第三話
まず、目線が低い。次に、下腹が軽くて、胸が重い。首を横に振れば揺れる長い髪の毛は邪魔で仕方ない。ショーウィンドウに映った姿を見て、本当にみなとになったのだと思った。
オリキャラメイキングが充実しているこのゲームで、湊はかなりの金と時間を賭けてキャラメイクをした。推しができなかったのは、オリキャラが自分好みの女の子すぎたからだろう。
今だって、いくら自分が中に入っていると判っていても可愛いと思ってしまう。
「えっと、ウィンドウとかは出ないのかな?」
残念ながらレベルが見られるわけではなさそうだ。もしもキャラレベルがそのまま反映されるなら最高レベルだったから割と好きにできたのだが。
みなとは防具をすでにつけていたから、取り敢えず初心者用モンスターでも倒してみようとワープ装置まで移動する。見覚えのある店に内装が存在していることに涙が出そうになる。ちゃんと、この世界でみなとが生きているような気がして。たかだかゲームに馬鹿らしいが、それでも抑えることはきかなかった。
見慣れたワープ陣の中に足を踏み入れる。本来ならウィンドウが出て選択するはずなのだが、そうはいかないのでみなとは心のなかで念じることとした。初心者向けモンスターが多いマップと言えば例の森だろう。
(ノースフォレスト。ノースフォレストにワープしたい)
みなとが望むと同時に陣は青く光り、またもや視界が歪む。そうして、今度はチラホラと雪の積もる森が視界いっぱいに開けた。
「おぉ……! すっげっ! さっむっ!」
ゲームでは感じられなかった寒さと、景色の美しさに声が漏れる。そうして武器を取り出そうとして――よく考えたらバッグを持っていないことに気がついた。
(あ、これ、アイテムボックスとかないけど……お馴染みの念じたら出てくる系? ソードでいっか)
右手に重みを感じて、みなとが視線を向ければ、望んだ通りのソードを握りしめていた。湊お気に入りのSランクソードだ。課金勢にしか買えないもので、これをもっているということはゲームデータそのままがインプットされていると考えてもいいのかもしれない。
暫く森を歩いていると、お待ちかねのハイエナが現れた。湊にとっては見慣れたグラフィックなものの、みなととして等身大で見ると、怖い。そこら辺にいる大型犬と変わりないサイズだ。だが、殺さなければ攻撃を食らう。し、このハイエナを殺すために湊はここにワープしてきたのだ。
(ごめんな……って、ゲームだからこいつにも命はないのか)
ソードの刃がハイエナに触れる。あっさり。あっさりとハイエナの首と胴体は切り離された。吹き出した血がソードについて、みなとにもかかる。生暖くて、本物ではなくとも気持ち悪いと思ってしまった。
「うわっ……なんか、別のやつにしよ。スライムとか。こんなことなら魔術師とかにしとけばよかったな。なんか……リアルすぎるわ。そこのリアルはいらなかった」
森には基本的に動物しかいないから、場所を移動しようと、来た道をみなとは引き返した。だが、行き道と違って、ことごとくハイエナが現れる。これもまたCONNECTED WORLDのゲーム性に忠実だが、その度に斬り殺して、斬り殺して、斬り殺して――。漸く元いた場所までたどり着いたときには、みなとの身体はドロドロだった。しかも、その全ては返り血。
洗浄するものもないのでこのままでいくしかないが、そもそも血に慣れてきてしまった。流石に量が多すぎて殺す度に罪悪感を覚えることもなかったし、駄目な方向へ向かっているような気がするが、ゲームなのだから問題ないのかもしれない。
(スライム……となれば、サンライズオーシャンかな)
考えると同時に今度は熱気と潮風に包まれる。この暑さは、祖母の家と同じだ。不意に湊は本当にこのままでいいのかと自問した。だが、どちらにせよ時が来るまで戻ることは叶わない。死なないように楽しめばいいだけの話なのだから考えたところで無意味だ。
疑問を振り払い、スライム探しに注力する。海の水と混ざっていることが大半だから、海浜を注意して歩かなければならない。潮の匂いがみなとの肺を満たす。ここまできれいな海は現実で見たことがないから、少しゲームを羨ましく思った。




