんな時、私たちは自然と微笑み合うことが出来た。 二人とも、お互いの存在が心地よくて、ただ嬉しかった。
語り合ううちに、いつの間にか夜は明け、朝日がアーケードに差し込んできていた。
雅人が立ち上がり、私に手を差し伸べた。
朝日を背に立つ雅人が眩しかった。 私は満面の笑みで彼の手を握り、立ち上がった。
自転車を押して、二人で並んで歩きながら、ぼそぼそと話した。
「あーあ、朝帰りなのに、何にもなかった、ってのはどーなのよ」
「はは。 じゃぁ、今から、リターンマッチするか?」
その雅人の言葉に、頭の上から湯気が出るかと思った。
「ば、ばか。 何もそんなにあわてなくても…。 べ、別にいいけど…」
「あははは。 まぁ、ゆっくり行こうぜ」
そう言うと、私たちは立ち止まり、キスを交わした。 唇だけの、気持ちを確認するだけのキス、今はその先まではしない。 またあとで、のキス。
そう。またあとで。 その約束のキスだった。
結局、その約束は翌日果たされる事になった。
そして、同時に、どうして雅人が私を求めてこなかったのか、いや、欲しくて、欲しくて、でも、最後の一歩を踏み出せずにいた事が、その理由が分かった。
ベッドの中で、生まれたままの姿で抱き合いながら、彼はボソボソと言った。
「俺、初めてなんだ」
何だか可愛かった。私は「バカね」小さくそう言うと、彼に抱きついて唇を合わせた。 念入りに唇をむさぼり、やがてお互いの舌が絡み合う。
もう、キスだけでは終わらない。 お互いの熱い吐息を意識した。
密かに心配していた事は、何の問題もなかった。どんな風にそこまで上り詰めていったのか、はっきりとは覚えていないけど、とにかく私たちは触れ合うたびに昂ぶっていった。
そうしてやっと訪れた、恐れていた瞬間は、単に歓喜の瞬間に過ぎなかった。
それは、私が生きる希望にあふれて、雅人との確かな未来を手に入れた、そう確信した瞬間であり、過去の悪夢を完全に乗り越えた瞬間、そう感じた。
純粋に幸せで、私たちの関係は確かなもの、そう感じる事が出来た瞬間でもあった。
何度も上り詰めながら、雅人と一つになれた喜びでいっぱいだった。
長かった…。 そう思った。
つらい、一人だけでの残り時間が終わり、きらめく、二人の未来への時間が始まった。
そう確信した瞬間だった。