表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

1章第2話

 トイレで顔面についたお粥を拭きとり、ついでに制服に着替える。

 居間に戻ると少女がお粥を超幸せそうに食べていた。

 気にいったのだろうか?

 少しの間何気なく見ていると少女の顔に苦しそうな汗が浮かんできた。


「おなかが張り裂け、そ……」


 ばたん、と少女は畳に転がり、お腹を押さえる。

 そんなに入れた覚えないんだけどな。近づいてお粥を見ると三分に一しか減っていなかった。


(食欲ねえんだろうな)


 そう思いながら転がって、満腹感を味わっている少女に質問する。


「なあ、お前どこの病院から逃げてきたんだ?」

「病院なんて行ったことないよ?」

「行ったことないよって……どんな凄い嘘だ」

「うそじゃない!」

「今のはツッコミどころですか? なんか戻りたくない訳でもあるわけ?」

「うう、ううううううゔ……」


 少女は卓袱台に爪を立てて唸る。

 恐るべき力でも込められているのか爪が卓袱台に食いこんでいた。


「うわ!? 獣声になってる!? ていうかわかったから止めてそれー!」


 とりあえず謝ってからケータイで時刻を確認する。

 丁度八時。

 さて、コイツの処遇を決めないといけない。

 もう苦しそうな感じではないとはいえ目の前でぶっ倒れた場面を見てしまったのだ。

 追い出すのは流石にダメだろう。人として。


「家は近いのか?」

「家っていうか……まあ住む所はもうないけど」


 言い放つ少女に面喰って、どんな反応を返せばいいかわからなかった。

 嘘なら豪快過ぎるし、本当なら凄い訳あり少女だ。

 何というか、どっちにしても係わり合いになりたくない。


「ええっと……帰る所がないと言いたい訳?」

「うん」


 ずず、と少女は頬を緩ませながら麦茶を飲む。はあ、やっぱり帰る所がないっていう答えかと、一生解けない数式に挑まされているような感覚に陥る。大きく嘆息する。


「どうでも良いけどモノ凄いくつろぎっぷりですね」


 ぷはーとか言いながら扇風機の風に当たっている幸福そうな少女を見て言う。

 他人の家を占領する才能でも持ち合わせているのかコイツは。


「うん。この家気に入ったよわたし」


 にっこりと何の邪気もなく微笑みながら少女は言う。

 煌夜も釣られて笑った。

 時刻は既に八時五分。

 そろそろ学校に行かないとヤバい時間帯だ。


「親は? 親ならいんだろ?」

「居ないけど」

「あ、あのなあ。一応親に連絡しないと、心配するし」


 家出少女かも、と煌夜は少し呆れる。

 親が鬱陶しく感じる時期なのかも知れない。

 煌夜の言葉に少女はむっ、としたように、


「あなたはわたしの言うことをひとっつも信じないの?」

「いや、まあ残念ながら常識的な頭があるものですから、っつかどこに信じる要素があるんだよ!」

「むう……ふん!」


 不機嫌なご様子のお嬢様は、煌夜を視線を逸らし、一転、ご機嫌な様子で部屋の中を好奇心一杯の瞳を大きくして見回し始めた。


(感情豊かな奴だな、オイ)


 非生産的な質問にうんざりしながらも少女に問う。


「なんで倒れてたわけ?」


 少女はモノ珍しそうに辺りを見回すのを止めて煌夜に言う。


「多分、いつもの持病だと思う」

「あ、あれ持病なんだ。つか、なら病院行ってんだろテメエ」


 少女は卓袱台の下にあったアクションものの漫画を手にとり、瞳をキラキラさせて何気なく言う。


「んー? 病院じゃなくて、研究施設で治してたらしいから。にしても狭い部屋だね」

「研究施設?」


 煌夜の訝しがる声で少女は自分が変なことを言ったということを自覚したのか、小首を捻って言う。


「どうしたの?」

「どうしたのってお前、何者だよ」

「あ、そういえば自己紹介してなかったけ?」

「そういう意味じゃねえ!」

「わたしの名前はフィナって言うの。よろしく。あなたの名前は?」


 銀髪、翡翠色の綺麗な瞳を持つこの少女はフィナというらしい。

 煌夜は自己紹介するのを少し躊躇った。

 自己紹介したが最後、フィナを見捨てれないような気がしたのだ。

 目の前の少女――フィナを見る。

 フィナはわくわくと笑顔で煌夜のことを見ている。

 自己紹介如きでなぜそんな顔ができるのか、煌夜にはわからなかったが、そんな顔をするフィナを前に名乗らないという選択肢は魔法のように消えていた。


「あー俺の名前は赤月煌夜」


 ケータイを開けたところ、時刻は既に八時八分。

 研究所についてもっと突っ込んで聞きたかったが、とりあえず問題を棚上げすることにした。


「あ、俺学校行ってくるから。昼飯はお粥食っといて」


 こんな時に学校か、と思うかもしれないが単位が取れないかもしれない魔術学で休むのはマズイのだ。

 少女が寂しそうな顔していたのがやけに気になった。



◆◆◆◆◆◆◆



「今日の魔術学よ。戦闘だよな」


 そう言ったのは煌夜と並ぶ劣等生――黒神創(くろかみつくる)だ。

 えらく冒涜的な感じのする名前だが本名である。

 整った顔立ちで、煌夜と同じ漆黒の髪を眉辺りまで伸ばしている男だ。


「え? マジ?」

「おう。ガンバレ。不良に追いかけられるのが日課だろ? 楽勝じゃん」

「楽勝な訳あるかあ! この俺のオンオフなしの能力のせいで絶対強い奴と当たるに決まってんだろうが! この前も学年で一番強い奴と当たったし!」

「ああ。そういや、お前山辺と当たりまくってるよなあ。あれか? 運命の赤い糸かなんかか?」

「バトルで繋がる赤い糸なんて聞いたことねえよ。つーかてめえだって当たる可能性があんのに余裕だな?」

「べ、別に余裕って訳じゃねえよ?」


 魔術戦。

 昨日の不良のように魔術の力をぶつけたくうずうずしている奴というのが少なからずいる。

 そこで、魔術を使って闘うというバカげた授業が作られたのだ。

 別に絶対に出ないといけない訳ではない。

 けれど、煌夜は出る。

 勿論、戦闘狂という訳ではない。

 単位が少ない人の救済措置でもあるからだ。


「はあ、サッサと終わらせよう」

「終わらせられるの間違いだろ?」

「うるせえ」



◆◆◆◆◆◆◆



山辺恋(やまべれん)赤月煌夜(あかつきこうや)


 コンピュータによって決められるらしい対戦発表にやっぱりか、と溜息を吐く。

 山辺は、爽やかな笑みを浮かべて言う。


「今日もよろしくね。赤月君」


 肩まで伸ばしている黒髪から申し訳程度に甘い匂いが漂ってくる。

 そういえばアイツもいい香りがしたな、と思ってからアイツしっかり留守番してんだろうな。

 研究施設って何の話だったんだろう? まだアイツ居るかな? と思考の海に沈んでいく。

 と、不意にぐいー、と頬を引っ張られた。


「よ・ろ・し・く・ね?」


 目の前には、氷細工のように整った顔をしている少女が目を吊り上げて怒っている。

 なんで怒ってんの? と疑問に思いながら視線に含まれる重圧に耐えきれず、目線を逸らす。


「よ・ろ・し・く・ね!?」


 煌夜はコクンと頷いた。



◆◆◆◆◆◆◆



「くそう! 魔術文使うなんてうわわわわあッ!?」



 魔術文(まじゅつぶん)

 魔術にはさまざまな発動方法がある。

 一番簡単なのが術式。

 そして最も難しい方法ではなく、二番目に難しいのが術式や魔法陣を記号化し、簡略化する魔術文を使った方法である。

 魔術文を使うには無意識を意識しなくてはならない。

 ただし、普通の無意識(無意識的な行動など)を意識しても意味はない。

 脳の魔術を生成する場所――そこに意識して踏み込むのだ。

 そこで、記号と魔力を練り合わせ、魔術を生成する。

 超難易度が高い方法だ。



 砂のつぶてを無様に転がって避ける。

 石で造られている部屋は転がるとやはり痛い。

 煌夜は身体、心の奥底にある『何か温かいモノ』――即ち魔力を引っ張り上げて身体の内側と外側に纏わせるイメージ。

 魔法で身体能力を上げ、恋の魔術を避ける。

 勝負の付け方はこうだ。

 弱い魔術を撃ってきたらすかさず飛び込み、倒れた振りをするか、制限時間である一〇分間、魔術を避けまくるかである。

 殴って倒したり、魔力を放って倒したりするのは後味が悪すぎる。

 まあ、こういう性格だからこそ『逃げるときにしか力を発揮できない可哀想な子』として認知されている訳だが。


「やるわね!」

「いや、ただ逃げてるだけだけど!?」


 煌夜の悲鳴に応答するように、

 ゴッ! 空気砲を何十倍にも高めたような音がした。

 恋の目の前で塵が中空を舞う。

 空気を圧縮して飛ばす魔術。

 それは、人を確実に気絶へと追い込む。

 それが、五つ。

 煌夜を全方位から襲う。


「まだよ!」


 恋の言葉と同時に石の床が蛇みたいにうねって、煌夜の足に絡んだ。

 簡単な命令をプログラムした魔力をモノに浸透させて動きを同調させる高等魔術だ。


(や、ばっっ!? 並列魔術!?)


 身体に纏わせている魔力を増加。

 攻撃に耐えうる身体を手に入れた煌夜は台風のような風に飲み込まれた。


「っ!?」


 直撃した筈なのに、キョトンとした顔で煌夜は立っていた。

 石は瓦礫と化し、煌夜の足元で横たわり、風は当然もう存在していない。


「なっ!? なんで!? なんで効いてないの!?」


 うろたえる恋に何と答えるか迷った挙句、本当のことを言うことにした。


「んーなんかよくわかんない」

「終了です」


 アナウンスが終了を告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ