【短編】囚われ女勇者とパパ国王
とある一般的な剣と魔法の異世界に危機が訪れていた!なんと魔王が誕生し、世界に混沌をもたらさんとしていたのだった!魔王は一気に勢力を拡げ、既に多くの街を支配下に置いていたのだった。
魔王が率いた魔物が資源を奪い、農地を荒らし、
そしてそんな危機的状況の中、多くの人族が住んでいる王国にある城の一室で一人の男が頭を抱えていた。
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「……う〜む、どうしたもんか。」
私はこの国の王もとい、転生者である。数十年前にこの世界に転生し、必死に鍛え、知恵を得て、皆に認められ、ようやく王座を獲得したのだが……
「今まで平和に統治出来ていたのに、急にめんどくさい事になるなよぉ……異世界といえば魔王だけどさぁ……」
魔王のせいで国は大混乱、魔王に降伏するべきだとかいうやつまで出てきた始末だ。農地を荒らされたり、港が占領されるせいで、食料もまともに確保できていない現状……かつてないほどの危機だ。
「だがしかぁし!こんなこともあろうかと密かに勇者たりえる人物を見つけ、確保していたのだ!さすがこの私!自分のことを褒めてやりたい!」
おとぎ話で語られている勇者……無垢な民を脅かすものが来た際、それを撃破し、民に安寧をもたらす伝説上の存在。
しかし私はこれがただのおとぎ話だとは思っていなかった。必ずこの勇者は存在すると確信していた、なぜなら異世界だから!
そのため毎年、辺境の村から王国の中まで勇者の特徴である痣を持っている赤子を探したのだ。そして数年前に兵士が偶然見つけた捨て子に痣があり、勇者だと確信したので必死に育ててきたのである……まぁ、勇者じゃなかったとしてもちゃんと育てたけどね!
血が繋がってないとはいえ娘同然の子を旅に出すのはかなり心苦しいけど……勇者ならきっと魔王を倒してくれるに違いない!
「ここまで準備してきたんだ……魔王の1人や2人くらいけちょんけちょんにしてやる!」
そんな感じで高を括って居ると突然、王室のドアが凄まじい勢いで開けられた。そこに居たのは私が最も信頼している人物、側近であった。
「王よ!大変です!!」
「ど、どうした側近?そんなに慌てて、あと急用でもノックくらいはしようね?」
「そんなことどうでもいいんですよ!」
「あっ、はい」
いつもは冷静な側近がこんなに取り乱すなんて珍しいなぁ。あれかな、婚期遅れて焦ってるのかな?
「それで何があったわけ?」
「そ、それが…………ゆ…………勇者ちゃんが攫われました!!」
「………………スゥー…………………………………ちょっと耳がおかしくなったみたいだからもう1回言ってくれない?」
「だから!勇者ちゃんが攫われたんですよ!」
「なんでだよぉ!!??」
はぁ!?私の愛しの勇者を攫うとかどういう了見だよ!勇者いねぇと人類終わんだぞ!くっそ!さらったヤツボコボコにして裸で天日干しにしてやる!!!
「どこのどいつだ!そんなことしたヤツゥ!」
「そ、それが……」
「なんだ!どこぞの性悪貴族か!?それとも最近勢力増してるカルト教団か!?」
「…………ま、まおう…………です…………」
「…………まおう?変わった名前だな、どこのどいつだよそれ。」
「…………最近現れて、勢力拡大してる…………あの魔王です…………」
「あぁ〜!魔王ね!はいはい、私もよく知ってるよ!うん!…………で!なんで魔王が勇者攫ってんだ!!!!!!!!!!」
「私が知ってるわけないじゃないですか!いつも通り勇者ちゃん起こしに行こうとしたら警備の兵が倒されてて、急いで確認しに行ったら部屋の中から勇者ちゃんが消えてたんですよ!」
「ウッソだっ……ろ……ぉお……なんでだよぉぉぉぉ……」
あまりの衝撃に私は玉座から転げ落ち、床でのたうち回った。人類の希望を失ったのだ。こんなことをしても仕方ないだろう。
「……ああぁ!こうなったら、私が魔王城突っ込んで魔王倒してきてやらァ!!もうヤケだぁあああ!!!!」
「ちょっ!?王!お待ちください!!あなたがいなくなったら国は混乱しますよ!!」
「止めるなぁあ!!!もうこうなったら私が魔王を粉砕する以外勝ち目にねぇだろうが!!!あとお前強制連行だからな!!」
「えっ、待っ!!」
側近の腕を強引に掴み、城の窓からダイナミック外出を決めて、そのまま全力で空気を蹴って進む。
「浮いてる!?なんで浮いてるんですか!?人間の構造上ありえないでしょ!」
「うるせぇ!誰だって本気出せば空気くらい蹴れるんだよ!このまま魔王城まで一直線で行ってやるぜぇ!!フハハハハハハハハハッ!!!!!」
「も、もうやだ!このバカ王ぉ!!!!」
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一方その頃魔王城では
「……ここら一帯は支配し尽くしたか……容易いものであったな。我に倒しうると言われていた勇者も先手を打って捕らえた、もう対抗する術もあるまい。」
我は魔王……この世に産まれ落ちたその日から世界を手中に収めるという使命があった。誰に命じられた訳ではもなくただ自分はそう在るべきであると思った。
「……それにしても伝承の勇者がまさかこんな小娘だとはな。存外拍子抜けというかなんというか。」
強固な檻の中に閉じ込めた勇者に目を向けると、恐怖や怒りが混ざったようななんとも言えない眼差しをこちらに向けていた。
「……私をこんなところに閉じ込めてどうするつもり?」
「どうする……か。あまり深くは考えていなかったな。見せしめに殺すのもありだろう。」
「……ッ!?」
「そう怯えるな。利用価値がある以上は直ぐにお前を殺すことはしない。」
勇者を洗脳し、仲間に引き込み戦力にする、もしくは人族の国を取り込むための交渉材料にするのも良いであろう。
「…………とはいえ勇者の力なぞ使わずとも、世界を支配することは出来るがな…………む?」
……この気配はなんだ?……巨大な魔力の塊が凄まじい速度でこちらに向かってきている?
「お邪魔しまぁぁぁぁす!!!!!!!!!!」
魔力の塊はそのまま魔王城の壁を粉砕し、我の目の前へと降り立った、その存在に我は微かに見覚えがあった。確かやつは……
「おらぁ!私の大事な娘を誘拐した不届き者を成敗しに来ましたァ!覚悟しろよこのクソ野郎が!」
人族の王……我が敵対している国の象徴。つまりここでやつを倒せば、我の目標の終幕にたどり着ける。
「……フハハハハハハッ!王が攻め込んでくるとは実に面白い!いいだろう!相手してやる!!!」
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「と、父様っ!?」
「お〜、勇者!そこにいたか!待ってろよぉ!私がこいつをぶちのめしてやるからな!」
魔王城の壁を突き破って出てきたのは、私の育ての親にして、国のトップの国王だった。
「あっ、側近。私が魔王の相手してる間に勇者ちゃん助けといてねー。ワンチャン勝てなかった時の保険で」
「はぁ……分かりました。」
父様は側近さんに指示を飛ばし、私を救助するように指示を出すが、私と側近さんの間に割り込むように魔王が立ち塞がる。
「我の目の前で自由に動けると思うか?」
「動けるから動いてるんですよ……王、頼みます。」
「あいあいさー!」
父様は魔王に斬りかかり、魔王の意識は完全に父様へと持っていかれた。それによって側近さんが無事に檻の前まで到達する。
「こういう時はやっぱり信頼できますね。ほらっ、勇者ちゃん今助けますからね。」
「……えっ、でも……どうやって?」
「あ〜、大丈夫ですよ。私元々盗賊やってたんで檻開けるのは得意なんですよ。」
「……へっ?え、えぇっ!?なんですかその驚愕の事実っ!?初耳なんですけど!?」
「言ってませんからね。……とはいえ、この檻は魔法製で鍵ないっぽいですから力技で開けるのが良さそうですね。」
側近さんが檻に触れると檻に駆け巡る魔力の流れが乱れていき、檻の形が徐々に変形していった。
「はい、出れますよ」
「あ、ありがとうございます!」
側近さんに差し伸べられた手を握ると、そのままゆっくりと立ち上がる。そして父と魔王との戦いを見据える。
「フハハハハ!いいぞ!中々に楽しいじゃないか!!」
「こっちは楽しくねぇよ!お前さえいなければ城でゴロゴロしてたのに!!私の平和返せこのバカ!!!」
刃がぶつかり合う音と2人の声がこの空間を支配する。私はその光景に固唾を飲むことしか出来なかった。
「勇者ちゃん、こんなとこに留まってないで帰りますよ。」
「えっ?それだと父様が……」
「武器を持っていない私たちがいても邪魔なだけですし、何より王がもしも負けてしまった場合あなたがいないとこの国の負けが確定します。」
「い、いやだよっ!私、勇者なんだよ!?逃げるなんてっ!」
「おーい!側近!勇者を強引に連れ帰しといて!!」
「分かりました」
「父様っ!待っ、ゥッ!?」
私を抱きかかえる側近さんに必死に抵抗したが、首に強い衝撃が走り、意識が薄れていった。
「……とぅ……さまっ……」
「……ごめんな勇者。でも心配すんなよ!お前の父は強いんだ!絶対帰ってくるから安心して待ってろっ!!!」
消えゆく意識の中、最後に聞こえたのは私を安心させるような普段通りの陽気な父様の声だった。
その後、目が覚めた時には城の自室のベッドの上にいた。悪い夢でも見たのかと思ったが、王室にいつもいる父の姿がないことから
現実なのだとすぐにわかった。
急いで装備を整えて、魔王城へと向かおうとしたが、それを見越していたかのように側近さんに止められた。
「止めないでよ……父様を助けに行かないとッ!」
「……今のあなたでは魔王の相手になりませんよ。私に気絶させられる時点で可能性は0です。」
「……ッ!!じゃあ父様を見捨てろっていうの!?」
そう言い放つと側近さんは私の頬を思いっきり引っぱたいた。突然のことに動揺しながらも、ヒリヒリと痛む頬を抑えながら側近さんを睨みつける。側近さんはそんなことは意に介さない様子で話し出した。
「馬鹿なことを言わないでくださいっ……あなたが王の勝利を信じなくてどうするんですかっ!王は必ず戻ると言いましたっ!!あの人はその場のノリと勢いで動くような馬鹿ですけど、言ったことは必ず成し遂げる……それがあなたの父であり私たちの王です!」
側近さんの目には涙が浮かんでいた。それを見た瞬間、怒りとか悔しさが混ざってぐちゃぐちゃになった心が落ち着きを取り戻していくのがわかった。
側近さんも心配なのは一緒なのだと、ただそれ以上に父様のことを信頼しているのだと分かったから。
「……ごめんなさいっ……」
「分かればいいんですよ。」
「……あの側近さん」
「なんですか?」
「私のことを鍛えてくれませんか?……二度とこんなことにならないために」
「いいですよ。でも私の指導は厳しいですからね、覚悟しておいてくださいよ。」
「はいっ!」
それから側近さんとともに鍛え始めた。父様の帰還と無事を祈りながら日々鍛錬を続けた。
そして、父様が魔王と戦い始めたからおよそ1週間後のこと、城の門前に父様が身につけていた防具と武器が血まみれの状態で置かれていたと報告があった。
私はその報告を聞いた瞬間、血の気が引き、部屋に篭もり1人で泣いた。床にぽたぽたと雫がこぼれ落ち、部屋には嗚咽が響いた。
心が折れそうになった。
…………でも、私はみんなに希望を与える勇者であり、父様が必死に育ててくれた自慢の娘だから。
「……こんなところで折れる訳にはいかない」
ひとしきり泣き終えると、私は広場に出て鍛錬を始める。感傷に浸るのは全てが終わったあとだ。
1人で鍛錬を続けている私を見かねたのか、側近さんが私に近づき、アドバイスを送る。互いに顔は見ないようにしながら剣を振り続ける。私も側近さんも今どんな顔してるか見られたくないだろうから。
「側近さん」
「……なんですか?」
「……私は絶対に負けませんから……父様の自慢の娘ですから……っ!」
「……はい……分かってますよ。」
それから父様の葬儀や魔王軍の進行が強まるなど色々あったが、毎日鍛錬は欠かさなかった。
そして1ヶ月が経つと私は前とは見違えるほど強くなった。まだ強くなりたかったが、魔王の侵略速度から考えるともうこれ以上は鍛えることは難しいだろう。
私は父様が使っていた装備を手に取ると、城の外へと歩いていく。その道中で待っていたかのように側近さんに出くわす。
「……絶対に戻ってきてくださいね」
「……はい、必ず戻ってきます」
私は側近さんに見送られながら、勢いよく空へと走り出した。私を助けに来た時の父様のように颯爽と空を駆けていく。
「……あれか」
しばらく進むと奥に魔王城が見えてきた。ここからでも禍々しい魔力がほとばしっているのが伝わってくる。だが、私はもう怯えたりはしない。
魔王城の門から突き進むように魔王のいる部屋へと進んでいく。道中の魔物など歯牙にもかけずに走る。そしてついに魔王のいる部屋の前へとたどり着いた。
「…………これが最後…………父様、私に勇気をください。」
覚悟を決め、ゆっくりと扉を開ける。中には魔王城の外とは比べ物にならないほどおぞましい魔力が満ちていた。そしてその部屋の奥にはその魔力の根源であり、全ての元凶である魔王が鎮座していた。
「……ほう?誰が来たかと思えば……貴様、勇者か。ずいぶんと強くなったようだな。」
「……」
「何も喋らぬか。まぁ、いいだろう。……1つ提案をしようではないか。その強さは実に魅力的だ。どうだ?この世界の半分をくれてやる代わりに我に付き従え!!」
「断るっ!」
「フハハハハッ!!!そうであろうなぁっ!そうでなくては面白くない!!我と貴様!どちらかの勝ちで世界の命運が決まる!!さぁ勇者よ、これが最後の戦いだ!!!!」
「……私は決して負けないッ!勝って必ず平和を取り戻すんだ!!!」
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【とある広場】
「そしていよいよ勇者と魔王がぶつかり合い、激しい戦いの末、最後には無事に勇者が魔王の心臓に剣を突き立てて勝利したのでした…………はい、おしまい!今日はここまでだよ!」
「えぇ〜?続きは〜?」
「続きはまた明日、明日は勇者が最後にはどうなったのかを話すから楽しみにしててね〜」
「はーい。」
子供たちは話を聞き終えると、別のところで遊ぶために走り去っていくのであった。子供たちに読み聞かせをしていた女はそんな子供たちを眺めて、優しげな笑みを浮かべるのであった。
「……ほんと、子供は元気あるよね〜。見てて癒されるなぁ。」
「……やっぱりここにいましたか。毎日子供と戯れて飽きないんですか?【勇者】様。」
「あっ、側近さん。その様付けやめてくださいよ〜。前見たく、勇者ちゃんって呼んでほしいな!」
「いや、様って付けないと私、怒られちゃいますから。ほらっ、城に戻って早く業務に取り掛かりますよ。」
「嫌ですぅ〜!あんなめんどくさいのやりたくない!」
「ダメです。抵抗しても無理やり連れていきますからね。いつも隙を見て逃げるから今度はずっと監視してますからね。」
「そういうの良くないと思いますよ!?いやぁ〜!助けてぇー!!」
勇者は全力で逃げようとするが抵抗虚しく城へと引きづられていくのであった。
「ねぇ、側近さん……」
「なんですか?」
「平和って……いいものだね」
「……ふふっ、そうですね。」
-【完】-
最後のオチで平和になった後を描くのが1番スッキリするかな〜と思ったでござる。どういう戦いだったのかは皆さんの頭で補填してください!
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