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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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炎の花

作者: 空希果実

 こちらリーパ・クレキス――航行に異常なし。引き続き善い夢を、マスター。

 超巨大宇宙船リーパ・クレキス。艦名と同名のAIであるリーパ・クレキスが私を再び眠りの世界へと(いざな)う。

 ……そして、私は長期睡眠装置の中で眠りに落ちた。


◇◆◇◆◇


 その夢の世界は戦争中だった。

 東京は空爆で火の海と化している。

「ママ……」

 幼くなっていた私は、不安な気持ちに駆られて母親の顔を見上げた。

「だいじょうぶよ、ママがいるから」

 母親が私の顔を見つめる。

 私は繋いでいた手をギュッと握りしめた。


 空から爆弾が落ちてくる。

 爆弾は地面に直撃すると同時に、激しく爆散する。

 ドカンッ! 炸裂音と同時に幾人もの人の身体が、赤黒い空へと舞い上がる。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 母親は私の手を引いて、爆弾の雨が降り注ぐ戦地をくぐり抜けていく。

 私の顔は恐怖で引きつっていた。


 父親も弟も戦争で死んでしまった。

 そして今また、たった2人になった家族の命が戦争に奪われようとしている。

 ――これは一体なんの罪だろうか? この地獄の戦火に何故巻き込まれているのだろうか?

 そんな思いが私の脳裏によぎった。


 ひゅおおおおおおおっ、とまた爆弾が落ちてきた。

 私は何か予感がした。或いは、不意を突かれたような気がした。

 爆弾が母親の頭に直撃した。

 母親の頭は激しく陥没し、ボキリと首の骨が折れた。

 瞬間的な出来事だった。

 私はポカンと口を開けたまま、その出来事を見送るのみだった。


 私は母親と握り合っていた手を離した。

 そして、駆け出した。

 駆け出して駆け出して、私は不意に立ち止まった。


 どうしようもない悲しみがこみ上げてきて、それは炎になった。

 私の身体から炎が出てきたのだ。

 私は燃え上がった。


 そして、戦火の炎と一体になり、東京という街を焼き尽くしていった。

 ――私は炎の花になったのだ。


◇◆◇◆◇


 かくして、45888回目のメンタルトレーニングプログラムは終了した。

 これは絶対虚無空間に挑む人類の心の虚ろを埋め、また、困難を乗り越えるために必要な心理面で必要な修練なのである。

 ――お疲れ様ですマスター。

 リーパ・クレキスが私を労ってくれる。


 現在は、西暦1万5777年。

 人類が戦争という忌まわしいものを克服してから1万年以上が経過している。

 母なる地球から4000万光年以上離れて、私は今、広大な宇宙空間を旅している。

 戦争という人類の黒歴史もこうして私のトレーニングの役に立っているのだから、まさに禍福は糾える縄の如しの言葉と同じく、長い目で見れば一体なにが人の役に立つのかは計り知れない。


 ちょっとティーブレイクをしよう。

 私は、リーパ・クレキスにフルーツティを所望した。


 3秒後に運ばれてきた、冷たいフルーツティに口づけしながら、私はシールドを透明色に変更して、眼前に広がる宇宙空間を見つめた。


 ――そこには、美しい満面の星々がきらめいていた。






 

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