別れと出会い
暗い部屋でゲームをしている。
ゲームのことばかり考えて、毎日、キャラの育成や戦略を練る。
自分がやっているゲームには仲間がいる。自分を慕い、従う者たち。プレイヤーとは違う存在。
言葉だけでは言い表せないくらい、本当に裏切りとは程遠い良い仲間たちだ。
このゲームは何年も前からやっている。
数年前に発売されたゲームで、プレイ人口は未だ多く人気が衰えていない。
自分の仲間を作り、拠点を構えるのがこのゲームの楽しみの1つ。プレイヤーがいる拠点を襲い、新たに自分の拠点とすることも可能だ。
仲間は自分でクリエイトする。
クリエイトした者以外は自分にはいない。
敵を味方に引き込むことも可能だが、引き込んだ味方は基本的に最後までクリエイトした者のことを忘れることがないため、完全に味方となることはない。
クリエイトした者を忘れられず裏切るということも少なくはないらしい。
だから自分が仲間にするのは自分がクリエイトした者だけと決めている。それでも裏切りがないとはいえないが、そこは信じている。
このゲームをやってからは自分のリアルの衣食住というものはあまり気にすることがなくなった。
もちろん、最低限の衣食住は確保しているし、身体にも気を付けて過ごしている。病気でもしてゲームができなくなるのが嫌だから。
俺の家には俺以外誰もいない。両親はいるが、ずいぶん前から離れて暮らしている。
家は普通の一軒家。ここでは珍しくもない木造の一軒家だ。
この世界に来ている転生者とかいう異世界から来た者たちが暮らすような、金持ちが住む豪華な家とは比べ物にならないくらい普通の家だ。
転生者からするとふざけた怪物がそこらじゅう大量にいるこの世界は、転生者がいた世界が平和そのものの世界だったらしいこともあってか、ここのほうがよっぽど異世界だというらしいが。
だが俺はゲームが出来ればそれで良かった。家なんかより、ゲーム内の仲間と共に切磋琢磨して領土を広げたりのんびり暮らしたり出来ればそれで良かった。
そう考えながら今日もゲームを楽しんでいた。
その時、家のベルが鳴った。
外を見てみるとそこには1人の男性がいて、一言こういった。
「君の家にあるそのゲーム、本日をもって全て強制廃棄となることが決まりました。」
男性からその言葉を聞いたとき、俺は何をいっているのか、まったく理解できなかった。
強制廃棄?突然現れたこの男が?ゲームのなかでもそんなイベントないぞ?
それを聞いたとき、俺は混乱した。
訪ねてきた男性は、その一言をいってすぐ家に上がり込んでプレイ中のゲームを本体ごと手慣れたように持ち去っていった。
俺はその状況を見続けていたが意味がわからず、わからなすぎて何もすることができなかった。
俺は訪ねてきた男性が去ってしばらくしてからゲームのあった場所に戻って座り込んだ。
何年も続けたゲームが誰かもわからない相手に持っていかれた。
俺は仲間を失う感覚に陥っていた。
またしばらくして街へと歩いた。
何をするべきかもわからないままふらふらと街を歩く。
街のなかでは商売やら芸やら日常会話やらと賑わいを見せている。
そんななかふらふらと歩き続け、中央の噴水に座った。
周りの声がうるさい。ゲームとは違った雑音。
子どもたちが噴水の周りを走り回っている。
時々、俺を見る。
気にしているようだがこちらから見てみるとすぐに目をそらされる。
俺は周りを見渡してみる。
野菜を売ろうと必死になる八百屋に、芸を必死にやって日銭を稼ごうとする芸者。
しばらく街に来ていなかったが前と何も変わらない。
いつもの普通の街だった。
と、その時。
俺が正面を向くと、少し離れたところに見覚えのある女性が1人、いた。
俺は目を疑った。
そんなはずない。ありえない。いるわけがない。と。
それは、ゲームの中で自分の仲間として一緒に行動していたシキという女の子によく似た女性だった。
フルネームはシキ・トレイト。
ゲームの中では自分の側近の1人だ。
とても美しい金髪ショートヘアで、盗賊のような服装をしている女の子。
そこにいる女性がまさにそのままの格好をしていた。
あれはゲームの中の存在で、本物のはずがないと思う。
だが、確かめなければ。
そう思い少し後ろから盗賊の格好をした女性を追うことにした。
女性の後を追いながら本人がいるわけがないと頭のなかで常に思い続けている。
しかし目の前には瓜二つの女性がいる。
ありえないからと、ないことにするのは簡単だ。
目の前には本人かもしれない人がいるんだ。
目で見たものを信じる。
そう思いながら後を追っていた。
そう考えていると突然、盗賊の格好をした女性が立ち止まる。
女性は前を向いたまま、
「ねえ、いつまでついてくる気?」
と、俺にいった。
尾行していたのがばれていたのか?いつからだ?
いや、そんなことより、
「シキ…か?君は、シキ・トレイト…?」
と、盗賊の女性に問う。
女性は驚いた様子でこちらを見てきた。
女性はいった。
「そうだけど、あなた誰?なんであたしの名前知ってるの?」