表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

いやー、実はこの前ね……

作者: 雉白書屋

「どぉーもぉー! ダブルマーケットです! いやいやもぉーねー、こんなにたくさんのお客さんにねぇ、集まっていただいてありがたっくて緊張しちゃってもう、帰って欲しい!」

「なんでやねん!」

「ってまあ他の芸人目当てでしょうけどねっ!」

「なんでやって! まあ単独ライブちゃうけど、ええやんええやん覚えて帰ってもろたら」

「そうですねぇ、覚えないと、こーだぞ! ってね」

「拳つくるなや! まあ、ええけど」

「はいはいはい、もーね、ええと四日前のことなんですけどね」

「ほうほう、なに?」

「僕らのお笑い事務所に泥棒が入りましてねぇ」

「おお、あったねぇ」

「金庫の中身を盗られちゃいましてねぇ」

「まったく、世の中には悪い奴がおるんですねぇ。うちらの給料に影響があるかもわかりまへんなぁ」

「そうなんですよねぇ。なんとその金額、五千円!」

「少な! 心配になるわ!」

「しかも旧札」

「なんで金庫にとっといてるんや! 思い出かなんかあるんか!」

「全部、千円札ね」

「だからなんでや! ん? いや、コレクションか? こら、犯人が憎いでぇ」 

「博文、漱石漱石漱石漱石」

「聖徳太子は!? まあええけど」

「で、代わりに新札の五千円札が置かれてましてね」

「両替やん!」

「で、社長は大喜びでね」

「ただ銀行に行って取り替えるの面倒くさがっとっただけやん! いや、別にそのまま使ってもええけど」

「まあ、それは嘘で、実際は金庫には二百万入ってましたけどね」

「普通にあるやないか! てか詳しいな!」

「まあ、実はその泥棒、僕だったんですよね」

「お前かい! ええけど! いやよくないわ!」

「で、えー三日前ね」

「話変えるんかい。まあええけど」

「僕、その二百万を持ってね、あるところへ向かったんですよ」

「おお、話繋がるんかい。ええやん」

「いやね、うち母が病気でしてね。ボケちゃってね」

「あー、介護問題ねぇ深刻ですよねぇみなさん」

「ボケの母親がボケちゃうなんて、あはははは!」

「笑いごとやないやろ! まあ、お前がええならええけど。そんで?」

「でね、まあ実際、大変なんですよね。バイトしながら芸人やって、それでネタも作りつつ自宅で介護するのはね」

「うーん、せやなぁ」

「でも、相方はね、『そんなこと関係ないやろ!』『やれやボケェ!』『言い訳すんなカス!』とかよく僕に怒鳴ってね」

「急に暴露すんなや!」

「まあ、それでね、その二百万を使ってね」

「おお、オカンを老人ホームかなんかに入れたるんやな」

「競馬をね」

「ギャンブルかーい! やめとけ、やめとけぇ!」

「やめましてね」

「やめたんかい! まあ、二百万じゃ老人ホームに足りるかわからんしなぁ。気持ちはわかるけど勝たれへんやろ。やめて正解や」

「で、闇カジノに行きましてね」

「あかーん!」

「以前、相方にほぼ無理やり連れていかれたところにね」

「だから急な暴露やめろや! びっくりするやろ! まあええけど。そんで?」

「でね、大勝ち!」

「おお! ええやんええやん!」

「……できませんでしたー!」

「なんやねん! まあ、そういうもんかもわからんなぁ」 

「そこで借金までしちゃってね、えー、で二日前ね」

「また話変わるんかい。後味わるいわぁ」

「怖い人たちからの取り立てが来るんで、お金を用意しなきゃならなくなってね」

「話繋がっとるぅー」

「事務所にね、なんとかお金を借りられないかと思って行ったんですけど、でも断られちゃってね。なんせ小さい事務所な上に泥棒に入られたわけですから」

「話繋がっとるるぅー!」

「その上、社長ったら、ジロジロと僕を見てね、『おまえ、この前の夜どこいた?』なんて言ったりしてね」

「疑われとるぅー! 会ってますよ社長! 犯人こいつですよこいつぅー! トゥルー!」

「それとなく、相方のやつが怪しいと伝えておきましたよ」

「おれぇー! ……やないやん! お前、最低やな! ええけど! もとはと言うたら、おれがお前の親の介護の大変さに理解を示さんとはよネタ作れとかキツく当たったり、闇カジノの存在を教えたからやしな!」

「そうだね。でもまあ、やっぱり疑われててね。近々警察に捕まるかもなんてね思ったりしてね、不安で眠れなくて」

「そらー、逃げられんよなぁ……」

「でね、えー、昨日ね。取り立ての人が家のドアをガンガン蹴りましてね。それで母親が怯えて、もうすごい叫んでね。あー! あー! あー! あー! ってねガン! ガン! ガン! ガン! ガン! 最悪のね、サンドイッチでね、もう僕、パニックになってね。で、殺しちゃったんですよね」

「おお! ええやん! どっちを?」

「でしょ? でね、ええと、まず取り立ての人をね、家の中に招き入れて殺してね。そしたらね、それを見た母親が僕を悪魔扱いしてね、あんたは息子じゃない息子じゃないって、何なら殺された方を息子だってね、言ってね、泣いたりね、僕ってもうなんなんだろうってね、思ってね。僕は僕じゃないのかもしれないってそんなこう夢心地というか、フワフワした感じになってね。それでね、気づいたら母親の首を絞めてたんですよね。ええやんええやん! うん。ありがと。それでね、ちょっと前にね、そこの舞台袖で相方を殺しましてね。一人二役でさっきからやってましたけども、そう、僕、コンビでね。まあ、お客さんは知らないでしょうけど、ええ、売れてないのでね。だからね、人生どうでもよくなっちゃってね。さっきから全然ウケないしね。はは、はははははは! はははははははははは! ってね! 僕が一番笑ってたりね! はははははははははははは! 笑えるでしょ、僕の人生って! ははははははははははははははははははは! もうええわってね! はははははははははははは!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ