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1章第4話

 煌夜はフィナを庇おうと前に出る。

 ドアから出てきたのは、ジーパン、Tシャツという普通の格好をした二十代位の男だった。

 眼つきが鋭く、背が二メートル近くある金髪の外国人だ。

 濁った緑の瞳が不気味に輝く。


「俺の名前はウォルロ・アクロイド。フィナを渡してもらおうか?」


 不気味な笑みを浮かべて言った。

 ぞわり、と恐怖が金属の触手のように煌夜の背中を伝って来る。

 これが、本物の威嚇。敵意。

 不良の威嚇や敵意など赤ん坊に凄まれたくらいにしか感じない。

 量ではなく質が違う。

 煌夜は震えそうになる身体を必死に押さえつけて言う。


「帰れよ」


 ウォルロは一瞬、負の感情と正の感情を全て秘めて、混濁したような表情をした。

 対して煌夜は身体から威嚇として魔力を漏らしてみるが、ウォルトはそんなこと意にも介さずに不気味な笑みを湛えて問う。


「渡す気はねえんだな?」

「当たり前だろうが」


 そうか、と呟くと、ウォルロは綱引きでもするかのように両腕で空気を引っ張った。

 グン、と煌夜の身体が砲弾のように投げだされる。


「なっ!?」


 投げだされたまま部屋を飛び出し、そのままマンションから飛び出した。

 手すりを掴もうとするも、腕の長さが圧倒的に足りない。

 飛んだまま二階から投げだされ、自転車置き場に突っ込んだ。

 とはいえ、魔力で身体を強化していたのでダメージはない。


「くそっ!」


 自転車を乱暴に蹴散らして、二階まで跳ぶ。

 フィナはウォルロに色んなモノを投げつけて応戦していた。

 しかし、ウォルロにぶつかる前に全て地面に落ちていく。

 煌夜は廊下を走りながら『温かいモノ』を身体の底から取り出し手に持っていくイメージ。

 そして、手に魔力を溜めて、飛ばす。

 バレーボール位の大きさの光弾は空気を切り裂いて、ウォルロに飛んでいく。

 ウォルロはこちらを向いて、光弾に吹き飛ばされた。


「があっ!?」


 何か信じられないモノでも見るように部屋に倒れる。

 それと同時に部屋に踏み込んだ煌夜は怯えているのを悟られないように大声で怒鳴る。


「帰れつってんだろ! まだやるってんなら本気でテメエを倒す!」


 ウォルロがむくりと起き上る。何のダメージもないようだった。


「お前、一体何者だ? 何で俺の砲撃無効化術式が効かなかった?」

「はっ! 俺は魔法使いだからな。テメエなんてザコ同然。分かったらとっとと帰りやがれ」


 これは、率直に言うとハッタリだった。

 恋との戦いでも不良との戦いでも逃げたり降参したり、しまくっていた煌夜に戦闘の知識などほとんどない。

 世の中に語られている『魔法使い』の怖さを知っているのならここで一旦退いてくれる筈だ。


「お前がおかしな力を持ってんのは分かった。今まで起こったことを考えれば納得だしな。けど、おかしいじゃねえか? テメエの今の技、『地』『水』『木』『風』『空』『光』『闇』『雷』『無』『有』『憑依』『重力』『吸収・放出』『運動』の一四種類とは違うじゃねえか」

「……」


 世界には一四種類もの魔法使いが一人ずつ居るとされている。

 しかし、煌夜はそのどれにも当て嵌まらない。

 煌夜は一四種類の中に入れるとしたら『魔力』かなーと常々思っている。

 煌夜の魔法使いとしての力は理論上以上に魔力を扱えることだ。勿論、魔力の容量の常人よりも多い。

 というか、理論上あり得ない多さだ。

 ウォルロはまあいい、と言ってから、


「お前が魔法使いだからって俺が退くと思ったのか?」

「……ッ!?」


 空気が緊張で張り詰める。

 煌夜は片手を上げてフィナを守る意志を示し、言う。


「大丈夫。絶対お前を守ってみせるから」


 声が震えているのが自分でも分かる。

 それが分かったのか、フィナが無理やりな笑顔で煌夜に声をかける。


「わたしは、大丈夫だから……」


 その笑顔を見た瞬間、心臓が杭で打たれたような衝撃で煌夜の身体が硬直した。

 フィナはそんな煌夜に安心させるように微笑みかける。怖い筈なのに。

 煌夜がフィナに声をかけたのは言葉にしないとフィナを裏切りそうだったからだ。

 なのに、

 拳を意識せぬままに握り締める。

 何でコイツはこんな笑顔を作れるんだ?

 何か、理不尽な怒りが込み上げてくる。

 煌夜がその感情を処理し終わるまでに空気の塊が腹に当たった。


「ごふぁあっっ!!?」


 ガラス戸から外にふっ飛ばされた。

 ガラスが粉々に砕け散る。真下には車道。

 轟! ウォルロの足元に空気が凝縮され、解放された。

 ガラス戸から飛び出し、煌夜に獣のように襲い掛かる。

 ウォルロは煌夜の二メートル程手前に飛び出した。煌夜は大きく腕を振るい、光弾を放つ。腕が重く感じた。

 ウォルロは蝶のように、優雅に光弾をかわすとポケットから紙を取り出し投げる。煌夜の拳に張り付いた。


「なんっ」


 魔力によって強化されている思考を高速で回転させる。

 紙には英語でも日本語でもない言語――魔術言語が書かれている。

 何と書かれているのか煌夜には分からない。

 煌夜は唇を噛む。

 学校では教わっていない単語だらけだ。

 ベリッ! と。何か効力が発揮される前に紙を拳から引き剥がす。

 煌夜の身体が突如、斜めに恐るべき速さで跳ねた。


(紙と人を同調させる魔術か……ッッ!)


 魔術の正体を予想。車道を突っ切り、鈍い音と共に向かいのマンションの壁に激突した。


「が……ッ!?」


 肺から強引に酸素が吐き出される。

 ふわりと、煌夜は地面に落ちていき、真下に居たウォルロに顎を蹴り飛ばされた。


「がっああああ!?」


 ボーリングの球のようにマンションの屋上まで飛んで行った。

 背中にバットで殴られたような衝撃が走り、屋上のフェンスに布団のように引っ掛かった。フェンスが少しひしゃげる。

 フェンスからずるりと落ちた。


「はっ。テメエの身体ぁどうなってんだ? 普通に気絶させる予定だったんだけどな。化けモンか」


 いつの間にかウォルロは温暖化防止対策なのか土と植物がある屋上に降り立っていた。


「なあ、オイ。アイツが未完成の兵器だってことは知ってるか?」


 いきなり、心底つまらなさそうな声でそう言った。

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