野獣になるはずだった超王子
むかしむかしあるところに、立派なお城がありました。
お城には若く麗しい王子様と、家臣たちが住んでおりました。
ある寒い夜のことです。このお城を、一人のみすぼらしい老婆が訪れました。
今にも折れそうな杖をつき、ぼろぼろの服をまとった老婆は城の門番に言いました。
「わたくしは旅の者でございます。見ての通り、食べ物もお金もございません。この哀れな老婆をどうか一晩泊めていただけませんか」
そこで門番は国が運営している救貧院とかハロワを紹介してやりましたが、
「なんて冷たい対応だ!お前じゃ話にならん!責任者の王子を呼んで来い!」
と老婆は生活保護が下りないのを逆恨みして役所で暴れるカスハラ老害のようなことをわめき始めました。
老害があまりにもしつこいので、門番は渋々、王子に指示を仰ぎに行きました。
門番から詳細を聞いた王子が
「追い返せ」
と言ったので、門番はそのようにしました。
門番に追い払われた老婆は屈辱に震えました。
そして、その体が光り輝いたかと思うと、美しい妖精に姿を変えたのです。
「これが私の本来の姿。さぁ、慈愛の心を持たぬ傲慢な王子を連れてくるのです!」
門番は初めて見る魔法にすっかり震え上がって、王子のもとへ飛んでいきました。
再び話を聞いた王子は、仕方なく妖精のところに向かいました。
王子を見た妖精は嘲笑しました。
「おやおや、私が老婆の姿をしていた時は顔も見せなかったのに、力のある美しい妖精だと分かったとたんにおもてなしにやってくるとは、けだもののように醜い心の王子様だこと!そんなお前にふさわしい姿にしてやるわ!」
妖精は王子に向かって魔法の力を放ちました。
その時です。
キラーン!
王子を守るように光の幕が現れ、魔法の力が妖精のほうへ跳ね返りました。妖精は
「ぎゃぁっ!」
と叫んでその場に倒れました。
「おもてなし?何か勘違いしているようだな」
王子さまは倒れた妖精を蔑んだ目で見下ろしました。
「我は王子である。あらゆる魔法、魅了、洗脳から身を守る術を身に着けているのは当然であろう?人外の者に相対するのに、平民の門番では危ないではないか」
「王子……!」
門番はきゅんとしました。忠誠心がちょびっと上がりました。
「そんな……!高慢で尊大な王子が、たかが門番を守るために出てきたですって……!?」
「高慢?尊大?それはそなたの感想であろう。我が傲慢であるというデータはあるのか?」
「だ、だって、哀れな老婆を追い返す非道な真似をしたではありませんか!」
「我はこの城に住まう臣下を守る義務がある。王族への謁見にTPOも弁えぬ不審者を追い返すのは当然だ」
「うるさい!そこの門番のことはかばうくせに、不公平だわ!」
「どうして同じ平民というだけで、長年仕えてくれた門番と礼儀も知らぬ不審者を同列に扱ってもらえると思うのだ?そなたに恥という概念はないのか?」
王子はもはや軽蔑を通り越して、純粋な疑問なんだけど?みたいなキョトン顔です。
「こ、後悔しますよ!私の魔法で獣の姿になれば、姿に惑わされぬ真実の愛が手に入るはずだったのですから!真実の愛こそ最も尊いものなのです!」
妖精はそう叫んで、本来の筋書きを説明しました(詳しくは美女と野獣のあらすじ検索してください)。
一通り妖精の妄言を聞いた王子は、眉を顰めました。
「それが真実の愛?くだらない。我には幼き頃より支えてくれた婚約者がいる。忠義に篤い大臣の娘だ。どうして彼女を捨てて、どこの馬の骨とも知れぬ平民の娘を娶らねばらならぬのだ?」
王子から放たれる正論が妖精をぶちのめしました。もはやオーバーキルです。
しかし民を守るために立つ少年は、一度敵対したものに容赦しません。
「ところでそなた、なぜこの城の責任者が王ではなく『王子』だと知っていた?」
そう、この城には現在、国王はいないのです。
王子の父親は戦争で亡くなり、母親の王妃は報復のため兵を率いて戦場にいました。
「さては母上の不在を狙った敵国の者だな。生かしてはおけぬ」
「えっ?ま、待って、私、筋書通りに来ただけでそんなの知らな」
「わが勇敢な門番よ!奴の妖術は我が跳ね返す!外敵を滅ぼせ!」
これまでいいところなしだった門番ですが、フィジカルではこの場のだれにも負けません。
敬愛する王子に命じられ、手にしていた丸太のような槍で妖精を貫きました。
「よくやった。死体は森の中に埋めておけ。害獣や疫病が出るといけないからな」
最後まで危機管理ばっちりの王子は門番にそう命じると、執務室に戻っていきました。
忠実な門番は言われたとおりに少し離れた森に妖精の死体を埋めました。
しかし、妖精は人間の武器で殺すことはできません。
門番が立ち去るまで死んだふりをしていた妖精は、しばらくして地中から這い出してきました。
「おのれ……許さぬ、必ずあの邪智暴虐の王子を除かなければならぬ……!」
もう話変わってしもうとるやん。走れメ〇スやん。
完全なる逆恨みで激怒した妖精ですが、違和感を覚えました。
自慢の美しい声が、獣の唸り声のようなしわがれ声に変っているのです。
慌てて水辺に行ってみると、水面には毛むくじゃらの醜い野獣に変わり果てた自分の姿が映っていました。
「いやあああああああっ!!!そんな、そんなバカなぁぁああっ!!!」
そういえば王子に魔法を跳ね返されていたことを思い出した妖精は、悲鳴を上げました。
真実の愛(笑)、見つかるといいですね。
「きいいいいいっ、地の文まで私を馬鹿にして!こうなったら、ヒロインの方をどうにかしてやる……!」
妖精改め野獣は、ぶつぶつと呟きながら人里のほうに行きました。
ところで野獣の向かった村には、村人たちから「やべぇクレイジーサイコ発明家」と「美人だけど顔面が霞むレベルのマッドサイエンティスト」と恐れられる父娘が住んでいました。
「やったぞ、娘よ!ついに『どんな人外存在でも滅ぼす超次元レーザー砲搭載ロボ』が完成したぞ」
「すごいわ、父さん!やはり知識!知識こそ全てを解決するッ!!!」
親子は徹夜明けのテンションで新型ロボに乗り込み森へ繰り出しました。
そこへ、王子への恨み言を叫びながら暴れる野獣がやってきました。
「見て、父さん!人の言葉をしゃべる野獣がいるわ!」
「しかも聡明な王子殿下への悪態をついているぞ!試運転にちょうどいい、滅ぼしてやろう!」
知識と暴力に狂ってはいますが根は善良で人並みの愛国心も持ち合わせた親子は、野獣に向かってレーザー砲をブチかましました。
こうして、国の平和は守られたのでした。
めでたしめでたし。
このシリーズの主人公、いつも「力こそすべて!パワーこそ正義!!暴力はすべてを解決する!!!」みたいな脳筋ばっかりだったので、たまには知的な主人公にしてみようと思ったらひ〇ゆキッズになってた。解せぬ。
しかもオチは結局いつもの感じになった。解せぬ。




