進学先をあんまり考えないで決めた
佐山威冴久は行ける偏差値で家から近い高校で決めただけの新入生だ。
入学してから、通う高校が私立のミッション系学園と知った。
「アーメンとかマジか」
普通の学校生活に教会があり、ちょっと宗教味が入るのにカルチャーショックを感じているのだった。
「意味としてはそうだよ、佐山くん」
「神矢」
神矢真護は小学からこの学園に通うクラスメイトで、高校から入学の佐山を何かと気にかけてくれる、黒髪で目尻の下がった穏やかな雰囲気の友達だ。
少し学校に馴染んだ6月に高校1年生は学習合宿なるものにバスで向かった。
目的地はセミナリオとある。
「なぁ、神矢。セミナリオって聞いたこと無いんだけど、どこのホテル」
「安土桃山時代くらいに中高生くらいの子たちにキリスト教の教育をして、優秀な神父候補の育成していた学校というのが一般的だけど・・・今から行くのは、明治になってから建てられたこの学校の前身の、全寮制男子校跡地」
「こんな山奥に元々あったのか?!」
「山奥の全寮制男子校って、こう響きが・・・デカダンな感じだよね」
「は?何語」
ポコ。
「昭和に共学にするにあたって今の場所に移転したのですよ」
遠足の冊子で佐山の頭を小突いて後ろの席から顔を出した女子は、清水アヤ。
佐山と同じ小学から学園育ち。
小柄でショートボブで大人しい雰囲気の少女だ。
「見えてきましたよ。あの洋館です」
見えてきたそこは、ホラー映画に出てくるような、古い立派な洋館だった。
「・・・ゾクゾクするよ、アヤさん」
「節度を持って頑張るのよ真護さん。アーメン」
「節度を持つのはアヤさんでしょう。アーメン」
「ねぇ、何?2人で会話しないで」
こうして二泊三日の学習合宿は始まったのである。