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80 8月11日、いつもの時間

 全年齢で許されるエロ描写の程度がわかんない……

 抱き締めて、抱き締められた状態でレスティアートが言った。


「こういうのは手順が大事なのです。一から講義してあげるので、私の指示にはきちんと従ってくださいね? ──従わない場合、ワンラウンド追加ですので。ええ」


 言われた通りに口付けし、それを返された。念話で求められる程度にそれを繰り返し、その度に、腕の力を一定に保つよう努めた。


「す、素直すぎるというのも考え物ですね……! あ、いえ、順調ですよ!? こ、この調子でいってみましょう! ……ええと、では脱がせてくれますか……?」


 芸術品のように白い裸身から目を逸らす。どう考えても男が、というか人間が触れていい存在じゃないと思った。だがそんな此方を無視して、或いは構うことなく、相手もぐいぐいとこっちの衣服を引っ張り始めた。追いはぎじみた力の強さである。恥ずかしがっているようで、その実、まったく躊躇いがないらしい。


「……では手本を見せるので、後でそちらもやってくださいね?」


 そこから流れが加速した。本当に遠慮というものがない。

 ただ、この辺で既視感を覚えた。──前にもあったような、そんな感覚。彼女の好きなところを好きにされ、それを受け入れる。白い美獣が自分という肉を食らっているような光景。味を覚え、匂いをつけ、手指を絡め、互いの姿を視界に映す。


「大丈夫、すぐ終わりますよ? お、終わりますから! ソッコー記憶復元して、それで元通りです! 必要な回数こなすだけですからね。……そんなに心配しなくても大丈夫ですから。ね?」


 ……やはり別の方法を模索した方がいいんじゃ。


「ワンラウンド追加! 追加しますよ!?」


 ……ところで俺が押し倒される側なの?


「お、お手本ですよお手本! あ、いや、まぁ、一回しかしませんけどね!」


 ほほほ、と優雅な笑みを零される。

 体勢がそれとはかけ離れてる気がするが、結局言われるがままにすると、霊力の循環が開始した。

 失われていた情報が精神の深層からサルベージされていき、時間という道が整えられ、「現在」の意識が形作られ、──我を取り戻す。


「……ディア?」


 それは彼女の方も同じだったようで、


「あ……このまま霊力供給、いいですか?」


 した。



     ◆



 ……さて。記憶も戻ってきたので振り返りといこう。

 なんか眼下ではまだ白い毛玉がにゃーにゃー言ってる気がするがスルーで。総スルーで。


『スルーはいやです~♪ ゆるしませ~ん』


 ただし念話は通す。

 遮断の仕様がないからな……!


 とにかく結論から言うと、今の俺は()()()に当たる。

 そう。

 日下部の事故死を起点、つまりは「一周目」と定義して。

 彼の事故死を防いだ回を、「二周目」とする。


 その次の三周目。今。現在。今回。ナウ。

 このカミングアウトでお察しの通り、「二周目の俺」はループの打破に失敗している。


 二周目がループし、三周目に入ってしまった原因が起きるのは8月11日。

 すなわち──今日だ。


『あえっ!? じゃっ、じゃあ、私とここでイチャラブしてる場合じゃないのでは!?』


 いや、必要だ。

 11日を通過して、無事に12日まで行くことを目標としているこの三周目。

 結局、俺は11日までのことしか知らないワケだ。「ループの原因」を一つ排除したとしても、まだ()()()()


 未知がある。

 知識の空白がある。

 俺はまだ──このループ現象の真相や、原因究明に至るまでの知識が不足している。


 だから考えるべきはこうだ。

 来たる四周目のために、万全の準備を整えておくこと。

 だからレスティアートには、ここで万全の状態にまで回復しておいてほしいのだ。

 11日の問題を解決した後、12日以降に起こる「なにか」を解決、或いは対策するためにも。


『な、なるほど……!』


『それに現状、俺が問答無用で完全に信頼できるのって、レティが筆頭だからな……』


 あ、ちょっと、力を入れるな。どうしてそんなに暗闇でも爛々と光る肉食獣のような目をしなさって──!?


 作戦会議中断。

 ……案の定、盛り上がってしまったんで。



     ◆



「キリセがえっちなのがいけないんですよ!!」


「はいはい、色気のある男でごめんなさいね。あと名前呼び続いてるぞ」


 指摘した途端、レティが布団に籠城した。

 まんじゅう再び降臨。下手につつくとビームを撃ってくるらしいぞ。

 ともあれ、だ。


 色々とグチャグチャになってた場や互いの身はレティが霊力で一括清掃し、俺は俺で着替えを持ってきて身なりを整えた。

 でもレティが一向に出てこないんで、まだ布団の中で生まれたままの姿だ。風邪ひきますよ。


「時間は……朝の五時か。まだ余裕あるな」


 事が起きるのは七時台だ。

 それまでに状況整理と情報共有とを、やっつけておくべきだろう。


「レーティー? まだ出てこないのか?」


 ズボンとシャツを着終わって声がけすると、


『……霊力、変換中なんです。タイヘンなんですよこれ! い、いっぱいするから……』


「……すまん」


『ううっ、謝らないでください! わ、私は嬉しいんですから……っ』


 可愛すぎたのでちょっと天を仰ぐ。

 いいよな世界? 人間、情緒が限界になると天を仰ぐくらい、してもいいよな……!


 しかし変換作業は時間がかかるし、その間になにか朝飯になるものを取りにいくことにする。

 冷蔵庫を漁って、リンゴを見つけたので採用。果物ナイフも手に、まんじゅう様のおわす、ベッドに腰かける。


「あ」


 ひょこ、とそこで布団から嫁が顔を出した。姿はもちろんロリじゃない。十六歳の方だ。

 俺が持ってきたものを見て、ぱかっと口を開ける。そこにカットしたリンゴを一切れ差し込むと、しゃくしゃくしゃくとリンゴが吸い込まれていく。……なんかこういう動物みてー。


『……「前」も同じこと、しました?』


「いや、二周目はブドウを買ってたからそっちを食べた。今回リンゴにしたのはまぁ、俺が切りやすいから」


 少しだけ、前回とは異なること。

 起きる展開や周りの反応は同じでも、苦痛とは思っていない。周回数がまだ少ないから、こういう感覚なのかもしれないが。


『……私からすれば、ディアがループしているようには見えません。異様に頼りがいがあるというか、落ち着いてるなぁ、と思うことはありますけど』


「そうか? 限定期間とはいえ、未来人みたいなもんだからかな……」


『……本当にぜんぜん平気そうに見えますけど、大丈夫なんですか? あ、私の反応も、もしかしてもう知っていたり……?』


「会話の流れや話題にもよるが、『完全にまったく同じやりとり』はねぇよ。そもそも俺自身が、前回と『まったく同じ状態』じゃねぇからな。それに影響されて、レティの方も少しずつ違ってる」


『そ、そうなんですか……!』


 同じ光景、同じやりとり、同じ展開──

 飽き飽きする現象なんだろうが、俺としてはあれだ。同じだけども、ちょっとずつ違うレスティアートを見れて実はテンションが高い。


 顔の角度、声の抑揚、瞬きの速さ、歩きのリズム、鼻歌のニュアンス、髪のなびき方、重心の場所、握ってくる手の力の違い、口付けの深さ、触れてくる指の動き、念話の響き方、脈拍、細胞、レスティアートを構成する全ての情報が類似性はありつつも違いがあるのが、実に興味深──


「ふわああああ!! 分かりました分かりましたから、そんな、そんな恥ずかしいことを淡々と分析して滔々と語らないでくださ──い!!」


「その台詞は初めて聞いた」


「ディアがもう、本当に私に夢中なのは分かってますからぁ……ううっ。なんか『前』の私が元気づけることでも言ってたのかなー、って期待したのに、予想遥か斜め上の現実ですよっ。どうなってんですかあなたはっ」


「いやまぁ、レティが隣にいる限り永遠も生きられる自信しかねぇからな……ほい」


 次のリンゴを差し出すと、はむっ! とまんじゅう精霊が食べていく。

 ──四周目があったら同じリンゴにしよう。うん、そうしよう。


「というか……『二周目』の時は俺、記憶喪失になってもちゃんとレティに一目惚れしたんだぜ?」


「……へ?」


「昨夜のことは全部初見だった。中学生の俺のことだから、お前の地雷踏みまくってヤンデレ監禁拘束疑似エンドに突っ込むと思ってたんだが、存外やるもんだな」


 ──「手を出すな」、とメッセージを残したのは、反抗精神を刺激するためのものだ。

 当時の俺のことだから、自分自身からの命令も無視すると思ったんだが、読みが外れた。


「アストラルと対峙した時、記憶を失うと同時に、二周目の俺は完全体のレティを見たんだよ。結果、起きてお前がロリになってても状況を把握して恋人と認識したわけ」


「えぇぇ!? そ、その場合、じゃあ……今回の逆転おねショタ無知シチュはなかったんですか!?」


「なかったよ。ていうかなんでそういうルートに突っ込んじゃったのお前は」


 俺もびっくりしてるよ!

 記憶喪失ついでに性知識も消し飛ぶとか予想できんわ!


「とにかく、だ。二周目の俺は調子に乗ってお前を口説きまくったら、家に着いた瞬間に襲われた」


「私ー!! 何をしてるんですか私ーッ!!」


 獣でした。

 陥落のスピードも攻略速度も速すぎて俺はお前が心配になるぜ。


「……それで記憶が戻るのも早かったけどな。日が変わる前に榊に記憶が戻ったことを報告したら、『お前はRTA走者か?』って呆れられた」


「ぼッ、煩悩が結果的に良い方向に転がったってことですよね! ね!」


「そこは愛の力って言っとかない?」


 そんなこんなで。


「まぁ……記憶が早めに戻ったところで、俺たちに出来ることは少なかった。アストラルは一時撃退したし、ひとまずレティの霊力回復を急いでくれって上から頼まれたぐらいでな」


「…………ちょ、つまりあの」


「……だから急いだぜ? 命令だし……」


「ああああああ!!」


 第二ラウンド開幕。

 ちなみに当のレスティアートさんはノリノリでした。俺もだけど。


「んで、区切りついた頃には七時になってて……家で待機状態ってのもアレだし、情報収集に繰り出したんだよ」


「情報収集?」


「その先で、ループが起きた」


 俺は思い出す。二周目のことを。

 体感でいえば、四日前にあたる出来事を──



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