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07 屋上デート

 昼休みになった。


 あれから他のクラスから遠目に見てくる連中こそ居たものの、下手に絡んでくる馬鹿はいなくなった。学園長からの通達事項があった影響だろう。俺はともかくとして、レティは「可愛い」くらいしか情報のない精霊だ。一体何が地雷になるのか未知数の相手に、考えなしに突っ込む阿呆はいなかった。


 そこはこの学園の入学水準を推し量る良い指標にもなった。チンピラ崩れも多少混じってはいるが、学園長の言いつけを無視するほど馬鹿じゃない。


 精霊の恐ろしさは、精霊士が一番よく解っているのだから。



 購買で適当に昼食を買い込み、屋上へと足を向ける。学園における俺の唯一の憩いの場だ。春から占領してからというもの、半ば俺の縄張りじみている。


「……あぁ?」


 しかし階段を上がって扉を開けた先、そこに見つけた景色に眉をひそめる。

 フェンスで囲われた屋外の空間は晴れ模様。それはいい。

 問題は──その隅っこに、妙な連中が集まっていたことだ。


「よぉ、御曹司様? ちーっとそこ退いてくださいませんかねェ?」


 朝、俺に絡んできた連中よりワンランク下っぽい男子三人。

 身なりは普通の生徒のようだが、朝の奴らとは別ベクトルの低俗さを感じる。精霊契約もなってない俺に突っかかってくる度胸はなく、しかし自分たちが強気に出られる弱者のみをターゲットにしたハイエナ…………的な。


 これでも俺は数々の不良を相手にしてきたので、その辺の目利きには自信がある。

 特にいらない特技である。

 で、そんな連中の相手をすることになってる不運な奴らは、と。


「えーと……お互い文明人だし、話し合いで解決できないかなぁ、と俺は思うんだけど」


 御曹司、と呼ばれた黒髪の、言ってしまえばあまり特徴のない少年。背丈は一八〇ある俺より少し低いくらいで、明らかに喧嘩慣れしていない雰囲気だ。

 その後ろには庇うように、藍色髪をハーフアップにしている小柄な女子生徒がいた。


 ……どうやら俺はラノベみたいな場面に出くわしてしまったらしい。しかも他人の。

 邪魔だから他所(よそ)でやれ。


「オイ、人の縄張りで勝手に揉めてんじゃねぇよ」


「あぁ? 部外者は黙って──うおぁっ!? 刈間斬世ェ!?」


 横から声掛けすると、それだけで震え上がる凡愚たち。

 やはり俺の目付きは相当悪いらしい。御曹司呼ばわりされた少年も、こっちを見て目を見開いている。少女の方も、不安そうに少年の制服の裾を掴んだ。


「っ……ちょ、丁度よかった! おい、お前も奏宮(かなみや)の女にはうんざりしてるだろ!?」


 此方の登場に驚いた様子のリーダー格っぽい少年だったが、すぐさま仕切り直した。悪知恵を働かせる余裕はあるらしい。小物評価、ランクアップだ。


「こいつ、あの女の妹なんだよ! 朝の一連、見たぜ!? お前だってあの副会長に絡まれてメーワクしてるんだろ、なぁ!?」


 少年が親指で指し示したのは、奥にいる藍色髪の女子生徒。

 あの正義女の身内、ね。なるほど、状況はおおむね把握できたが──


「ンな(こす)い手に走るくらいなら本人に直接言えよ……思春期か?」


「なッ……」


「な、じゃねぇよ。状況のダサさが男として終わり尽くしてるんだよお前ら。そりゃ戦術上、数の有利性は俺も認めるが、女一人に男三人……いや四人か? って、バランス悪すぎだろ」


「ちょっ、そこに俺は入れないで欲しいんだけど!?」


 ヒーローの立ち位置にいる黒髪の少年からそんな抗議が届く。やはり彼はあちら側と見なしていいらしい。となるとこの状況は、


「あぁ……んじゃあ何か。カップルに嫉妬した負け犬たちの遠吠え場か、ここは」


「てめぇ……! っざけてんじゃねぇぞ!!」


()()()()


 一言で、全員が縮こまった。

 敵意には殺意を返す。ごく単純な威圧だが、低級の不良学生を散らすには大体これでいける。

 殴り合いに発展させない、相手の気概を削いで逃走心を刺激する。

 省エネというやつだ。


「これ以上、貴重な時間をてめえらみたいな雑音に消費させんじゃねぇ。うさ晴らしなら魔獣相手にやれ、クソガキども」


「っ……!」


「お……おい、行こうぜ……」


 取り巻きの一人がリーダー格に進言し、流れの空気で彼らは屋上の出口に歩いていく。

 俺とすれ違っていくまで、リーダー格の少年だけがじっと敵意の眼差しを向けていた。

 ──ので。


「野郎、ナメんじゃッ──っがぁ!?」


 こちらの背後を取った途端、不意打ちに動いた少年の首を掴み取る。

 完全に長年の喧嘩の慣れだ。先の威圧で意志が折れない奴は、大体同じパターンをとる。

 すなわち不意打ちか、放課後に待ち伏せか。

 こういう時、前者に動いてくれる方は楽でいい。即座にその場で意志を折ればいいのだから。


「……、」


「わっ、わかっ……わるかった、わるかったから離しっ……!!」


 本気で涙目になってきたところで解放してやる。戦意の折れた少年が少年が膝から崩れ落ちた。それに、慌てて他の仲間が肩を貸す。


「友人は大事にな──オラ、さっさと行け」


「ひぃぃ……!!」


 名も知れぬ不良たちは余計な捨て台詞もなく屋上から逃げていく。

 潔いほどの逃げっぷりだ。負け犬としてはウルトラ級の連中だった。もしや、ちゃんと公平さを期して俺に素手で突っかかってきた奴らって、実は凄かったのかもしれない。


 謎の感慨。

 別に知りたくなかったが。


『余計な時間食っちまったな……レティ?』


『はっ……す、すみません。ディアのイケメンっぷりにやられていましたっ』


『そう……えっ、どこがどの辺が!?』


『!? ひ、ヒミツです!』


 ……なんと殺生な……

 秘密とはいじらしいが、めちゃくちゃ気になる。すっげえ気になる。今の日常な(いつもの)やり取りのどの辺にイケメンムーヴがあったと言うんだ! 今後の参考にぜひとも知りたいッ……!!


 宇宙の真理はいつも遠く、届かない。

 無情である。


「はあ……あ?」


「ッ……」


 肩を落としたところで、視線が合う。

 不良どもがいなくなり、残った者たち──すなわち、詰められていた少年少女と。


良夜(よしや)は……私が守る」


「ちょっ、架鈴(かりん)!?」


 そこで庇われていた女が前に出てくる。

 この後の話の流れが目に浮かんで、俺は溜息をついた。


「あ、危ないって! いや……具体的にあいつがどう危ないのか、よく分からないけど!」


「お姉ちゃんがよく言ってる。刈間斬世という男は物騒だと。絶対に近付いてはいけない、と」


「やっぱり理由が不透明だよねソレ!?」


「でもお姉ちゃんが……人を殴ってるところを見た、と」


「あ、危ない人だーっ!?」


 うーん、この初々しい反応。

 なんつーか、新鮮な気分だ。こんなに真っ当な性格をした同年代を見ると感動すら覚える。人類ってまだ捨てたもんじゃねぇな。


 とまぁ、茶番を繰り広げてる二人なぞ、俺はとっくにスルーしていた。

 認識外のものとして除外した。

 彼らのいる前を通り過ぎて、その向こうにあったベンチに腰掛ける。さ、昼飯の時間だ。


「あ、……あの? えーと……?」


「ンだよ」


「ひょわっ!? え、えーと……俺たちに用があるわけじゃ……」


「ねぇよ。通りがかりだ。飯食うからあっち行け」


 しっしっ、と手を払う。ここからは俺とレティの屋上デートだ。第三者、消えるべし。


「……危なく、なさそう?」


「……みたい、だね?」


「人を珍獣みてぇに言ってんじゃねぇよ、礼儀知らずども」


「ご、ごめん! ええと、その、ありがとう……!」


「……ございます……?」


 疑問形かよ。

 我ながら、随分と尾ひれのついた悪評が流れているらしい。

 ともあれ、これでこの二人も消えるだろう──と思った矢先、右横に少年が座ってきた。


「俺、如月(きさらぎ)良夜(よしや)。よろしく!」


「…………」


 言葉を失った。

 よく分からなすぎて。

 知らない展開すぎた。


「……え。コミュ力高……」


「ドン引き!?」


「良夜の良いところ、懐きやすい。悪いところ、節操なし」


 もしかしてリアル一級フラグ建築士なんだろうか、こいつ……

 今の、普通は屋上から黙って立ち去るところだぞ。


「ええ、でも斬世は助けてくれたんだし……」


「呼び捨てが早すぎるだろ……もしかして知らねぇ間に五年ぐらい経ったのか?」


「良夜はそういうところ、ある。私だけの存在しない記憶も、ある」


「それは絶対(ぜって)ぇお前だけだろ、妄想家」


「私は奏宮(かなみや)架鈴(かりん)。……あの、本当にさっきはありがとう」


「そっちの事情なんざどうでもいい」


「……じゃあ、いつもお姉ちゃんがお世話に……なってる?」


「なってねぇっつの」


 奏宮副会長の妹、確定。いやさっきの奴らもそう言っていたが……

 余計な繋がりを持ってしまったかもしれない。俺としては副会長にあまり近づきたくないのだ。なんかこう、ああいう人種(お人よし)には苦手意識が先行してしまうので。


「? 斬世って華楓(かえで)さんと知り合いなの? あ、カレーパンもらっていい? 昼飯、買ってなくってさー」


「図々しすぎるだろお前……! 御曹司って話はどこいった!」


 ビニール袋に手を伸ばした恐れ知らずから咄嗟に袋を遠ざける。いや、いくつか適当に買ってきたものばかりなので、一つくらい強奪されても問題はないのだが……、


「うん、御曹司だぞ俺は。って言ってもお飾りだけど。暗躍とかは大人たちが凄いんだよね、子供が入れる隙なんてないよ。ここに入学したのも、敷かれたレールに従ってきたってだけだし」


「流れるように自分語りを展開すんな。どうでもいいわ。オラ、適当に食ったら出てけ!」


 カレーパンを投げ渡すと、わぁい、とキャッチする御曹司。

 ……なんか、こいつを見てると金持ちのイメージが崩れていく。威厳とか無さすぎだろ。公園で懐いてきたワンコか。


「私にも一つ」


 と、奏宮妹が屈んで両手を差し出してくる。はぁ~あ、と俺は盛大に息を吐いて、適当にあんパンを恵んでやった。


「感謝」


 そして当然のように如月良夜の隣にくっつくようにして座りに行く。

 初対面の相手にバカップルかますとか、どうなってんだこの学園の風紀は。てかカレーパンに夢中で、そんな奏宮妹のアピールに一切気付いてねぇ如月もどうなんだ。


 ……てかこいつ、サラッと如月姓か。白スーツといい、マンションといい、最近縁がありすぎる。



「ディーアっ。そろそろデートしましょ!」



 パッ、と。

 目の前にレスティアートが現れた。

 目の前にレスティアートが現れた!


 大事なことなので二度報告した。ぷくっ、と白い頬を膨らませて、放置されて焦れたような表情を目に焼きつける。


「ん……ああ、おう……」


 しかも制服姿だ。無論、この服の出所は委員会から送られてきた荷物である。

 登校前にも眺めまわした姿だが、どうしてもミニスカと黒のニーソックスの間の絶対領域に目がいく。なんだあの聖域。委員会に幸あれ。


「えっ──せ、精霊!? え、あれぇ!? ど、独自顕現してる!? いや自力顕現!?」


「……ビックリ。すっごい、美少女だ……!」


 って、隣の外野がうるせぇ。


「そこまで驚くようなことか?」


「驚くよ! 精霊って普通、励起(れいき)しないと実体化できないでしょ!」


「励起……? あぁ……」


 船で襲撃された時のことを思い出す。

 そういえばあの時に出くわした精霊士も、何か唱えていたな。


「ディアっ」


「あ~、わかったわかった。甘いのと違うの、どっちにする?」


「甘いので!」


 そう言って此方の膝上に乗ってくる。軽やかな体重を乗せた柔らかさに脳をやられつつも、袋からチョコパンを取り出して渡せば、嬉しそうにもくもく食べ始めた。


「何て高度なイチャつき術……! 良夜、私たちも」


「いや、脈絡が不明すぎるけど!? 体格差のある二人ならともかく、俺らじゃ食べづらいでしょ!」


 ツッコむべきはそこじゃねぇと思うんだがなァ……

 “膝上に乗られる”というシチュエーションになぜ疑問を覚えないのか。レティに脳をやられっぱなしの俺だが、そこまでまだ常識(りせい)を捨ててはいない。


 ともあれ、周りに与えすぎて俺も腹が減っている。残ったサンドイッチの袋を開けて、一口かじる。


「ディア、そっちはどんな味ですか?」


「ん……普通だぞ。食うか?」


「はむっ……おお、これもまた美味ですね……こっちも美味しいですよ、ほらっ」


 食べかけのチョコパンを差し出されたので遠慮なくかぶりつく。うん、甘い。


「あま────いッ!!」


「うおっなんだいきなり」


 急に叫んだ如月に怯んでしまう。発狂でもしたのかコイツ。


「流れるような間接キス! き、斬世、見た目だけ不良じゃん! すごいリア充じゃん!」


「間接キスなんてキスの下位互換だろ、何の問題が?」


「……キスは、してるんだ…………わぁ」


 奏宮妹の方はなんか赤くなってるし。

 まぁ年頃の男女だったら、普通はそんな反応か。これは俺たちがちょっと特殊すぎるんだろう。なにせ出会いが出会いだ。

 そこで俺の胸に体重を預けつつ、レティが小首を傾げる。


「ヨシヤさんとカリンさんはキス、しないんですか?」


「しっ、しないよ! そういうのは付き合った男女が適切な段階を踏んでから──ッ」


「良夜。……私は、いつでもいい」


「いいって何が!? もっと自分を大事にしないと駄目だよ架鈴ッ!?」


「むぅ……難敵」


 確かにこいつは難敵だ。つーか、本物だ。

 この鈍感加減は御曹司としての環境によるものだろうか……箱入り娘ならぬ、箱入り坊ちゃん。奏宮妹、とんでもなく高難度な(いくさ)中なのかもしれない。応援はしてやろう。


「さっきの人たちに絡まれた時もさー……確かに校内では、先生や生徒会の人の許可なく精霊を顕現させるのは校則違反だけど、ああいう場合は自分の身を優先した方がいいって……」


 そんな良夜の言葉に、俺は膝上のレティと顔を見合わせる。


「校則違反らしいぞ、レティ」


「私が勝手に顕現してるのでディアは悪くないのでは?」


「法の抜け穴ってやつか……」


 なんでもアリだな、このロリ精霊。

 感心したので頭を撫でる。チョコパンを手にニッコニコだ。可愛い。


「貴方たちの場合は特殊例外すぎると思うけど……でもあんな不良相手に『アイカ』を出しちゃったら、あの子、やりすぎちゃうだろうし……」


「アイカ?」


「私の契約精霊の名前。本当は『焔罪姫(えんざいき)』っていうんだけど」


 エンザイキ。なんか計算機の親戚みたいな名前だ。どんな字で書くんだそれ。


「いつ聞いてもカッコいい異名だよね! 戦車みたいで!」


「良夜、アイカは怒ってる」


「なんでぇ!?」


「およそ女の子の名前の誉め方ではないですよね……」


「感性が男子小学生並み……」


「そこまで言う!?」


 これぐらい言わなきゃ、自分の残念さに自覚さえ持たねぇだろこいつ。

 つーか、そういう如月の契約精霊はどんな奴なんだろうか?


「でも意外ですね。まさか貴方のような……戦とは無縁そうな方が当代の『竜使い』とは」


 さらっとレティが何かを言い当てた。

 竜使い──と呼ばれた如月は、おお、と目を丸くする。


「し、知ってるんだ。俺の家のこと」


「代々、竜精霊と契約する家系でしょう? 私が戦線に出ていた時代も、別の戦場で戦功を上げたという話を聞いたことがあります。面識は最後までありませんでしたが……」


 竜精霊……

 騎士精霊に並び立つといわれる上位精霊の一つか。人柄はともかく、実に名門出身らしい契約精霊だ。


「でも、なんで俺の契約精霊が竜だって……」


「……気配でなんとなく分かりますから。そういうものです」


「そういうものなんだ……上位精霊って凄いなぁ……」


「……、」


 馬鹿正直に如月は感心しているが、この違和感を見逃す俺ではない。

 念話チャンネル接続。


『……ダウト』


『えぅっ』


『なんなんだよ、もったいぶって。ホントに気配で分かってんのか?』


 表面上は素知らぬ顔を装いながらサンドイッチを咀嚼しつつ、レティの様子を見る。

 ……俯いたままチョコパンを食べ続けている。無言で腹に手を回して体を固定してやった。ぴくっ、と震えると、頭から湯気を出し始めた。降参宣言と見ていいだろう。


『……ゲンガン。「幻」に「眼」と書いて、“幻眼”という目を持ってるんです。魔眼の一種ですね。生まれた時からあった視界で……不可視状態の他の精霊を目視できるんです』


『ほおー……ってことはレティには、学園中の精霊が見えてんのか』


『そうですね。すごい数の精霊が集まってます。……精霊ってこんなに一杯いたんですね』


 ……なにか引っかかる物言いだな。レティの出身は三千年前……精霊召喚が主流になり始めた黎明期、だったか。そんな時代で活躍していたなら、精霊の多さなんて珍しくもなさそうだが──、


 と、そこまで考えたところでチャイムが鳴った。

 昼休み終了だ。さっさと残っていたサンドイッチを飲み込む。


「ディア」


「むぐっ」


「「!?」」


 呼ばれて顔を向けた瞬間、ネクタイを引っ張られて口づけされた。

 しかもペロりと舌で唇を舐められる。……チョコの味がした。


「はい、ごちそうさまでした☆」


「……お粗末様っした」


 立ち上がったレティは、くるっとターンして白髪を翻しながら虚空に消えていく。勝ち逃げみたいな真似ができるの、ズルくねぇか?


「イチャラブだ……本物のイチャラブだ……」


「実にバカップル極まれり……負けていられない……」


 横から目撃者たちの視線が突き刺さり、顔を背ける。


「うるせぇうるせぇ。……チッ、さっさと戻るぞ」


 男のプライドもクソもなかった。

 俺の契約精霊、無敵すぎる。



     ◆



「──あ、ねぇ! 斬世、なんで俺たちを助けてくれたの?」


 足早に屋上から出て行こうとする斬世の背に、良夜が問いかけた。

 学園の落第生。精霊の加護もなく、その身一つで学園中の不良たちを敵に回していることから、彼らの抑止力的存在にもなっているという生徒。


 精霊士としての適性がないことから、あらゆる学生たちに特待生入学を疎まれ、目の敵にされている彼は、いかなる行動原理で自分たちに関わったのか──


 屋上が縄張りだったから?

 ならばすぐにこの場を立ち去ればよかったものを。


 単純に目障りだったから?

 ──うん、これが一番、如月良夜としてはしっくりくる。


 屋上の扉をくぐりながら、果たして斬世が返した答えは──


「なんでって、困ってる奴がいたら助けるだろ」


「──え」


 意外も意外、どころではない。想像外の予想外。

 理由など存在しない。損得勘定すら考えていない。

 至極シンプルに。

 彼はそういうものであるから、手を貸しただけにすぎなかった。



 とはいえ──刈間斬世の認識としては。

 進んで「困ってる奴」を見つけに行って首を突っ込むような()()()()ではないし、自分にまったく益のない、損しかもたらさないような事にまで踏み込んでいくような()()でもない。


 妥当な理由も考えもない。そんな細かいこと考えながら生きてる人生ではない。

 だから“どうして”助けてくれたのかと問われれば、「そりゃ普通、助けるだろ」としか言いようがなくなるだけだった。消去法的に。


『ッ~~!! ディア! ああもう、ディア! どうしてあなたはディアなのですか──!』


『え、何。いきなり難解な呪文だな……?』


 不意に出題された恋人の謎かけに、彼は頭を悩ませる。

 乙女心の琴線がさっぱり分からない昼だった。



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