23 実質初デート
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木曜日、金曜日としっかり登校し、授業に出て、小規模界域で魔獣を倒す日々を送り──休日が訪れる。
先週の初陣からもう一週間……と考えると、時間が経つのは本当に早い。特にレティと一緒にいる間は、完全に時間の感覚がなくなる。永遠に生きるとか、初めは果てしないことのように思っていたが、この調子だとぜんぜん気にならない。彼女と一緒なら何億年でも余裕に違いない。
「んふふ~……えへへぇ~……」
そんなレスティアートは現在、ソファに座って堪えがたい喜悦の笑い声を零している。
天井の照明にかざすようにして彼女が見つめているのは、数日前に買ったばかりのシルバーリング。……といっても、安物のペアリングだ。結婚指輪の方は値が張るからという理由もあるが、素材や刻印に拘ったフルオーダーとなると、注文の品が届くまでそれなりの時間がかかる。
まあ、そっちも買ったけど。
その買った帰りに、ペアリングの方も購入しに行ったわけだ。お陰でしばらくあの調子である。
「レティ、そろそろ行くぞ?」
「はぁい!」
大事そうに指輪を左の薬指に嵌めるレティ。
当の俺の左手も同じようなことになっているが。
「これは、もう……結婚したも同義ですね!」
「今更じゃねぇ?」
「もー! またそんなこと言ってー! も~っ!」
レスティアート、超上機嫌。
天使か? 天使だな。天使だったわ。証明完了、世界の真理がまた一つ明らかになった。
◆
本日は土曜日。6月23日。
この日は架鈴と良夜の奴がデートに行く日であり、俺とレティとしては、別の用事で外出することになっていた。
なんだっけ?
「ディアのお友達に会いに行くんですよねっ」
「そうだったそうだった」
出かけることは覚えていても目的が完全に頭から消えていた。
例の中学時代の旧友が、久々に会わないか、と──
俺が体調不良でぶっ倒れていたあの日、メールで連絡してきていたのだった。ちょっと確認しておく。
『この街で一番でかいモールにいるから来い』
「おいあの野郎」
気まぐれだけで生きてる奴なので多少は覚悟していたが、案の定、最初に予定していた合流場所なぞ投げ捨てて、勝手に観光になど興じているようだった。
つーかそのショッピングモール、もしかしなくとも架鈴たちが行く場所と同じじゃねぇか!
「どうしました?」
「あ~……場所変更だってよ。少し歩く」
向こうは人通りの多い区域だ。架鈴たちにも出くわす可能性がある以上、少し対策していく。
上着の内ポケットから眼鏡を取り出す。度は入っていないが、なぜかこれをかけるだけで外見の不良度合いが下がるというライフハックがある。
目つきの悪さが、勉強家というイメージに置き換わるという眼鏡マジック。
割と重宝している装備だ。
「ちょッ……?! ディ、ディア!? いきなりそんな、何を……! 私の性癖を刺激して何がしたいと言うんですかッッ……!?!?」
こっちに後光でも差したかのように、レティが眩しそうに目を細める。
ちなみに今日の俺の服装は、彼女によって選定されたものだ。少ないラインナップを組み合わせた結果、ジャケットにスキニーパンツなんて出で立ちになっている。髪も今はハーフアップに弄られたので、中学時代の俺しか知らない奴からしてみれば、結構な激変を遂げていると思われよう。
「……似合う?」
「好きです!」
恋人からの評価、良し。
眼鏡万歳。
そういうワケでレティと手を繋ぎつつ、ショッピングモールまで歩いていく。
俺としては姿を消していてほしい──あまり彼女を人目にさらしたくない──のだが、しかし、お洒落したレスティアートを眺めるためには実体化していてもらわねばならないという矛盾。世界め、良い構造してやがる……!
「けっこん♪ けっこん♪ おーよめーさんー♪」
今日のレティ歌手による即興曲は結婚ソング。踊り出しそうな足取りで、俺の右腕をマイクスタンドみたいに抱えている。色々とんでもない所に当たっているのだが役得としておこう。
そんな彼女の服装は春用のフリルワンピースにコート、ロングブーツという格好だ。幼い美貌が相まって小さい女神と化している。
加え、行く前にポニーテールに仕上げた髪型も、我ながら良い出来だ。本当は編み込みを入れてみたかったんだが、今の俺の技術的には厳しかった。もっと精進しないとな……
「ところで、ショッピングモールって何があるんですか?」
「色々。飲食店とか本屋とか映画館とか……まぁ、現代の一通りの娯楽を楽しみたいってなら、ベターだな。……本当は先週の内に連れて来てやりたかったんだけど」
ポツリと言うと、笑顔のままレティが顔を赤くする。うん、まぁなんだ。俺だってあんな段階飛び越えるとは思わなかったしな? なんでデートが後回しになってんだろうな、不思議ダナー。
「さ、さささぁ! はやく行きましょう、すぐ行きましょう! 楽しみですねー、でーと!!」
「かーわいい……」
休日だろうと最愛を愛でることに変わりはない。
さっさと用事を終わらせて、二人っきりで楽しむとしよう。
◆
『今一階の本屋』
『三階っぽいわここ』
『ポップコーンうめぇ!!』
辿り着いたショッピングモールをさまよい始めてから十分、早々に合流を諦めたくなってきた。
いや、こっちもこっちで行く先々、レティと共に楽しんではいたが……こうも再会の道が遠いとなると、探す気力も失せてくるというものだ。
「ディア、このクレープ美味しいですよ!」
いったん一階まで戻ってきた俺たちは、広場のベンチに座りつつ休んでいた。左隣に座ったレティは先ほど買ったイチゴチョコクレープを召しあがっている。一口くれるようなので食べた。美味しい。甘い。あと彼女の頬についていたクリームも指で取って舐めておく。
「ぁぅ……」
「どうした? 顔が赤いぞ」
「さらっと恋人らしいコトするからですよ! 恥ずかしくないんですか!」
「羞恥に悶えてる暇あるならカッコつけたがるのが男なんだよ」
「意味わかりませんけどぉ!?」
休日デートなのである。浮かれているのだ。
……なので、柄にもなく普段ならしないような挙動をしてしまっている節がある。レティがかわいすぎるせいだ。これは間違いない。
(……もうデートでいいか)
奴との再会をメインに据えていたのが愚かだった。初めっからレスティアートとイチャつくことに専念していれば疲れることもなかっただろう。
優先順位変更。
これより真・デートを開始する──!
「……あれ? レティちゃんに斬世くん。見守りに来てくれたの?」
声がした方を見ると、そこには架鈴が立っていた。制服ではなく、当然ながら私服だった。白い麦わら帽子に、長袖の白ワンピース。驚くまでもなく、良夜とのデートの最中だろう。
「よ、架鈴。別にンな漫画じみたことはしてねぇよ。こっちの予定とブッキングしただけだ。人探ししててな、なんか変な奴見なかったか?」
「変……と言われても。私からすれば、休日モードの斬世くんの雰囲気が普段と違いすぎて、そっちの方が変だよ」
眼鏡効果、再来。
真ん中の部分を指で上げてレンズを閃かせてみる。
「……なんかの拍子でグレちゃった元勉強男子、って感じがする。似合うね……?」
「そうです、カッコいいのです。ディアはやはり、カッコいいのです……!」
何かを伝えたいようだが、限界すぎるプレゼンになっている……
そこへ、新たな足音が聞こえてきた。
「かりーん、ドリンク買ってきたよ……って、あ!? 斬世のお兄さん!?」
「いや、俺だよ。つか俺に兄弟はいねぇ」
どういうリアクションの出力だ──と、両手にドリンクを持った良夜を半目で見やる。
こいつも私服だった。パーカーにズボン、というラフな格好だが、おそらくブランド物だろう。品質の良さが隠し切れていない。
「え、うっそぉ!? 斬世がそんな頭良さそうな格好するの!?」
「そのイメージ、完全に眼鏡だけで言ってるよな……」
もしや俺、目付きの悪さが印象の九割なんだろうか。髪色じゃなく?
「人探し、してるんだって。良夜、変な人とかって見た?」
「変な人……? うーん、そうだなぁ。さっき文房具店に寄った時、片っ端からメーカーへの不平不満を唱えてた人はいたけど」
「そいつだ……」
行いそのものというか、良夜が「変」認定するほどの狂人ならば、まず間違いない。
文房具屋は……二階だったか。いったい何度すれ違っているんだか。
「……いや、今から追ってもどうせいねぇか。駄菓子屋とかあったら一発で合流できるんだが……ま、適当に歩こうぜ、レティ」
「はい! って、さっきからしてる事と変わらないと思いますけど……」
「あ……じゃあ、しばらく一緒に行動しない? 映画まで、まだ時間あるし……! ど、どうかな架鈴?」
「ダブルデートってやつだね。いいよ、もちろん」
「……」
二つ返事する架鈴を横目に、しかしベンチから立った俺は良夜を掴み、女性陣から少し離れた位置にまで引っ張っていき、声を潜めて会議する。
「(……おい、どういうつもりだ。日和ったかこのヘタレ)」
「(待って待ってごめん許して、だって架鈴さぁ! この後、下着とか水着とか買いに行きたいって言ってるんだよ! 男一人で女性服売り場はハードル高すぎだよぉ!!)」
道連れのつもりかこいつ……
その提案、架鈴としてはこの上ないアタックムーヴなんだろうけどな。
「架鈴さんたち、どこに行く予定だったんですか?」
「夏も近いし、水着とか見てみようかなって。レティちゃん、そういうの持ってる?」
「いえ……? そもそもミズギってなんですか?」
「そうだね……男の子を悩殺する女の勝負服だよ」
「ディアッ! 行きましょう、今すぐお二人に同行しましょう!!」
「……わかった」
レスティアートが乗り気だというのなら、俺からはもう何も言うまい。
夏。海。プール。水着。
……夏のレスティアート……
「……バーベキューセットってどこに売ってたかな」
「き、斬世、流石に気が早すぎない……?」
恋人のありとあらゆる可能性に対応してこその伴侶だ。
そんな流れで、しばらくダブルデートの時間となった。




