サマードリンク&サマードリンク 2, 春の微風 Rie
本日は理恵目線です。
中学校までの道のり、桜の木の葉が、ヒラリヒラリ落ちていく。
冬でもないのに、今日は一段と寒い。分厚いピンクのコートで身を包んでいるから、ちょっとはマシだけど___。
1
「理恵、おはよう」
「おはよう」
中学生になって一ヶ月経った。その間に大したことはなかったけど、中学生初めての友達が、『渡辺フミコ』。席が後ろと前という関係だけで友達になれた事が奇跡と言いたい。
「コート着てきたの?めっちゃ可愛い」
「え・・・そんな、普通だよ」
フミコは『めっちゃ』をあげて言う。
少し喋り方が、訛ってるところがフミコちゃんの長所。
「私なんてお父さん厳しいからさ〜、こういう薄いパーカーしか買ってもらえないんだよね〜。羨ましい」
「そ、そうなのかな」
フミコちゃんは幼い頃に母親を亡くしているので、男手一つで育てられたガチガチ強い女の子。見た目も頼りあるし、空手を習ってるところから『強い』と言う印象がある。
「まぁ授業中は脱いでていいし・・・、関係ないね」
「私もコートじゃ暑いかな」
「ハハ、そりゃそうだね」
私が席に着くと、フミコも席に座った。
「テストとか、まじで・・・」
「勉強しなきゃだねー」
机の上に既に配られているさんす・・・数学のプリントに手を付ける。
「朝から勉強まじダル。ねぇ、理恵」
「うん・・・朝勉して来たから頭パンパン」
「えっ、家で?」
「うん、少し」
「優等生がする事だよ」
「中学生だからね」
一学期の最初の頃は、小学生のまとめで簡単だった。
だけど最近習ったモノは爆発するほど難しい。
数学の先生は計算が早く、優しい。
でも舐めてかかると大変な事になる。
プリント、プリント、問題集、問題集・・・。
「ふわ〜〜〜、眠ーい」
「____寝れてないの?」
「まぁね。朝から空手してて。父にぶん殴られた」
「?!可哀想。大丈夫なの?」
「数年やってるし、こんなのへっちゃら。屁みたい」
「屁・・・!」
フミコは、強い。心も体も全部。
鍛えられてるんだ。
「・・・・てかさ、藤谷来ないよね」
「藤谷亮平君?」
亮平君は三週間前から不登校だ。
訳は___。
クラスメイト全員が震え上がった瞬間。
亮平君は小林先生に、嘘をついた。
授業でやったまとめプリントを、セコイ手で通過した。
『通過』って言うのは、プリントの答えが合ってるか確かめるために先生チェックをする。教科は国語。亮平君は国語が大嫌いなので、何としてでも通過したかったらしい。
『セコイ手』の詳しい情報は得てない。
なんかカンニング如きではない、大ごとだったらしい。
「先生に怒られて不登校て・・・マジ?」
「フミコちゃん、仲良かったの?」
「東小の時からね。私の事ちょくちょくからかってくるおふざけ系男子」
「小林先生、怖かったね。やっぱ舐めちゃダメだ」
「うーん、怖いというのは『大声で説教』より『小声で説教』に近い感じ」
同感。
小林先生を怒らせると、大変な事になる。
亮平君みたいになりたくない。絶対に。
2
「あーー!!疲れたよ!!」
フミコちゃんの声が、美術室に響く。
「授業でやった分、放課後やるってどーゆー事やねん!!」
「う〜〜〜、私、絵下手なんだよね」
「人間!!人間無理!!」
美術室に残されたのは私とフミコちゃん二人のみ。
寂しいし、心細い。フミコちゃんいるのに___。
「花・・・よし、出来たよ、完成」
「えぇ?!理恵、はっや!!待ってて〜〜!」
「うん。コート着て、待ってるから。焦らないで」
美術室用の椅子に掛けておいた桃色コートを手に取って、腕に通していく。
窓から見える景色は、とても綺麗だった。
桜の木が夕焼け太陽に照らされ、美しい。
「___!理恵のコートと、桜お似合いだね」
「?____ほんと?」
「うん、なんか似合ってる。姿が重なってる」
「褒め言葉、それって」
「勿論勿論!理恵、顔とスタイル良いから綺麗な桜が似合うんだよ」
「!」
褒め言葉なんて聞いたの、久しぶりだなぁ・・・。
家族みんな妹にべったりだもん。
フミコちゃんってやっぱり____。
「手、動かしなよ」
「はっ!!忘れてた!」
フミコちゃんは絵の具の筆を動かす。
私はフミコちゃんに背をむけ、目に写る桜を見つめる。
フミコちゃんにバレないように、目に溜まった涙をそっと手で拭った。
算数と数学の違いってなんでしょうかねー。