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彼女を化け物にしたのは、誰か?


 公爵令嬢ナタリー・ブランケットには、とんでもない噂が流れていた。



「ナタリー嬢は、妹のハーモニー嬢を虐めているらしい」


「ナタリー嬢は、男爵令嬢の頬を叩いたらしい」


「ナタリー嬢は、子供の粗相にも口汚く罵るらしい」


「ナタリー嬢は、義母の宝石を奪ったらしい。

後妻の癖に生意気だと言って」


「ナタリー嬢は、夜に目が赤く光るらしい。

魔女の血の先祖帰りらしい」


「ナタリー嬢は、時々闇夜に忍び込んで、女を殺して血を啜るらしい」


「ナタリー嬢は、怒ると爪が伸びて、狼も屠るらしい」


「ナタリー嬢は、ナタリー嬢は、ナタリー嬢は………」



繰り返される根も葉もない噂。


主導するのは継母の実家の侯爵家。


全ては愛する娘ハーモニーを、王太子妃とする為の策略。


噂は噂を呼び、最早人間ではないものまで混在していた。



ナタリーの継母と異母妹ハーモニーがほくそ笑む一方で、ナタリーは精神的に追い詰められていく。



どんなに否定しても、王太子には強く叱責され王妃にも睥睨される。国王に至っては、妹と婚約者をすげ替える案を出されていた。

勿論他の令嬢令息やその親達にも、まことしやかに噂が囁かれ続ける。



◇◇◇

幼い時に結ばれた婚約。

美しい王子は自信に満ち溢れ、気弱な私の光だった。

「いつか隣に立てるように、睡眠時間も削ってひたすら努力を重ねたのに」


父が愛して止まないハーモニーは、そんな努力も踏みにじっていく。


私にはもう何も残っていないのに……………


 「誰からも愛されない私には、

         端から価値なんてないのかしらね」



私の実母は既に亡く、父は継母を愛している。

味方は誰もいなかった。


「ああ。

私は本当に化け物なのかもしれないわね……………


妹のハーモニーを虐め


男爵令嬢の頬を叩き


子供の粗相にも口汚く罵り


義母の宝石を奪い、後妻の癖に生意気だと言い


夜に目が赤く光り

魔女の血の先祖帰りで


時々闇夜に忍び込んで、女を殺して血を啜り


怒ると爪が伸びて、狼も屠る…………」



最早人間ではない。

誰も好きになる筈なんてない。


「ぐずっ、私は人間ではないのかしら?

じゃあ、何、何なのだろう?

辛い、苦しい、泣きたい、逃げたい、消えてしまいたい、あーーーーーーーーっ、いやーーーーーっ…………

私、ワタシ、わたしは……………………………………………

………………………………………………………………………

……………………………………………………………

…………………………………………………

………………………………………

……………………………

…………………

………

ああ思い出した。

遠い昔、わたしは空を飛び、思うまま女の生き血を浴びていたのだったわ。


漸く封印された記憶を取り戻せた。


『私は吸血鬼だった』


ある高僧に記憶を封印され、人間として転生を繰り返していた。


「あははははっ、我慢なんて馬鹿みたいね。でも、記憶を戻してくれたお礼をしなきゃダメよね」


一人で暮らす埃舞う離れの部屋に、乾いた笑い声が鳴り響く。

思うまま街へ出向き、深紅のイブニングドレスを身につけた。それは6頭立ての馬車が買える金額だったが、公爵家の娘である為ツケで購入できた。


「初めてね、生まれが役に立ったのは。さすがに良い仕立てだわ。ふふふっ」

ドレスの一枚も買い与えられず、母の古着を着ていたから気分も高揚する。

なんで今まで我慢できたのかしら?



◇◇◇

王宮ではパーティーが行われていた。

王太子の新しい婚約者のお披露目の為に。


呼ばれていないのに現れたナタリーへ、ハーモニーが貶める声を投げつけた。


「何よ、あんた。そんな胸がはだけてスリットの入ったドレスを纏うなんて。とうとうイカれたのかしら?


でも安心して良いわよ、王太子妃は私に変更になったわ」


「ナタリー、あんたはもうお荷物なのよ。北の端にある修道院にでも送ってあげる」


「もう俺の妃はハーモニーだ、お前の居場所など何処にもない」


「噂一つ消せない女に、将来の国母を託せないわ」


「同じ公爵家なら、しっかり者の妹に任せるが良い」



「「「気味の悪い噂のあるナタリー様より、ハーモニー様の方が望ましい!!!!!」」」




ナタリーに向けて多くの悪意が襲いかかるが、ダメージなど受ける筈もない。



「言い分はそれだけ? 

じゃあもう、こちらのパーティーを始めて良いわよね。

慈悲を考えないで済むから、助かっちゃったわ」


彼女は夜空を仰ぐと、目を細めて口元に弧を描いた。


「貴方達待たせたわね。此処にいる者、全員貪ることを許すわ」


「「「「「うおおおぉぉぉーーーっご馳走ですね。

          マイクイーン!!!!!」」」」」


女王の命令に化け物と呼ばれる者達が、喜色めいて人間達に襲いかかった。



「ぎゃあぁぁぁ、たす、助け、て」


「がはっ、ぐはあっ、し、死ぬっ」


「止めて、痛い、ひっ、化け物ぉぉぉ」


「……助けて、ぐぎぃぃぃぃ」


「ぎひゃああああ、血が、血、ヤダッ」


「痛い痛い痛いっ」


「なん、なんで、ぐぼっあぁ」



力が強かった故に、封印された女吸血鬼だった(ナタリー)

吸血鬼の始祖であることさえ忘れていた。


私の一声で、暗い夜空をキラ星の如く同胞が集結してその指示に従う。


今日は始祖(わたし)の復活祭。

賑やかにするのが良いだろう。



「ああ、止め、て姉様………痛っ、や、やだっ、」


「ナ、タリー、あ、謝るわ、ゆる、許し、て………ぎゃ」


「俺、達が、悪か、ぐはっ」



襲われる人々を前に、(ナタリー)は宙に浮かび同胞達へ嬉しそうに微笑みかけた。

そして瞬時に、アルカイックスマイルを継母達に向ける。


「謝らないでくださいな。噂は本当のことなんですから。まあ、記憶にない噂もありましたが、どうでも良いですわ。

私の記憶を戻してくださり、ありがとうございます。

みなさん」


地上にいる全員が、余裕のある笑みで微笑む彼女を見て絶望した。まるで虫でも見るような、感情を写さない表情だったからだ。

家族と王族は、一息に殺らない心配りもバッチリだ。



「お礼に満遍なく啜ってさしあげますわ。

私の仲間達と共に。

汚れが目立たないドレスだから、張り切ってしまいそう。くふふふっ」


本当はグルメなので、いろいろ好みもあるんですけど、今夜は無礼講ですわ。

今まで見たことのない美しい笑みを浮かべ、命を摘み取っていく。


ここまで派手にやれば、また高僧が動き出すだろう。

だが彼女は、絶対に油断しない。

辛い思いを、身に余るほど受けて来たから。


「二度はあると思わないことね、人間達!」



その国全ての命を刈り取って、彼らは闇に消えていった。



彼女を化け物に戻した(・・・)のは、誰?



7/5 8時 日間ホラー(短編) 28位でした。

13時 10位。 21時日間ホラー(すべて)で8位でした。

ありがとうございます(*´▽`*)♪♪


7/6 10 時 日間ホラー(すべて)で7位、14時、6位でした。

読んで頂き、ありがとうございます(*^▽^*)♪♪


7/7 9時 日間ホラー(すべて) 4位でした。

ありがとうございます( ≧∀≦)ノ♪♪♪


11/24 23時 日間ホラー(すべて) なんと2位でした。

ありがとうございます( ´∀`)ノ♪♪♪ また読んで貰えた♪

11/25 11時 日間ホラー(すべて) なんと1位でした。

大感謝です。ありがとうございます(*´∀`*)♪♪♪♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] ざまぁぁぁぁぁ!!(良い点) 多数の悪を独りの善が苦戦なく、という展開はある意味最も痛快ですね。 言っても噂という悪意程度の事で地獄の釜が空いてしまったという“うっかり”展開が噂との距離感…
[一言] 以前頑張って封印した高僧や一般民衆が不憫。 馬鹿どもが愚行しなければ。
[良い点] 話の勢い!! [一言] ナタリーはどっちのナタリーであることが本当の幸せだったのか? ホントの化け物はナタリーか、それとも…
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