嫉妬
返す言葉を見つけられず、私はただ彼を見上げることしかできなかった。
胸は波立ち、喉は乾いて、言葉が出てこない。
そんな私の沈黙に、シャルルは苦しげに瞳を伏せ、そして絞り出すように言葉を重ねた。
「……ずっと、嫉妬していたんだ」
「嫉妬……?」
「そうだ。君は僕には一歩引いて、いつも控えめで……まるで心を閉ざしているみたいなのに」
彼は自嘲するように息をついた。
「アメリー嬢やオリヴィエ殿、そしてエドワード殿下の前では、楽しそうに笑うじゃないか。……その笑顔を見るたびに、胸の奥が焼けるように苦しかった」
彼の言葉が鋭く胸に刺さる。
私が一歩下がってしまうのは、彼に釣り合わないと思うから。それをどうしても言えないまま、いつも微笑で取り繕ってきた。
「家が決めた婚約者だから仕方がない。君も義務で僕の隣にいるんだって、何度も言い聞かせてきた」
シャルルの声は震えていた。
「けれど……それでも気持ちは抑えられない。どうしてだろうな。どうして、ずっと隣にいる僕には心を開いてくれないんだ?」
彼の瞳が切なげに揺れる。
「アメリー嬢にはあんな風に笑うのに。オリヴィエ殿には真剣に語りかけるのに。エドワード殿下には……あんな顔をするのに。……どうして、僕はだめなんだ?」
――胸が詰まる。
彼の問いにすぐ答えられない自分が、どうしようもなく情けなく思えた。
シャルルの胸の内を聞いて、私は言葉を失った。
――そんな風に、彼が思っていたなんて。
胸が詰まり、けれど沈黙していることが耐えられなくて、私はぽつぽつと声を紡いだ。
「……私は、ずっと……」
視線を落とし、絞り出すように。
「シャルルは、誰からも好かれる素敵な方だから。いつかきっと、私なんかよりもっと相応しい人を見つけて……私は置いていかれるんだって、そう思っていました」
彼の瞳が揺れるのを見て、胸の奥が痛んだ。
「私は、日陰の……壁の花が似合う人間です。あなたの隣には、もっと華やかで強くて……堂々とした人が似合うんです」
私の告白に、シャルルは眉を寄せ、かぶりを振った。
「違う」
低く、苦しげな声。
「僕は君が思うような人間じゃない。誰にでも優しくなんてできないし……君が他の人に笑いかけるだけで、嫉妬で気が狂いそうになる」
その真剣さに胸が震え、思わず呟いていた。
「……それじゃあ、まるで……私のことを、好きみたいじゃないですか」
沈黙ののち、彼の瞳が私を捉えた。逃げ場を与えないほど真っ直ぐに。
「――好きだ」
短く、けれど深い告白。
私の息が止まる。
「控えめに振る舞う君が好きだ。優しくて、でも芯があって……決して誰かを押しのけることなく、静かに寄り添う君が。ずっと」
彼は拳を握りしめるようにして言葉を続ける。
「だから、僕に心を開いてほしかった。義務や家の決めた婚約じゃなくて……君自身の気持ちで、僕を見てほしかったんだ」
その声は震えていて、けれど強く響いた。




