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私が産まれた理由

これって年齢制限が無くて大丈夫かしら?


私は今火の玉ボディに戻って、黄色と白の混ざったキラキラとしたグラを眺め続けている。

先に就寝したアミルちゃんと違って、オズが遅れているからだ。


後数分でも遅かったら催促コールをしてやると息巻いていたけれど。

目の前の火の玉ボディの光が増した事で、逃げずに現れた彼にホッと安堵する。


「ほとんどが君が推理した通りだよ。」


諦めの感情を私に放ちながら、グラは肯定から話を切り出した。


「それだけじゃ分からないわ。

何がどう合って、違っている所を解説して教えて頂戴。」


アミルちゃんのファーストキスについては、どんな理由があったって許さないけどな!


私の怒りの約95%がそれ。

残りは何も知らない自分への苛立ちだった。


「君がそうで有る様に、私もアバターの身体に感情が影響されるんだよ。

だから不可抗力な所も有るんだよ?

オズは私の影響で、生物学的に女性が欲しくても、今まで触れられずに居たからね。

私とシンクロしたせいで、やっと許される相手と出逢えたと、感情が暴走したのはホントだよ。」


「だからあのタイミングで奪ったとでも?

違うわよね。

オズが弘樹よりも健全な性欲を持ってたとしても、あのタイミングは不自然よ。」


「私からすれば必然だったんだけどな。

でもまぁ、確かに君を恐れて誤魔化したかったのも理由に有るね。

何しろ君はとても聡い。

今でも実は不安なんだよ。

出来れば君は何も知らずに私に守られていて欲しい。」


私の機嫌を伺う様な気配に、私はフンと鼻を鳴らす。

実際に鼻は無いので、身体から虹色の光がパフ!と、零れただけだった。


「そんな女性が良いなら私じゃ人選ミスね。

確かに今の私は、弘樹と夏海の時以上に何もかもが及んで無いのは認めるわ。

でもね?

私は守られてるだけなんてまっぴらゴメンよ。

及ばないなら少しでも距離が近付ける様に努力がしたいの。

全てを貴方1人に任せて、右往左往させられるのダケは絶対に拒否するわよ。」


ピンク色のボディが爛々と輝きを増す。

光で殴れたらビンタしてるぐらいに、色味の暗い空間で光輝いている。


「ハァ…このままずっと君を眺めて生きて行きたいなぁ…」


「ちょっと!

現実逃避してないでちゃんと説明してよ!」


本気でそれを望んでる雰囲気に、ちょっと焦りながらも逃がすまいと意気込んだ。


「分かってるよ。

君は直ぐにその身体に耐えられ無くなるからね。

産まれ育った身体と違う作りの身体は、精神に負担がかかるのがその理由だよ。」


「そうね。

今でも暴れたくてウズウズしてるわ。

手足を動かせないのって、スッゴく違和感。」


「うん。

私達の種族も元々の祖先は生身の身体があったんだ。

それが長い時間をかけて、身体的な不具合で死なない身体を求めた末に、この形になったらしいんだけどね?

色々と無駄を(はぶ)いてたら、欲求の方も削られちゃって。

今じゃ光景を眺めるのと、何もしないで生きて行く事が最高の贅沢になったんだよ。

だから君の身体は私が最高の素材で作ったから、とても美しいよ。」


「そんな事は聞いて無いから。

話を脱線しないでよ。」


「誤魔化してる訳じゃ無いから不安にならないで。君はせっかち過ぎるよ。」


パプパフと金色に輝いてグラが笑う。

そう言えばこんなに派手な光を眺めてても、目がチカチカして光が焼き付く事が無いな、と。

眼球が無い小さな違和感をボンヤリと理解した。


「さて話を続けるよ。

私が弘樹のアバターを作った理由は、私達には無い肉体への理解を深める為だったんだ。

昔にはあった生身の肉体への知識も技術も、当時ではほとんど失われててね。

数々の星を巡る中で、大きなストレスになってたんだよ。

四苦八苦してようやく身体に慣れた頃に、動けなくなったり死ぬだなんて、本気でうんざりしてたんだ。」


「まぁ…それは分かるかも。

この身体って、そう言う所は便利だもんね。」


「うん。

ホルモンも無いから感情がその影響で変化しないし、睡眠欲も食欲も性欲も無い代わりに病気にもならないからね。

しかもボディの耐久性も高いから怪我を負うこともない。

でも知性を持った生物の居る星で活動するには、全ての対象が必要に迫られるんだ。

こんなに不便で苦痛な話は無いよね。」


「それなら知性を持った生物の居ない星で、ミルを集めれば良かったじゃ無い。」


そんな星の方が宇宙には沢山有るでしょう、と。

少ない知識しか無いけれど、私はそう考えてペコペコと光った。


「勿論君の言う通りだよ。

ミルを集めるだけなら、その方が効率が良いんだ。

でも飽きるんだよ。

毎日毎日延々と何も無い荒野をたった一人きりでひたすらだよ?

そんなミルを集める生活が楽しいと思えるかい?」


「思わないかも。」


すんなりと納得の行く理由に、私はうんと頷く代わりに炎の先っぽから虹色の光をパフンと溢す。


「特に当時は本体を恨んでたし、母星にミルを送るのも嫌気が差してたからね。

私は他に生きる意味を求めたかったんだよ。


だから最低限の税金だけを支払って、知性を持った生物の居る星を巡る生活を送ってたんだ。」


「そこで私と出逢って、私を甦らせる目的を得て頑張ったってお話に繋がるの?」


「だから話を勝手にはしょらないでってば。」


「だって私達の時間は無限でも、朝が来たら途中で止まるじゃ無い。

話すけど時間が掛かるとか、そんな風に誤魔化されてもねー。」


「疑り深いなぁ…」


「だってそうでしょう?

貴方ならもっと簡単に説明出来る筈だもの。」


「だから最初にそうしたら、君が文句をつけたんだろ?」


「あれははしょり過ぎ!」


「ワガママだなぁ…。

まぁ私は君を眺めてるだけで幸せなんだけどね。」


フワンと丸くなったグラが、柔らかな光をフヨフヨと撒き散らかす。

微笑ましい輝き方にちょっと心が和んだ事で、私もこの身体に少し慣れて来たなあと感慨深くなった。


今のグラはちっとも色気が無い代わりに、全く恐くも無い。

もし私が作られて初めて出逢った人がオズだったら、きっと色んな事が不安だっただろう。

例え中身が同じだとしても、だ。


「私を泣かさないでくれるかい?」


「喜んでる様にしか見えないんだけど。」


ミラーボールと化したグラに、私はピンク色を赤く深めて拗ねた雰囲気を出す。


「私が一番恐れてたのは、私の事を夏海が受け入れてくれるか。

それが一番の不安だったんだよ。


私達の種族の夫婦の在り方はね?

男女平等に互いの身体をミルを注ぎ込んで作り、片方が消滅するまで添い遂げる事で成り立つんだ。


私達の世代では、好きになった相手の遺伝子コピーを貰って、側に置いておく方法が主流だったね。

お互いにお互いの性格が分かってるから、新しいボディに入った所で不具合は無いけど。

でも夏海の場合は違う。

君の本体に私の事情は、何一つ明かせられなかったんだ。

異種族間での婚姻問題のほとんどが、それが原因で破綻する。

特に私は君に弘樹の話を隠しておきたかったからね。

知らなくても私を受け入れて貰えた時の喜びが、どれだけ大きかったか。

言葉ではとても言い表せ無いよ。」


ミラーボールと化したグラが上機嫌でツラツラと語る話の中身に、ようやく全ての事態の核心に触れた気がして私はホッと虹色の光を(こぼ)す。


「知らない間に勝手に結婚して、グラの嫁認定されてたのは、まぁ一先ず置いとくわ。

どうして私に弘樹の話を隠そうとしたの?

そりゃ叱られたく無いのは分かるけど。

それだけじゃ無かったんでしょう?」


「あぁ…そうだよ、なつみ。

そして私はまだその話を躊躇ってる。

恐くてとても話したく無いよ。

君に嫌われるのも、下手をすれば崩壊するかも知れないと思えば、とても伝える気にはなれないんだ。」


黄色い身体がホッソリと細まる。

そして黄色い光の身体が黒くくすんだ気がした。

本当に恐れて迷っているグラに、私はウーンと乏しい知恵を絞る。


「それならアンドロイドの方に行きましょう。

ホントならアミルの方が良いけど、贅沢は言わないから。」


アミルが夜中に1人でオズに会いに行くとか、貞操の危機でしか無い。

大人ならそれでも良かったけれど、流石2歳児にそれを望むのは酷だと考えたからだ。


「どうしても私は話さないと駄目かな?」


「当たり前でしょう。

少なくとも私はそれを聞きたいわ。

グラが私を妻にしたいなら余計にこれは果たすべき義務よね。

それが嫌なら黙って大人しく言う事を聞いてくれる女性を奥さんに選んでよ。」


「…私は君に嫌われるのも嫌だし、崩壊する姿を見るのもうんざりしてる。」


「だったら約束してあげるから。

その話を聞いても貴方を嫌わないし、崩壊もしない。

その代わり話をしないなら、私達の関係は終わりよ。

アミルちゃんの人生が終わったら、私は崩壊を選ぶからね。」


「…そうだね。

君はとても聡い女性だ。

他から話が伝わるよりも、私が伝えた方が…。

嫌だなぁ…、私は君が生きててくれるだけで幸せなんだけどなぁ…」


「往生際が悪い!

ほら!さっさと行くわよ。」


私は先にアンドロイドに戻ると、ニコニコと笑っているグラの膝に向かい合う形で乗り上げて待機する。

すると途端に悲しげな表情に変わった彼が、怯えた眼差しを私に向けて来た。


「私を信じて。」


私は彼の頬に手を添えて、ニッコリと微笑み。

体温を感じ無い彼の手を、両手で握り締める。


「それでも恐ろしいよ。

今すぐ崩壊してしまいたいぐらいにね。」


「それでも私は絶対に折れないわ。

貴方が消えるなら、私も消えれば済むもの。

せめてアミルちゃんの人生だけはやりとげて、貴方の後を追ってあげる。」


「はぁ…だから君は嫌いなんだ。

強引でワガママで、そしてとても我が強い。

いつも潔くて楽しそうな君が、弘樹として出逢った時からずっと苦手だった。

結婚してからもガミガミと五月蝿くて、本当にうんざりしてたのに…」


「前置きが長い。」


「…どうしても君が居ない世界に、私は耐えられなかったよ。

何でだろうね?」


「知らんわ!」


人間だった頃なら額に青筋が浮かんでただろうけど、残念。

グラは面食いらしく、今の私は完璧な美少女だった。アンドロイドに血管は浮かば無い。


悲壮感と恐怖にまみれていたグラが、ようやくフッ…と小さな吐息を漏らす。


呼吸をする必要は無いけれど、擬似的な仕草が出来る不思議。

それは少しでも火の玉ボディに違和感を感じる私への配慮でも有ったのだろう。

アミルちゃんが今もまだ、私には不便だから。


「この星の様な無人なら、みつけても報告の義務は無い。

でも知性の有る先住民の居る星は、発見と同時に必ず機関への報告を義務づけられてるんだ。

ルールを犯す者が居ても、それを監視する者が居なければ発見出来ないからね。」


「マハトがそうなの?」


「いや、彼は違うよ。」


「あれ?!そうなの?!

だってわざわざ彼を連れて来る理由なんて、それしかないでしょう?」


「フフ…、理由なら他にも有るけどね。

でもマハトが公安機関のボットでは無いよ。」


私はウーンとグラの手をニギニギしながら、頭を悩ませる。

そしてピン!と閃きが走った。

思い出した光景は、切り裂かれたセベクトの姿だ。


「……あ!ひょっとしてマハトの中に封印されてる闇の精霊?!」


「…君はホント、良く見てるね。

まぁ、そうだよ。

闇の精霊なら元のボディの形質が似てるだろう?

封印している者はいずれ死ぬが、精霊なら延々と引き継ぐ事が出来るしね。

まぁ、基本的にボットにして情報を記録するだけの存在になってるけど。

有事の際には君を助けた様に、他の同族との仲裁をしてくれるんだよ。」


「でもバッチリ倒してたわよ?」


「それはまた別のルールに向こうが違反してたからさ。

私は前もってこの星で君の教育をすると、エミューンα(アルファ)として機関に申請してたからね。


先住民だった夏海には無かった権利が、エミューンαになった事で発生したのさ。

私の納税額が低いから、なつみの権利もまだ全然低いけどね。


でもそれを外敵(エネミア)の姿で直接害そうとした奴が居たから、排除理由になったんだ。」


「ミルを稼ぐのが目的なら、私に近づく理由が無いと。」


「向こうはミルを稼いでいて偶然出逢った不幸な事故を装いたかっただろうがね。」


「ねぇ、そんな事をして何の意味が有るの?」


「単なる嫌がらせだよ。

黒幕は納税管理機関の役人で、低ミル納税者に納税額を増やさせようと、食い積めてる同族をミルで雇って差し向けてるのさ。」


「ヤクザの地上げかな?!」


すっとんきょうな口調で例えた私に、グラはハハハと笑って肯定する。


「私達の種族にとって、労働は敬遠したい事の1つでね。

オリジナルの事をレジェンドリーと呼ぶんだけど、それをコピーした者をエミューンと名付けたんだ。


レジェンドリーの代わりに労働して稼ぐのがエミューンの生業なんだよ。

星に残っているレジェンドリーは基本的に眠って過ごすから、必要なのは日々の生命維持をする為だけの少量のミルを集めれば済む。


だから行政機関から必要だと言われて疑わずに、私を差し出したんだけど。

問題はエミューンを統括している行政機関に腐敗が進んでいる事だね。


レジェンドリーの労働意欲が低いから、当然そのエミューンの意欲も低くてミルが集まり難い。

だから官僚のエミューンで構成された奴らは、星を維持管理する目的から嫌がらせを始めたみたいだけど。

今では私腹を肥やす目的で、市民のエミューン達に高額なミル納税を求める様になってるんだ。」


「それって何とか取り締まれないの?」


「勿論表向きは過酷な労働を強いられるエミューンの権利を保証する法律で、不当な増額は出来ない事になってるよ。

だから地道にミルを集める事より、嫌がらせを娯楽として生業にしている者や。

不馴れな作業に行き詰まって、滞納ペナルティで消滅の危機に有る後の無い者を雇って、こんな嫌がらせをしに来るんだよ。


納税額を上げれば嫌がらせはしないでやるってね。

そして実際に星に必然なミルの数倍以上のミルを、自分達の娯楽に使ってるんだ。」


「_ねぇ、それってひょっとして…」


嫌な予感に私はグラの手をギュッと握り締めた。

何故グラがあんなに怒っていたのか。

その理由を垣間見て、私は彼から不安を取り除く為に身体をギュッと押し付けておく。


「直ぐには気がつかなかったんだ。

私はそれまで先住民と関係を深めることも無かったし、恐らく嫌がらせをされてたとしても気付く事が無かったからね。」


いつも笑っている天使アバターから表情が一切抜け落ちる。

それを私達は至近距離で見つめ合いながら、彼の話を聞き続けた。


「君の本体は奴らに殺されたんだ。

私に納税額を増やさせる目的の単なる嫌がらせでね。

弘樹の事を隠そうと思ったのは、事実を知った君に嫌われると思って怖かったからだよ。」


何故、グラが必死になって私を甦らせる事に成ったのか。

それは単に私への好意もあったかも知れない。


でも怒りに燃えている彼の瞳を見た瞬間に、私は事の真相を一瞬で悟った。


巻き込んで死なせた私への罪悪感。

悪意の有る策略に気が付かなかった敗北感。

私を奪われた事への屈辱。

身勝手な行政に対する怒りと反発心。

色んな思惑があったからこそ、私への執着へと好意が発展したのだと何となく察した。


「子供が生まれてから前より私に優しくしてくれない君に、学会だと偽って行った先のミルを稼ぐ荒野で愚痴をこぼす毎日だったけどね?

作られてから初めて私のレジェンドリーや星への恨みを忘れた、幸福な日々を送ってたんだ。」


怒りに悲しみが混ざって来たのは、当時の記憶が甦って来たからだろうか。

それでも完全に無表情な彼の怒りの大きさに、私はひたすら姿勢を伸ばして彼の手を握り締めた。


「事故の報告は水星で受け取ったんだ。

人類に見つからない様に、微生物のアバターに擬態してミル収集の作業をしてる最中だったね。

君が直進して来る車に、対向車線から右折したトラックが突っ込んだらしくて、即死に近かったよ。


私は老後になって君をどう説得しようかで、色々と悩んでたのにね。


ちょっと突然だったから、ビックリしたけど。

まぁ…、世間的には有る話だろうからと、君の身体を偽装して持ち出してから葬式を出すのにバタバタしたかな。

子供達の事は本当に申し訳無かったけど、私は君を本当の意味で手に入れられると、不謹慎だけど喜んでたのは否定出来ないよ。」


事故で妻が死んで、喜ぶ旦那とか。

…まぁ、多くは言うまい。

コイツは昔から人との感覚がちょっとずれた宇宙人だったからね。

まぁ本物の宇宙人だったんだけど。


「でも勝手が違ったんだ。

私達の身体は記憶を移植するシステムが構築されてたけど、君の身体は原始の状態でね。

新しく君を作った所で、それは私の知ってる君じゃ無かった。

君の遺伝子を持ってるのに、新しい娘が出来た形にしかならなくて、私はその時初めて君を失った事に気が付いたんだよ。

マヌケな話だろ?」


アンドロイドの顔は無表情のまま。

それでも当時に感じた感情を思い出したのだろう。

グラが自分を(あざけり)ながら、激しく泣いている様な気がした。


「あの頃の記憶は、本音を言えばかなり朧気(おぼろげ)なんだ。

君に育児を任せっきりにしてたから、生まれたばかりの君の記憶の無い子供を抱えて、右往左往する毎日だったね。」


私のコピーが不幸になってた!

弘樹に育児が1人で出来る筈が無い!


「君との接点が欲しくて、地球のクローンも作ったけど。

大人になる前に死なせてばかりで。」


想像以上に不幸だった!

ちょっと責任者出て来いや!

私の兄弟に代わってお仕置きしてやる!


「ハハ、そうなんだよ。

私もそう思って地球に戻ったんだ。

どうしても事故を起こした犯人が許せなくてさ。

でもそこで初めて事態を正確に把握したんだ。

頭に来て直接監理局に怒鳴り込んだけど、もっと納税出来るのにしない奴が悪いと。

逆に増税を勧められる始末で、まともに取り合っても貰えなかったよ。


腹が立つ話だろ?

私に直接の被害が無い以上は、罪に問えないとか。最高の嫌がらせだよね。

余計に納税するのが馬鹿らしくなって、しばらくは自暴自棄な日々が続いて、このまま消滅するのかとも思ったけど…。


でもね。

ふとした瞬間に君の事を思い出すと、無性に逢いたくなったんだ。

君を失った悲しみと寂しさに、私は正気では居られなかったんだよ。


探して探して探して探して…、君を取り戻す方法を延々と星を巡って探し続けて。

呆れるほど失敗を繰り返して、それでも諦められなかったんだ。

…いや、ホントは諦めてたのかも知れない。

それでも他にやりたい事も無かったしね。」


「うん、分かった。

もう良いよ。」


私は彼の手を離して思いっきり身体を抱き締めた。


そりゃ襲撃される事も予想出来ただろうし、面倒でもマハトを側におく必要もあっただろう。

私にオススメしたアバターの実家に、自分が最大限の関与が可能な施設も準備が出来る。


オズも暴走する筈だ。

普通の人間には耐えられ無い長い時間を、私の為だけに酷使され続けて来たのだから。


「まだだよ。

ねぇ、聞いてよ。」


「聞いただけじゃグラの苦労は分からないよ。

だからね?

チュートリアルが終わったら、グラが私を作る為に巡った星を全部グラと一緒に回りたいな。

逆から辿って行けば、最後にはグラの故郷にも辿り着けるでしょう?」


「…なつみ。」


「どうしてグラがアミルの星をチュートリアルに選んだのか。

それは私を私のまま残して作る為に、魔力が必要だったんだよね?

逆再生みたいになっちゃうけど、アミルの人生が終わる頃には、少しでもグラの苦労が分かるようになってるでしょう。」


これは無を有に変える特性を持つと聞いていたから浮かんだ予想だったけど。

どうやら正解してたらしい。

無表情を初めて人間らしく歪めたグラが、私を渾身の力を込めて強く抱き締めた。


コクピットしか無い部屋だけど、私が人間らしく過ごせる様に、不釣り合いなソファーやらお布団やらが世界観台無しで置かれている。


普段ボットにしてる時には全く活用しないそれらだけど、私はそこに無言のまま運ばれて行った。


性欲なんて微塵も無いけど、アミルの身体には戻れない。

それはもう悲惨な事になって仕舞うから。


「君が教えてくれたんだよ。」


「うわぁ…黒歴史!」


「違うよ。

原始の愛を示す最高の表現を、君は私に教えてくれたんだから。」


幸せそうな笑顔を浮かべた天使が、淫靡な悪魔に豹変した瞬間だった。

性欲が無くたって愛情表現の一つ。

でも最初からこんな目的が無ければ、この機能は必要無かっただろうから。

グラは最初からそれが目的で、このアンドロイドの身体を作ったんだろう。


でもそれってさ。

滅茶苦茶前振りが長かった割には、私に受け入れられると確信してたよね、コレ。


「ずいぶんと久し振りだから、オズでする前に練習が必要かなって。」


「後15年以上も有るのに、焦らなくても良くない?」


「なつみの方が保たないでしょ。

君は触れあわなければ直ぐに愛を疑って不安になるだろ?

まぁ10年もあれば…」


「ロリコンは犯罪だからね!」


「向こうの世界なら合法だよ。

それでも結婚する意思が有ればだけど。

無くても庶民のアミルなら、オズの立場で手を出した所で無罪だね。


問題が有るとすれば、せいぜい誤解した権力者達から、幼い子供が私の元に送られて来る様になるぐらいだよ。

でもそれは明確に断れば良いし。

その為にはアミルとの関係を周囲に明言するつもりで手は打つからね。

私達には愛が有るから、年の差なんて全く問題は無いだろ?」


「生物学的に問題がありまくりでしょ!

それにアミルちゃんが将来オズを好きになる保証なんて、何処にも無いじゃ無い!」


「好意ならもう生まれてるよ。

幼くても女だよね。

あんな目をされたら、これから当分の間我慢させられるオズが可哀想なぐらいさ。

まぁ普通の幼児じゃ無いからだろうけど。

全ては君が悪いんだよ?」


甘い声で囁かれながら、近未来モデルのスーツを次々に剥かれて行く。

オズの野性的な魅力は無いけれど。

大天使なグラの美貌は、微笑み一つ取っても反則的にエロかった。


火の玉ボディの魅力がイマイチ分からない私だけど、アミルやオズのアバターを見てもグラの面食いさが伝わってくる。

弘樹にしたって黙って立ってるだけなら、一応はイケメンだったからね。


「痛みは無いから緊張は要らないよ。

その代わり感度は高く設定して有るから、久し振りにじっくり楽しめるね。」


地獄送りの間違いでは?

グラの楽しそうな通告を最後に、私は危機を悟って覚悟を決める。

これは欲を満たす行為では無く。

グラの長年の苦労を(ねぎら)って、真実を知っても変わらない2人の愛情を確かめる行為なのだから。


でもアラームの設定は忘れない様にチェックしておく。


そしたら翌朝私は自分の失敗を痛感した。

アミルちゃんがオズに逢っても視線を合わせられなかったのだ。

全身を真っ赤に染めてバクバクと心臓を高鳴らせながら人見知りする彼女に、オズが向けて来る熱視線もかなりヤバかった。


そりゃお食事の準備はともかく、お風呂はねぇ…。


アンドロイド達の触れあいは、とても丁寧で初心者に教えるお手本みたいに優しく愛に溢れたものだったけど、アミルちゃん達からすればAVを見終わった後のカップルみたいな感じだもんね。


結果から言えばオズもアミルちゃんもまぁ、良く頑張ったよ。

そうで無ければスプラッタだと思えば、お互いの努力は褒めるべき。

ただアミルちゃんは確実に大人の階段を登ったし。

オズも発散しまくってた割には、最後の一線だけは根性で耐えぬいた。


まぁ愛が有るなら当然の話だけどね。


アミルちゃんに気を取られてるから、つい忘れてるけど。

納税局が送り込んで来たと言う、チンピラは一体どうなったんだろう。

結局誤魔化されてその話は聞けなかった。

過剰なまでのスキンシップには、グラの心因性ストレスと私への胡麻すり要素しか感じられないけど。

私の注意を反らす為には良い作戦だったよ。

お陰でこのザマだもの。


ハマトの中の人とコンタクトが取れたら良いけれど、外のハマトはこの世界の人だから迂闊に聞く事も出来ない。


なので思い出したが吉日と言わんばかりに、私はお風呂の後の勉強の時間に、フラフラなアミルちゃんをボットモードにする。


今は文字を教わってる所だけど、字を書くのも覚えるのもボットで作業が出来るからね。


「で?チンピラは捕まえてどうしてるの?」


私は火の玉ボディに戻ると、グラに呼び出しをかけて尋問している。


「…なつみ。

この件に関しては、触れて欲しくないな。」


「私が相手に同情して有耶無耶にするから?」


「分かってるじゃないか。

言わせて貰えば、自業自得なだけだよ?

努力を惜しんで杜撰(ずさん)な行動しかしないから、納税局に使われるまで身を落とすんだからね。」


頑として譲らないぞ、と。

言わんばかりな強気オーラをバシバシとぶつけられてるけれど、私が望んでいるのは別の要件だ。


「ぶっちゃけどうでも良いのよね。

そりゃ、私を殺されたんだと思えば蹴りの1つでもしておきたいけど…。

今回の人って、別の人でしょう?

だってそんなに甲斐性の無い人が、グラみたいに長生きが出来る筈が無いもんね。」


「ハァ…。黒幕の方も確かに当時の奴かは分からないよ。

末端の雑魚に比べたら、少しは存在してる可能性は有るけどね。

でも悪意のある風習が残って、未だに続いているのは間違い無いんだ。

徹底的に潰さなければ、また君が狙われ続ける事になる。」


「だからそれはどーでも良いのよ。」


「全然良く無いよ!!!


死の記憶がどれだけ君の蘇生を妨げたか、知らないからそんなに軽く言えるんだよ。

言って置くけど、本当に奇跡だったんだよ?!


この星にようやく巡り逢えて、魔力が君の記憶を定着させる技術に活用出来ると、やっと長年越えられ無かった壁が突破出来たと言うのに。


私が回収していた君の素体は、死の記憶が強く残っていて使い物にならなかったんだ。

その事に気付くまで、かなりの年月が経過してたんだよ?

分かるかい?その時の私の絶望が!


当日着ていた衣服から、何とか君に繋がる素材が見つかってようやく再生する事が出来たんだ。

でもその問題を今の君も突破出来るか、まだ分かって無いんだからね?!

例えアバターだとしても君はまだ死を経験して無いんだ。

簡単に死んでも良いとか、そんな無責任な思考を私に聞かせないでくれ!」


縦に横にと膨張と収縮を繰り返しながら、グラが黒いオーラを巻き散らかす。

かなりのご立腹な様子だけど、私が言いたい事はそんな話じゃ無い。


「別に死んでも良いとか、そんな事を軽く思ってなんか無いわよ。

ただ私が言いたいのは、腹いせにチンピラを退治した所で、別のチンピラが送られて来る問題をどう考えてるのか教えて欲しいの。

それだけ興奮して恨みに凝り固まってたら、利用するなんて発想を意識しても無いでしょう?」


「……君って、たまにえげつないよね。

そうやって私の逃げ道をふさぐつもりかい?」


「でも事実でしょう?」


グラの火の玉ボディが平べったくなってプシュウ…と光を巻き散らかした。


「…利用する手は勿論考えていたよ?

でも感情が高ぶってセーブするのに苦労はしてる…。

八つ裂きにしたって全然足らないんだ。

私が受けた苦痛を思えば当然だろう?

直ぐには消滅させたくないから、その辺はちょっと大変なんだよ。」


「だからソイツに私を会わせて欲しいの。」


「言うと思ったけど却下だ!!!!

絶対に嫌だ!!!

何と言われたってそんなのは絶対に無理だからね!」


また火の玉ボディが膨れ上がると、ギラギラと光りながらグルグルと回り始めた。

こうしてみると、ボディに表情が無くたって感情の表現て色々有るんだね。


面白いぐらいに興奮しているグラを眺めて微笑ましい気持ちになって来る。


「そんな綺麗に優しく光ったって、絶対に嫌だからね!」


「心配しなくても貴方以外の人とどうこうなるつもりは無いわよ?」


「そんな心配はして無いよ!」


「じゃあ、私の事がバレて困る事情でも有るの?」


「そう言う事じゃ無いってば!」


「じゃあ良いじゃない。

会わせてよ。」


「却下だ!

全然良く無いよ!


だいたいこの場所は物理的に外部から何も侵入出来ない様に、頑丈なセキュリティーを重ねてガードしてるんだ。

君が此処から外に持ち出される事も無ければ、出る事だって出来ないんだからね?!」


「堂々と監禁宣言するのはやめてくれる?

まぁこの身体が動けなくたって、アバターで外出が出来るんだから不都合は無いんだけど。

聞いててグラが犯罪者っぽいから、こっちが切なくなるじゃ無い。


でも有るのよね?

私がチンピラに逢う方法が。

そうで無ければそんなに貴方は興奮して無いでしょう?」


「だから君は嫌いなんだ!」


「ハイハイ。

御託は良いからさっさと面会させて頂戴。」


「何度も言ってるけど、君のその身体は私が最高の素材で作った最高傑作なんだよ?!

どうしてそんなご褒美を、君を狙う犯罪者に見せてあげなきゃならないんだよ!!!

ぜーーーったいに、嫌だからね!

君を見て和む権利を持ってるのは、この世で私だけなんだからね!」


そうだった。

コイツは昔から発想が宇宙人だったっけ。

まぁ、本当に宇宙人だったんだけど。

(こだわ)るポイントがこういった時に謎過ぎて困る。


「それじゃ音声だけ届けば良いわよ。

それなら問題も無いわよね?」


「声だって美しいに決まってるだろ!

夏海の声を主流にしてるけど、話す度に癒し効果の副声音が流れる様になってるよ!

嫌だね。君の全ては私だけのものだ。

大体自分の妻を他人に見せびらかす馬鹿なんて、我々の種族には居ないよ!」


「勝手に変な改造されてる件については今更だけど。

完全に内向的な社会なのね?

こういう時ってカルチャーショックって言うんだっけ。

異文化も宇宙規模になれば、人との関わり逢いが違ったとしても仕方ないんだろうけど…」


「…まぁ、その点で言えば君と私の倫理観に、大きなズレは無いかな。

そうでなければ結婚なんて出来ないしね。

出不精なのは種族の特色に有るかも知れないけど、私ほど内向的な奴も珍しいのは認めるよ。


それだけ君の事がショックだったんだ。

昔はもう少し他のエミューンと交流した事も有ったけど、君の事があってから全くそんな気分になれなくなったんだ。

私の情報を流されて、また嫌がらせされても面倒だったしさ…。」


「ねぇ、グラ。

貴方が大きな傷を心に抱えてるのは知ってるわ。

でもそれを支えるのが私の仕事じゃ無いのかな。

私は奥さんて、そう言う役割だと思ってるんだけど?

癒して欲しいだけなら、お人形さんを奥さんにした方がずっと楽よね?」


「でもまだ君は生まれたばかりだし、安心出来ない。

今でもこれは現実じゃなくて、私の渇望が描いた妄想なんじゃないかって不安なんだよ。」


火の玉ボディの先っぽを項垂れさせたグラが、切ない感情を振り撒いて来る。

それがとても可哀想で、だから余計に私は決意を新たに鞭を振るうのだ。


「だったら余計に私は貴方に提案するわよ。

貴方の妄想の中の私じゃ絶対にしない行動を起こして、貴方を幸せにする権利が私には有るよね?」


「なんだよそれ。

だから君は嫌いなんだよ。

いつだってそんな風にして、強引に私を振り回わそうとするんだ。

分かったよ。

不本意だけど、それが私の夏海だからね。

あぁ…嫌になるぐらいに、君は私が望んだ本物の夏海だよ。」


「そりゃ本人だもんね。

まぁ、コピーらしいけど。

て、言うか。

元の私よりもハイスペックになってない?

私ってこんなに察しが良かったかしら?」


「外見以外は全く弄って無いよ。

でも知能指数はボディの影響を受けて、頭の回転が少しだけ早くなってるかも知れないけどね。」


「そりゃこれだけ変われば変化は有るわよね。

アバターにだってかなり影響を受けるんだし。」


「向こうはホルモンが関係してるから、当然だよね。」


「ねぇ、オズがあんなに絶倫設定なのってホルモンだけの影響なの?」


「何千年分溜まってると思ってるの?

身体はスキルで老いないから、身体年齢相応の性欲だよ。」


「ちなみにオズって何歳なの?」


「生物学的には生誕して2300年は経ってるかな。魔力が使えると分かっても、モノにするまで少し時間がかかったからね。

私がスキルで身体の成長を止めたのは24歳だよ。」


ちょっとした好奇心が災いして、ついつい話が脱線してしまい。

結局はお昼ご飯の時間になって、グラとの対話は中断した。


「勝手に処分しないでよ?」


「分かってるよ。

最低限のミルだけ与えて監禁しておくから。」


こっちの方が犯罪者チックだけど、殺されかけたのは本当なだけに、それ以上の希望はとても言えなかった。

頑張れチンピラ!


そしてアミルちゃんに戻って、ちょっと申し訳無さに泣いた。

そりゃ眠いよね。

大の大人をお風呂でお世話してたんだもん。

しかも余計なちょっかいをして来る奴だったし。


でもまぁ、トラウマになってなくてそこはホッとしている。

アミルちゃん的には大好きなお兄さんと、お風呂で遊んだ気分で止まっている。


大人になって、本当の事を知ったら大丈夫なのかは疑問だけど。

正直な事を言えば、アミルちゃんの世界は私が子供の頃以上に狭いと思う。

宿の中庭がアミルちゃんからすれば、近所の公園扱いだし。

同年代の友達も望むべくもない。


全ての人間関係が大人で囲まれているし、私の干渉も有るから発想も大人のそれに近くなってる。

だからグラじゃ無くても、オズに好意を感じても仕方が無いのかも知れない。


何せお婆ちゃんよりもスゴい魔導師で、大のお金持ち。

受付業務が災いしてお金を数えるのが趣味になってきてる彼女に、お金持ちポイントは絶大だった。


現金過ぎる2歳児に涙が出そうになるけど、お金の問題でお母さんが死ぬかと思った影響も多分に含まれてるから、余計にそうなのかと納得も行く話だ。


後もっと言えばお金が大好きなのって、ウチの血筋の影響も有るかも知れない。

オズも同系統っぽいから、趣味が合いそうだよね。


2000年も年代が離れてたら、遠い親戚って言っても殆ど他人なんだけど。

ウチの遺伝子って言うか、環境とかの影響も多分に有るかは分からない。


お昼ご飯を半分寝ながら食べ終えたアミルちゃんは、今はオズのお部屋で昼寝をしている。

ちょっと心配した私だったけど、その提案を断る体力が残されて無かったから無念だ。


昼寝が終わったら、お母さんの様子を見た後で下に手伝いに降りるつもり。

朝にはもうお父さんもお爺ちゃんも、大勢のお客さんを相手に大変そうだったから。


オズが咲かせてくれた薔薇っぽいお花の周りは、まだ地面が剥き出しの荒れ地になってるけど。

そこが近所の人達の避難所になってる。


宿の部屋はもう満杯で、入れなかった人達がそこで夜を空かしたらしい。


物資が足らなくなるんじゃないかと私が不安に思うより先に、オジサン達が街を走り回って商人仲間を引き込んでくれたのは良い判断だった。


安全な部屋を提供する代わりに、こんな非常時にも関わらず物資を通常価格で売ってくれてるから。


そう、通常価格でも良心的な行為にあたるんだとさ。

朝での会話はそこで終わってるから、今頃は別の問題が浮上しているかも知れない。

でもアミルちゃんはお昼寝中なので、私は今火の玉ボディでグラに観賞されながら、チンピラへの接触をどう説得するかで悩んでいる。


何せグラのトラウマが半端無く深い。

無理をすれば発狂するレベルで心が病んでいるのだ。

とは言え火の玉ボディは優秀なので、何もせずにボーッとしてれば心の動揺が落ち着いて来る仕様らしい。


だから私は生まれて初めてグラの観賞に付き合いながら、ボーッと悩みながら星やらグラやらを見るとも無しに眺めていた。


だって一晩中睦み合ってたから、身体の疲労は無くても気分的に疲れてるんだよ。

グラがチンピラを勝手に始末しないと約束してくれたから、焦る必要も無くなったしね。


キラキラのグラが無害な所が気分的におちつくので癒されている。

ふれあいが出来れば申し分無かったけど、この状態のグラが私的にも好きになって来たかも知れない。


むしろ迷惑の塊でしか無かった弘樹を思えば、グラの方が断然好きかも。

まぁ弘樹には弘樹の良さも有ったけど、それ以上に悪い所で疲れてたんだと思う。

多分本当の理由を知った今なら、違った感想を抱けるのかも知れないけど。

悪い所が有っても彼が好きだったんだから、本気で私は恋をしていたんだと実感する。


そして疲れが癒えるにつれて、こんなに優秀なボディの特典を受けながらも、怒りと悲しみを抱えて来たグラの苦労を思い知らされていた。


人を恨むのも、悲しむのもエネルギーの居る話だと思う。

私なんて翌日にはあっけらかんとしてるから、余計に大変だったんだろうな、と。

ポツリと思った。


それでもグラが復讐に取りつかれて、人を害する道を選ぶ人じゃ無くて良かった。

まぁ現在進行形でチンピラは害され中かも知れないけど。

それでもまだ、殺して無い。


アミルちゃんの世界は、とても厳しい。

オズが人を避けて生きて来たのも、社会的な理由に巻き込まれて殺人を犯す危険性を避けて来た結果の様な気がしている。


そんな彼がギリギリで踏み止まってる所で、私が背中を押す訳には行かないのだ。


平和的に解決するにはなるべくグラを刺激したく無い。

でも黒幕とチンピラのやり取りを知らないから、いつまで時間が残されているのか分からない所が不安では有る。


まぁ面会の約束は取り付けたけどもね?


だからこれはそのご褒美タイムなのだ。

何せ勉強してた時以外の私は、あんまり火の玉ボディを活用して無い。

中身が入ってるのとそうで無い違いは、経験の浅い私でも分かるから。

状況としては縁側で日向ぼっこをしながら、グラに膝枕をしている気分だった。


実際は向かい合って1ミリも動いて無いけどね。


「綺麗だねぇー…。

なつみはとっても綺麗だ…。」


「グラもきれいだよ。」


ポワンポワンしながら気の抜けた呟きをたまに漏らす彼に、私は苦笑を浮かべる心地で同意を返す。


「あぁ…幸せだなぁ…。」


しんみりと彼がそう漏らせば、恐らくこの姿こそが彼等の種族本来の生態なんだと理解が及んだ。


とても平和的な種族なのに、どうしてこんな風になって仕舞うのか。

それが文明的に進化した所で人間性を棄てきれずに持った業なんだなと、そんな風に私はボーッと考えていた。


何故、私達を放置しておいてくれなかったんだろう。

失われた幸福の時間を思うと、愚痴がポロリと零れた。

理由なら聞いた。

とても自分勝手な理由に呆れるしかない。

でも私はその話を、グラの目線からでしか聞けて無かった。


納得出来る理由が例え有ったとしても、グラに与えられた苦しみを思えば、私が向こうを許すのは難しいだろう。


じゃあルールを変えれば良いじゃないかと、私はそんな風に思ったのだ。

それにはグラ以外の人達の話を聞いて見たかった。


それは恐らく私がまだグラの種族に対して無知だからだろう。

簡単に出来る事なら、グラも率先して行動を起こしたのかも知れないのだから。


…いや、コイツはしないな。


自分の興味が最優先な奴だから、そっちの方がどれだけ簡単だったとしても、私を甦らせる難題に突き進んでるかもと考え直す。


まぁ面会してから考えよう。

先ずは情報収集をするべきだ。

私だって魔法の世界を楽しみにしてるんだから。


政治の問題って大事な事だと分かってるんだけど、ついつい面倒臭くてかかわり合いになりたく無いのよね。

選挙にだけは行ってたけど。


ヤバいぞ。

私もグラとあまり変わらない気がしてきた。

元々の趣味が同じだったからこそ、私達は出会った件が浮き彫りになる。


つまり私達は正反対な性格をしている割には、共感出来る共通点が意外と多かったりする。

だから面倒な子育てを丸なげする弘樹が、余計にムカついてたのだ。


弘樹に育児放棄の言い分に収入を逆手に取られたく無くて、育児と両立して忙しく働いてた私が政治の問題なんて分かる筈が無い。

テレビでニュースを見る時間すら、ろくに取れ無かったんだから。


「おう、困ったぞ。」


もっと言えばチンピラに襲われる経験も無かった。

私の世界の話なら警察や弁護士さんに頼る問題だよね?

それならマハトの中の精霊の人にも逢わなければと、グラの嫌がりそうな選択肢ばかりが広がって行く。


…うん。もう少しだけ様子を見ようか。


私は只の一般人。

しかもアミルちゃんの世界の勉強を始めたばかりな上に、お母さんの健康問題まで抱えてる。


現状でたこ足配線した所で、良い結果に繋がる保証は無いだろう。


「グラの種族は長生きだしね…」


あぁ…後ろ向き発言。

でも人にはキャパシティってものが有るのよ。


先ずはお母さん。

それからアミルちゃん。

グラの精神的な健康の回復。

それからチンピラの処遇の順番で、動く事を考えよう。


お巡りさんとの接触は、グラに聞いて可能ならで。


また気分的に疲れた私は、エメラルドグリーンの惑星に意識を向ける。

そう言えば、この星って何処の星なんだろう。


「惑星エレクトロニクス。

私のレジェンドリーが住んでる母星だよ。」


「綺麗な星だね。」


「…うん。

だから消滅する事を保護する点だけは、異論は無いんだよ。」


「うん。そうだね。

私でもそれは思うよ。」


「公安の奴は基本的にアバターを作成した後は、各地の星を巡ってる。

今は私が買収してるから、協力を求めるのはやぶさかじゃ無いけど。

奴等だって納税局の人間と、やってる事は同じだからね。」


「…そっか。」


「今はオズも落ち着かないし、アミルの方も大変だろう?

君の言うチンピラと面会する時は、公安の奴にも声をかけるよ。

だから私を信じて今はもう少しだけ、静かにしててくれないかな。」


「…うん。分かったよ。」


そうだよね。

口に出さなくても感情が伝わるから、そりゃ五月蝿くしててゴメンよ。

ご褒美が褒美になって無かったんだね。


「うん。他の奴に逢いたいとか願う君が特に不愉快だったんだ。」


「弘樹の時より独占欲が強くなって無い?」


「当たり前だろう?

君は私の真の妻になった自覚が足りてないね。」


「そんなもの。

何百年経った所で芽生えないわよ。

それが嫌なら他を探して。」


「君のその勝ち誇った傲慢さが大嫌いだったのを、今頃思い出したよ。」


「ウフフ。

それはそれだけ私を愛してくれる、貴方がくれた自信が有るからだよ。

これが無ければ貴方の妻になんか、絶対にならなかったわよね。」


「…そっか。」


「うん。

貴方の努力の賜物よ。」


ふんわりと優しい気配がグラから伝わって来る。

だから私も負けじとふんわりと返したら、グラはそれで満足したのか再びボーッとし始めた。


しばらくは弘樹との懐かしい過去を思って過ごしたけど、アラームが鳴ったのを切っ掛けにアミルちゃんへと戻った。


「おはよう。」


そして至近距離で同じベッドに寝転んでるオズのスマイルと、広げた胸元から覗く鎖骨のセクシーさに直撃されて頭がクラクラとした。


「おはよー!」


それでもやる事が目白押しな私は、気合いを入れてオズの胸元から視線を剥がす。


色気がムンムン過ぎて困る。


彼のふわふわな頭がお湯でペッタンコになった時は笑ってけど、前髪を掻き上げられた瞬間に悩殺された記憶が甦って、ボッと一瞬で顔が湯だった。


これはアミルちゃんの反射だな?

そうか、君のツボに私も共感するよ。


「おかあさんのところにいくね?」


急に恥ずかしくなった居たたまれなさに、私はそそくさと外着のワンピースを着込む。

裸だった訳じゃ無いけど。

半袖のペラペラしたワンピース下着姿だったのだ。


ちなみにパンツは履いてません。


これはもう慣れたけど、少し前までオムツでお(しも)が被れてた事を思えば、痒く無いだけこっちの方が快適なのだ。


この世界の布地って、基本的にゴワゴワしてて硬いしゴムなんて無い。

まだ紐を1人で結ぶのに苦労するから、パンツを履けないのがその理由。


中身が私なだけに1人でお着替えするのも早かったから、そう言う面では放置されてる。

紐だって結ぶ知識は持ってるけど、指先がまだ動かし難くて面倒さが先に立ってしまう。


こう言うのって良くないと思うけど、他にやる事が多いからつい流されたのよね。


「僕が連れて行ってあげるから、少し待ってて。」


「ウーン…したにおりるときにおねがいするよ。

おかあさんはオズにきんちょうしちゃうから。」


「そっか。

じゃあ、支度をしておくから下に降りる時は僕を呼びに来てね。」


「うん!」


こうしてお母さんとお婆ちゃんに再会して、魔力を抜く治療を行う。

お婆ちゃんは下から魔術に使う道具を持ち込んで治療のレポートを書きながら、お母さんの付き添いをしてくれていた。


「したはどんなかんじなの?」


「今は非常時だからねぇ。

さっき少し見に行ってみたけど、ご近所さん達が皆で協力してくれてるよ。」


「じゃあ、おみせのばんはいらなさそう?」


「そうさね。

アミルにはオズワルド様のお世話が有るだろう?

だから無理して降りる必要は無いよ。」


「ウーン…、でもきになるからちょっとだけみてくるね。」


「オズワルド様がどうせついて来るんだろう?

逆に迷惑にならないかねぇ…」


そうなのだ。

でも正確に言えば、オズが皆に迷惑をかけるのでは無い。

オズについて来るマハトの方に、皆が萎縮して迷惑になって仕舞うのだ。


「マハトはおいていくよ。」


「ハハハ、無理じゃ無いかね?」


「アイツはいらない。」


チンピラを捕獲している以上、公安の協力は今の所必要無いからね。


「ウフフ。アミルは頼もしいわね。

でもその気持ちは絶対に相手に悟られ無い様にするのよ?

オズワルド様が守って下さるとは思うけど、油断は大敵なんだからね。」


お母さんに、メ!と鼻を摘ままれた。

痛くは無かったけど、素直に頷いておく。

庶民の貴族に対する認識は、外敵(エネミア)に対するものとそう変わらないから。


お母さんの治療と観察を終えて安心した私は、オズの部屋に戻って行く。


「わぁ!すてき!

オズがしょみんみたい!」


すると眼鏡を外して少し素材の悪い服を着ている彼の姿に胸がときめいた。

それでも綺麗な髪や肌が完全な庶民の擬態とは言えないが、彼の気遣いがとても嬉しかったのだ。


「この方が下で受け入れられ易いかな、てね。」


「うん!とってもカッコいいよ!」


部屋に入ってすかさずオズに抱き上げられた私も、満面の笑顔で彼の首筋に抱き付く。


お客さんの殆どが旅をしてる影響で、髭が延び放題で埃っぽい小汚ない姿をしている。

だからオズが少しくたびれた姿をした所で、私の目には素敵なお兄さんに映るのだ。


「ありがとう。

アミルもとても可愛いよ。」


対して私は着古した厚手のワンピース姿。

それでも自然な流れで優しくキスをされて褒められれば、それはもう心がドキドキと浮き立つ。


軽く啄むバードキスなら、唇にされてもアミルちゃんは完全に受け入れているのが泣ける。

女の子がそんなに簡単に貞操を許しては行けません。

と、純粋な日本人の私には違和感を感じて仕舞うと言うのに。

嫌悪感がゼロな上に、むしろ喜んでいるから何も言えねぇ。


「えへへ。」


恥ずかしいけど嬉しくて。

頬を染めながらはにかむと、オズの目に熱が混もって(うる)んで来る。


「あぁ…何て君は愛らしいんだろうね。

全てをまるごと食べてしまいたいよ。」


「たべちゃダメだよ?

なくなっちゃう!」


「ウフフ、大丈夫。

無くならない様に大事に食べてあげるからね。」


うぷ。

奴のフェロモンが私をむず痒くさせる。

ぷにぷにな私の頬を愛おし気に指の背で撫でられた私は、彼の指先が唇に届く前に緊急離脱を計った。


「じゃあ、したにいこう!」


「…そうだね。

したに行こうか。」


オズの指先を握って宣言した私に、彼は名残惜しそうに苦笑を浮かべながらも素直に応じてくれた。


「あ、そうだ。」


「うん?」


でも部屋を出る寸前で唇をしっかりと奪われたので、あんまり意味が無かったかも知れない。


「あぁ…ご馳走さま。

アミルはとっても甘くて美味しいね。」


プシュウと頭から湯気を出している私を嬉しそうに見つめながらも、オズが部屋から一歩出れば。

その先にはしかめっ面をした黒い装いの男が、音も無く静かに(たたず)んでいる。


どうやら濃厚なキスシーンを目撃して、微妙な思いに苛まれているらしい。

彼の性癖が至ってノーマルなら、そう言う反応も仕方が無いだろう。


オズを叱ってやってくれてもええんやで?


恨みがましい気持ちがエセ関西人に私をクラスチェンジさせるけど、マハトは放置を選んだようだ。


「下に降りるなら私も行こう。」


「大人しくしてるのが条件だよ。」


「承知した。」


うん、お婆ちゃんの言う通りだったよ。

私は頭が茹でダコ状態なので、マハト所の話じゃ無かった。

これは無駄なやり取りを嫌ったオズの策略だったんだろうね。

見事に口を塞がれてしまったよ。


恥ずかしいやら悔しいやら。

私は後遺症に瞳を潤ませながら、オズの胸元に頭を乗せてボーッとしている。


アンドロイドの後遺症か、キュンキュンしている身体がウザい。

アミルちゃんにはまだ早いわ!


オズの嫌がらせが辛い件について、何処に訴えれば良いのやら。

泣くに泣けないこの状況だけど、それでも温もりが心地好くて嬉しい自分がキラいだった。


アンドロイドの改造を考えた瞬間だよ。

人肌の温もりって、やっぱり良いよね。


まぁしないけど。

向こうに入り浸って、こっちを(ないがし)ろには出来ないからね。


中庭に出ると先ず目についたのは、沢山張られてるロープや布のテント(もど)き。

歩くスペースを確保するのが大変なぐらいに敷き詰められている。


着の身着のまま逃げて来たらしく、年代を問わず疲れた顔をした人達が暗い表情を浮かべて座り込んでいる。


苦労して食堂に向かえば、大勢の人でごった返していた。

虫事件から遠退いていた近所に住んでる人の顔ぶれが多いけど、中には見たことの無い人も居る。

子供の姿なんて初めて見たもんね。


ハシャギたい年頃の子達が騒いでも許されるのが食堂なのだろう。

集団で集まってなにやら遊んでいる。


本来ならアミルちゃんもあの集団に混ぜてあげたい所だけど、本人の興味が全く反応して無いのが切ない。


「おとうさん!

おてつだいいる?」


「おぉ…、アミルか。

…いや、近所の人達が手伝ってくれてるから必要無いぞ。」


お父さんは鍋をかき混ぜていたけれど、私の声に顔を輝かせて反応した後。

私を抱いているオズや後ろで存在感を放ち捲っているマハトの姿に、すぐにぎこちない仕草で視線を反らす。


「そう。ねぇ、オジサンたちは知らない?

マハトがおいしいおちゃのはがほしいみたいなの。」


「ゲルマンさんの事か?

彼はまだ外から戻って来て無いな。」


「わかった。

それじゃもどってきたらおしえてね。」


「おう。」


「あと、おじいちゃんはしらない?」


「お義父さんは…」


お父さんとやり取りした結果、忙しく動き回っているお爺ちゃんに会うのは断念する。


「することなくなちゃったね。」


「そっか。

それじゃ上に戻るかい?」


下の状況を知っても私に出来る事が見つからず、早くも行き詰まってしまったけれど。

オズの言う通りにすれば良いと分かっていても、貞操の危機を感じて戻りたく無かった。


いや、勉強してれば良いんだけどね。


「いまはおとそにでられない?

わたしはまだおそとにでたことがないの。」


上目遣いでおねだりをすれば、オズは満面の笑みを浮かべてくれる。


「それじゃ少し散歩してみようか。

私達が居れば問題は無いよ。」


てっきり止められるかと思ったけれど、意外にもマハトは黙っているし、オズが快諾してくれて嬉しくなる。


「ホント?!うれしい!

わたしおそとがきになってたの!」


ウキウキとしながら、いつもは風景の一つでしか無い出入り口を通って表の大通りに出ていく。


「うわぁ…」


そこはとても酷い有り様だった。

ウチの宿は何も変わらない姿を保っているのに、直ぐ隣の建物からしてドアや壁が壊れて地面に残骸が落ちていたのだ。


しかも地面が所々黒ずんでいて汚ならしい。

其処から異臭が漂って来て、直ぐに気分が悪くなった。


「くしゃい…」


「うん。ちょっと綺麗にしようか。」


顔をシカメて素直に呟けば、オズが懐から眼鏡を取り出して耳や鼻につけるとパチンと指先を鳴らす。


「わぁ!」


すると大量の光の粒が地面から立ち上ぼり、黒ずんでいた道が元の茶色い地面に戻って行く。

その光景の美しさに思わず感嘆の声が零れた。


「障気を浄化したんだよ。

ほら、マーズリーが来てただろ?

黒緑色の大きな魔獣。

覚えてるかい?」


「うん!おにわをメチャクチャにしたわるいのだよね。」


「そう、それ。

アイツが地面に触れるとあんな風に黒くなって、人の身体に悪い毒を撒き散らかすんだ。

だから僕の魔術で綺麗にお掃除したのさ。」


「オズ、すごーい!

きれいにしてくれてありがとう!」


「ウフフ、どういたしまして。

僕は君と巡り会う為に、今まで沢山の魔術を学んで来たんだ。

だから役に立てて嬉しいよ。」


その通りだと思うんだけど、そんな情報をマハトの前でポロリしても良いのかね?

だって外の人は現地人だよね?


ちょっと別の意味でドキドキしている私に、オズがパチンとチャーミングなウインクをする。


「…ホントに?

でもどうしてそこまでしてくれるの?」


無理やり辻褄合わせの為のアドリブを捻り出す。


「僕はずっと長い間、君を待ってたんだ。

同じ時を生きてくれる才能に満ち溢れた君をね。」


マハトがハッとして身体を固くする。

…まぁネタバレすればミルで不老をつけるんだっけ。

でも今身体の時間を止める訳には行かないから、成長してからの話になるよね?

この時点でそれを話しても本当に大丈夫かしら?

まぁ大丈夫だから喋ってるんだろうね。

それが私を特別扱いする理由に持って行くのね。


「そうなの?」


「うん。一目見て分かったよ。

だから君は私の特別になるんだ。」


でもそれを理由に持ってこられると、此方としてはとても微妙な気持ちになってしまう。


「わたしにさいのうがなかったら、オズはつめたくなるの?」


意地が悪いアドリブだけど、それが私の正直な気持ち。

眉毛を八の字に下げた悲しそうな私に、オズが無表情になる。


茶番でしか無いけど。

大事なポイントだよね。


「えーと…その…」


「わたしはオズがスゴいまどうしでなくても、オズがだいすきよ?」


「…ホントに?」


「だっていつもいっしょうけんめいに、わたしにやさしくしてくれるから!」


ミスリードした自覚は有るから、フリーズした彼を誘導してあげる。


「…そっか。

でも君は僕の魔術も好きだろう?」


「うん!

キラキラとしてとってもキレイだからだいすき!」


ホッと彼の表情が緩むのを見て、私もヤレヤレと内心でため息を溢す。


「でもそうだよね。

君の才能は素晴らしいけど。

君の事が気に入ってるのは、それだけじゃないね。

僕はちょっと勘違いしてたみたいだ。

教えてくれてありがとう、アミル。」


茶番でしか無いけれど。

必要な事って沢山有るよね。

私はグラが無自覚に虐げてきたオズに、少しでもそれを伝えたかったのだ。


産まれて直ぐにグラにアバターにされたオズは、物の感じ方が周りの人と完全に違っていただろう。

何せ奴の本体は火の玉ボディ。

人の美醜も匂いや温もりの尊さだって、基準が他人と違ってても仕方が無い。


オズが長い孤独の中で、自分と同じ存在に出逢えて嬉しい気持ちと。

現在進行形で感じている触れあいの尊さが、混同しても可笑しくは無いのだ。


でもね?

弘樹はそんなにずっと私に触れようとはして無かったよ。

でもオズは暇が有ればずっとアミルの身体に触れている。


種族の差がそこに現れてるなら、オズはきっと弘樹よりもスキンシップが好きな人なんだと思ったのだ。


それなのに今までグラの支配が強くて、無自覚に我慢を強いられて来たと私は感じたのだ。

子供の身体って、柔らかくて暖かいよね。


「僕は君の身体も大好きだよ。」


「でもそれをしょうじきにいうのはどーかとおもうよ。」


やっぱりコイツはグラのアバターだった。

今なら理解が出来る弘樹の謎発言は、こうして生まれていたんだろう。


マハトの目にあった生気の光が失われてるから、ちょっと周りを見て欲しいと思った私は間違ってないと思う。


「ん?どうして?」


「わたしもオズのからだ、だいすきよ。

でもこういうのって、いったらダメなのかも。」


「うん?」


「マハトがきいててすごくおどろいてるから。」


オズの視線を受けたマハトが、あからさまに顔を背ける。


「何で驚いてるの?」


「それがその口から出てくる事の方が、私には衝撃なんだが…」


「うん?」


「本当に理解が出来ないのか?」


マジかよコイツと言わんばかりに、マハトの目が面白いぐらいに見開かれてる。


「オズ?

わたしはよくしらないけど、ちいさなおんなのこをこいびとにするのってわるいこと?

おばぁちゃんはよろこんでたけどちょっとへんだったし、おかあさんがしんぱいしてたの。」


「あぁ…、そう言う意味か。

そうだね。世間的には誉められた行為では無いらしいね。」


「だからマハトがビックリしてたんじゃない?

きっとオズはそんなことをしない、いいひとだとおもってたのよ。」


「でも僕が好きなのはアミルだからだよ?

小さな女の子に好意が有る訳じゃ無いから、悪く無いと思うんだ。」


「マハトがしりたかったのはきっとそれね。

でもそこまでせつめいしないと、ふつうはわからないから、おそとであんまりいわないほうがいいのかも。

オズがへんなめでみられたらいやだな。」


「僕は君のその気持ちが嬉しいけどね。」


ムギッ!と抱き締められたせいで頬っぺたが押されて変顔になってると思う。

ヤレヤレ、人外のフォローは大変だぜ。


「何故そこまでその小娘に入れ込むのだ?

どんな才能が秘められているのか教えてくれないか。」


「何故君に?

七歳の祝賀際で洗礼式を受ければ分かる事だろう?」


「…確かにそうなのだが、個人的に興味が有るのだ。どんな才能が秘められていれば、貴方と同じ時を生きられると判断が可能なのか。」


「知ってもどうにもならないと思うけどね。

まぁ良いさ。

多くの才能に恵まれた子だけど、私が特に注目をしているのは命属性だよ。」


「…それだけでは無いだろう。

その程度なら他にも幾らでも居る。」


「確かに先天的に命属性を持っている子供は、珍しくても皆無では無いね。

でもね?アミルの命属性のレベルはもう今の段階で3も有るんだよ。」


「まさか、有り得ぬ?!」


「七歳の洗礼を受ける時には、私と同じ5まで高まっていても不思議では無いだろう?

何せ私がこれから育てて行くんだから。」


冷や汗を浮かべるマハトにドヤ顔を向けてるオズを見て。

コイツ、今私に無茶振りをしやがったと盛大に悟った。


単にミルで3まで振った私だけど。

実は水属性を同じ様にしようとしても、数値は上げられ無かったのだ。

つまり看護師として働いた経験が、ミルを振れる基準になっていると予想すれば。

5もあったと言うオズに並ぶには、医師の知識と経験が必要になる可能性がある。


はい!無理ゲー来たーー!!!!


勉強しろって?

ハハハ、面倒クセェェェーーー!!!


なるほど最初の説明通りだよ。

努力をしたら特級魔女になれるよね。

何せ医療の知識はこの星に止まらず、グラが集めた物を外付けメモリーに入れられるんだもの。


私が必死に勉強してたのはお母さんを助ける為であって、別に特級魔女になるためじゃ無いのよ?!

オズがグラに強いた努力を、私やアミルちゃんにもしろとか、ふざけんじゃねー!!!


と、吠えた所で私がそれを拒否すれば、オズの孤独は永遠に終わらないと。

卑怯な奴だよ。

オズにあんな嬉しそうな顔をさせて、こんなにアミルちゃんに懐かせてからそう言う情報をポロリするんだもの。


面倒な事は嫌いなの。

それはグラも同じだと思うんだけど、そういや言ってだよね私。

アミルちゃんの人生が終わる頃には、グラの苦労が分かるかもって。

ハハハ、まさか本当に実現しそうだ。

七歳までにレベル5にするだけで、人生が終わる前に貴方がしてきた苦労が分かる気がするよ。


これが松田夏海のスペックなら、裸足で逃げてた無理ゲーだろうけど。

なつみのスペックならちょっと出来るんじゃないかと感じてる私を、私は心から誉めてあげよう。


全ては私のつまらないプライドを満たすためだけにね。


口先だけの女で終わったら、グラの隣りになんて立てる筈が無いんだから。

守られるだけが嫌だと言うなら、必死に努力をするしか無いのだ。


「おい、小娘!こんな場所で漏らすなよ?!」


頬っぺたを膨らませてプルプルと決意を胸に抱いているだけの私に、何て失礼な勘違いをしやがるかコイツ!


「しつれーでしょ!

マハトはおんなのこのあつかいがわかってない!

これはそんなんじゃないから!」


「ハハハ、トイレじゃ無いってさ。」


「だったら何故にきばっていたのだ?」


「がんばってべんきょうしようとおもってただけだもん!」


「まだ字を覚え始めた所だからね。」


「わたし、がんばるよ。

オズをひとりにしないからね!」


「…うん。ありがとう、アミル。」


またぎゅうぎゅうと抱き締められて変顔しながら思ったけど。

宿から出てまだ一歩も道路を歩いて無いのよね。

これってお散歩って言わないんじゃないかな。


「それじゃ、アミルの初めての散歩を僕と過ごそうね。」


「マハトもいるよ?」


「気にしなくて良いよ。」


マハトが向けて来る白い視線が和らいだ事だし、まぁいっかと気を取り直して荒れてる道を進んだけれど。

人も居なければ建物も荒れ放題で、何にも面白く無かった。


「だれもいないねー。」


「多分中央に逃げてるんだよ。

この辺りは第2防壁の中だからね。」


「かべがあるの?」


「そうだよ。

中央にこの街の領主が住む建物があって、その周りを壁が囲んで守ってるんだ。

アミルの住む宿は、その壁の外に建ってるんだよ。」


「へぇ…そうなんだぁ。」


「更に外に壁が有るけど外敵(エネミア)が多いから、放棄して中央に集まって守ってるんだろうね。」


「でもエネミアいないよ?」


「中央に集まってるんだよ。

其処に食糧になる人が集まってるからね。」


「そっかぁ。

じゃあ、それってあぶないよね?」


「普通なら危ないよ。

だけどアミルには僕がいるから大丈夫だよ。」


「でもオズがあぶないならいやだなぁ。

おうちに戻った方が良い?」


「アミルは優しいね。

戻りたいなら戻っても良いけど、アミルにカッコいいって思われたいから、このまま中央に行っても良いんだよ?」


「オズがあぶなくならない?」


「うん。大丈夫だよ。」


それじゃ盛大にカッコいい所を見せて貰いましょうか。

多分、マハトが止めないのもその方が都合が良いんだろうね。

何せ魔術1つで白金貨100枚のお人だもの。


そのままどんどん奥に向かって進むと、地面の汚れ具合や建物の崩壊具合が激しくなって行く。


こりゃ復興に時間がかかりそうだなぁ、と。

被害の大きさに眉を潜めていると、オズが地面を浄化しながら進んでくれた。


「オズ、キラキラしてキレイだね。」


「うん。綺麗だね。」


火の玉ボディを思い出させるやり取りを繰り返しながら進んで行くと、とうとう高い城壁が迫って来る。


「あ、エネミアがたくさんいるねー」


まだ距離は開いているけれど、高い城壁の上にズラリと並んだ人達が、下から壁を登って行く多くの外敵(エネミア)達と激戦を繰り返している最中だった。


「おい!アミル!こんな所に来て大丈夫なのか?!」


それを眺めていると、頭の上からマルクスお兄ちゃんの声が降ってきた。


「あ、おにいちゃんだ。

ゲルマンさんいる?

マハトがいいおちゃのはっぱがほしいみたいなのー。」


「はぁ?!ちょ、危ないから早く上に上がって来いよ。外敵(エネミア)がきちまうぞ?!」


「オズがいるからへいきだよ。

それよりおちゃっぱしらない?」


「えぇ?!

そんなこと言ってる場所かよ!

ホラ、気付かれたぞ!

逃げろ、アミル!」


お兄ちゃんから視線を離して城壁の門を見ると、いつの間にかそっちの方からバッファルやセベクトが沢山集まって来た。


「オズ、にげたほうがいい?」


「ううん。大丈夫だよ。」


「任せろ。」


オズに聞いてる所でマハトがオズと外敵(エネミア)達の間に立ちはだかった。


そしてある程度の距離が迫って来ると、黒い蔦がマハトから伸びてあっという間に外敵(エネミア)達が光になって消えて行く。


ちなみにその中で消え方の違う奴が居るのを見ると、公安のボットがどさくさ紛れにミルを集めているのがよく分かった。


なるほど止めない訳だよ。

こうしてお巡りさんはミルを集めているんだね。

多分マハトはそんな事情は知らないだろうから、精霊ボットと何らかのやり取りをしてるに違いない。


そしてマーズリーが現れると、距離が詰まる遥か前にオズが辺りごと凍らせて、それをマハトが砕いて歩き回っていた。


「ふわぁ…さむいねー。」


「でもこうしてれば温かいだろ?」


「うん。ありがとう、オズ。」


私はオズが纏っているくたびれた茶色のマントの中に引き込まれて、オズの温もりで暖を取りながら颯爽と飛び回っているマハトを眺めている。


うん、マハトって前世はバッタかな?


ピョンピョンと良く飛ぶ姿に、緑の昆虫の姿を想像して少し微笑ましかった。


「こおりがキラキラしててキレイだねー。」


「うん。綺麗だね。」


オズが好んで氷の魔術を使う理由が、火の玉ボディの嗜好を反映しているのを知ってるのは、きっとこの世界では私だけだろう。


「わたしにもできるかな?」


「うん。きっと出来るよ。

水属性を持ってるしね。」


「はやくでしいりしたいなー。」


「こればかりはね。

どれだけ才能があったとしても、七歳の制限は破らない方が良いんだ。

もし例外を作れば、真似して抜けて来る子供が増えて仕舞うからね。

本人が望んで抜けるなら良いけど。

家庭の事情で努力を強要させられる子の方が遥かに多いんだよ。」


「そっかぁ。

それはやぶらないほうがいいね。

かわいそうだもの。」


後5年も有るかと思えば遠く感じてしまうけど、オズの倫理観には共感出来る。

私が他の子供とは違う以上。

絶対に犯してはいけないルールが有る。

そう教えられた気がして、しっかりと頷いた。


見える所全てが凍りついた世界でオズとイチャイチャしていると、どうやら見える範囲の外敵(エネミア)を砕き終えたマハトが悠然と帰って来た。


「あ、おにいちゃん、はっぱー!」


「……すっげぇ…あっという間に外敵(エネミア)が居なくなっちまった…」


マハトを見て思い出した私が上を見て叫んだけれど、ポカンとしているお兄ちゃんがそれに気付く事もなく。

ひたすら目を輝かせながら、ポロリと呟いていた。


どうやら私が思ってた以上に、お茶っ葉への道のりは遠いらしかった。


「そろそろ帰ろうか。

騒がしくなると困るしね。」


「うん。」


既に外壁の上に居る人達がガヤガヤしている雰囲気に、お茶っ葉を諦めた私は素直に頷く。


「エネミアをやっつけてくれてありがとう、オズ。」


「不便な生活で困るのは僕も嫌だからね。」


「マハトもありがとうね。」


「フン!」


俺には何も無いのかよ、と。

威圧的な視線を感じたから空気を読んであげたのに、マハトは当然の様な顔で鼻を鳴らしただけだった。

可愛くないから次は相手をしてやんないからね。


ベー!と、舌を出してから。

マハトが目を剥いた瞬間に、オズにしがみついて視線から逃れる。

グヌグヌしてるマハトのオーラを背後に感じたオズが、逃げ込んだ私を優しく見つめてクスリと笑みを溢した。


「アミルはとっても可愛いなぁ…」


「オズはとってもカッコいいよ。」


オズの肩越しにマハトが眉をひそめる姿を捕らえながらも、イチャイチャしながら宿に帰って行く。


「胸焼けがする…」


聞くとも無しにマハトのうんざりとしたボヤキが聞こえたけれど、私達はイタズラな笑みを交わしてイチャイチャし続けた。


遠いお茶っ葉だと思ってたら、宿に戻って直ぐにゲルマンさんが渡りをつけに来た。

お茶の葉を扱ってる商人さんを紹介してくれたのだ。


「…ふむ、まぁ良いだろう。」


可愛く無い反応だったけど、マハトが選んだお茶の葉で入れたお茶は、苦味とえぐ味が少なくて飲みやすく。

子供の私でも美味しいと思える一品だった。


腐っても貴族か。

絵になる美形がお茶を飲んでる姿を眼福だと思えないぐらいに嫌味な人じゃ無ければ、私だって素直に感謝したのにね。


只でさえ忙しく働いていたお爺ちゃんが、それから益々と忙しくなった。

城壁の門前を占拠していた外敵(エネミア)が居なくなった事で、宿に領主の使者を名乗る人が現れたからだ。


中庭から入れるエレベーターに向かう通路は、魔術で許可された人しか通れず。

使者の侵入を拒んだオズに寄って、お爺ちゃんが二人の間をうろうろと往復して仲介しなけばならなくなったからだ。


回りくどいから入れてあげてよ、と思ったけど。

青い顔をしたお爺ちゃんの為に進言しても、舐められたら困るからねと、オズに笑顔で突っぱねられてしまった。


でも使者からしたらオズは平民なのだ。

貴族の領主からの言葉を直接伝えるのが仕事だと、粘ってお爺ちゃんを困らせていた。


またそれを聞いてオズやマハトが怒りと苛立ちを深めると言う悪循環。

そして向こうの使者も同様に、お爺ちゃんに当たり散らかすから堪ったもんじゃない。


「おじいちゃんをいじめないで!」


とうとうキレた私がオズを睨み付け、1人で下に降りる!と、宣言してようやく使者の訪問をオズが受け入れてくれた。


マハトからしたらそれが業腹だったらしく。


「小娘がしゃしゃり出て来るな!」と、キレてたけど。


「いざこざをおウチにもちこむなら、いますぐでてって!」と、キレ帰した所でオズが仲裁してくれた。


だからようやく使者が部屋に来ても、お互いの雰囲気は最悪だった。


「平民の分際で使者の訪問を拒むとは何事だ!

魔導師の分際で立場を履き違えるな!」


と、開口一番に怒る使者に対し。


「無礼者!

このお方を何方(どなた)と心得るか!

リチャーズ・ダルヴァンの代理にこの事を伝えに今すぐ戻れ!」と、マハトが怒鳴り返してた。


そこでようやく頭が冷えたらしい使者が、それでも出した剣が納められず。


「そ…そう言う貴様は何者だ!」と、マハトに聞くと。


「我は命の特級魔導師オズワルドの警護を務める、マーハトール・ハルフトマンだ!」と名乗りを挙げた事で。


「し…失礼致しました!!!」と、面白いぐらいに青ざめながら手の平を返して、使者のオジサンがあっという間に帰って行った。


ちなみに私は全てのやり取りを、隣りにあるオズの寝室で盗み聞きしてました。

オズが私の姿を使者に見せるのを嫌がったからだ。


使者が居なくなったから、オズの所に向かうと。

彼は椅子につまらなさそうに座って、冷たい目で使者が帰って行ったドアを眺めていた。


「オズ。いやなおもいをさせてゴメンね。」


私は彼の膝によじ登ると、至近距離で彼と視線を合わせる。


「…アミルが悪い訳じゃ無いよ。」


「でもアイツをいれてとおねがいしたのはわたしだよ。

だからゴメンね。

それと、おじいちゃんをたすけてくれてありがとう。」


ハァ…と、オズがため息をこぼすのが切なくて、私は彼にしがみついた。


「ううん。こうなると分かってたのに、上手く立ち回れなくて僕こそゴメンね。

でもどうしてもあぁ言う輩は苦手なんだよ。


本来なら絶対に顔を合わせない様にしてるんだけど、アミルの家族を巻き込むのは良く無いよね。

でもだからと言って直ぐに通すと、それはそれで問題でね?

逆に君の家族が危険になるから、直ぐに聞いてあげられなかったんだ。」


「うん。くちをはさんでごめんなさい。」


「良いよ。

アミルには嫌われたく無いからね。」


しょんぼりする私に、オズはそうして優しく抱き締めてくれたけど。


「甘やかすのは教育上良くないぞ。

増長して痛い思いをするのは小娘の方だ。」


「私がさせないよ。

アミルが動くのはそれが正しいからだ。

彼女はとても賢いから、きりがないと思ったんだろうね。

実際に向こうは引かなかったし、丁度良かったんだよ。

私達はアミルが望まなければ、無垢の民が血を流した所で引けなかったんだからね。」


「…フン。そうして当然だ。

だがまぁ、良いだろう。

あの使者の首はリチャーズが落とす。

それで落とし前をつけてやる。」


「仕方ないね。」


冷え冷えとした会話を聞きながら、私はこみ上げて来る恐怖をビックリ我慢してオズにしがみつく。


家族から聞いてた話だけど、平和な日本で育った私には理解が難しい話題だった。

だって思いっきりヤクザな世界なんだもん。

江戸時代の武士が切腹するのと同じなんだろうけど、少し手違いがあっただけで死刑とか。

どれだけ野蛮な国なのか。


とても不愉快な思いをさせられた使者のオジサンだけど、だからと言って死ぬ程の罪は犯して無い。

まぁ犯したから切腹なんだろうけど、どうしても受け入れるには抵抗が有る。


でも今の話の流れからすると、使者は自分のメンツを守る為に私のお爺ちゃんを殺してた危険性が有るのだ。


そのどちらの命を選ぶかと言えば、私は当然お爺ちゃんを選ぶ。


学ばなければならない。

私は失敗したのだ。

誰の命も落とさず切り抜ける方法があったかも知れないけれど、今の私にその方法を見つけるだけの知識が無かった故の失敗。


庶民にとって貴族が外敵(エネミア)と同じだと、揶揄される理由を身に染みて痛感する。

日本と同じ感覚で動いては、決していけなかったのだ。


「あのオジサン、ころされちゃうの?」


「…アミルが気にする必要は無いよ。」


「きにするよ。

だってわたしのせいだから。」


「アミル…」


ポロポロと大粒の涙が溢れ出す。

泣くのは卑怯だと思ったけれど。

どうしても罪悪感で胸が一杯になっていた。


「慣れろ。それがルールだ。

オズワルドは決して軽んじては成らぬ存在なのだからな。」


多分マハトの言葉が正しくて、それがこの世界の常識なのだろう。

そうで無ければオズは権力者に利用されて、磨り潰されるのだから。

私がオズの妻になるのなら、受け入れて当然の結果だった。

グラの妻になった私なら、余計にオズを悪用させない事を理解しなければ成らない。


彼が何故長い時間を孤独に過ごし。

この星から逃げずに(こだわ)り続けたのか、その理由を私は知っているのだから。


「アミル…」


「なくのはいまだけよ。

もうわたしはまちがえない。

またおなじことがあったら、そのときはふたりをたすけるほうほうをさがしてみせるから。」


「「……………」」


力強く放った私の決意に、オズとマハトの空気が固まった。


「詭弁だな。」


「うん。ちょっと難しいかもね。」


「バカね。

あきらめたらそこでおわりよ。

だけどいまのわたしにはできないから、べんきょうをたくさんするの。」


私は負け惜しみで吐き捨てると、オズの寝室に逃げ込んで文字のテキストを泣きながら引っ張り出した。


悔しくて堪らない。

自分にそんな実力がない事を、私が一番良く分かってる。


英語が苦手で、象形文字の様な見たこともない形に一瞬夏海の記憶が忌避感を感じたけど、アミルの悔しさがそれを振り払った。

私よりもアミルちゃんの方が負けず嫌いらしい。


そりゃ物心ついた時から様々なピンチを乗り越えて来た彼女にとって、今回は初めて失敗した出来事なのだから。


小さな胸にいつの間にかプライドが芽生えていた。

自我が育っている証拠なのだろう。


彼女はまだ壁を経験して無い。

だから何事にも素直に取り組める。

壁を感じて足踏みする経験も無いのだから。


そして彼女の頭脳はとても優秀だった。

ひょっとしたら幼い頃は、こんな風に物覚えが良いのかも知れない。

小さな黒板にチョークで文字を書いては消し、書いては消して行くウチに、いつの間にか私も文字を一緒に覚えていた。


子供の一番の問題は、恐らく集中力。

でも彼女には大人な上に火の玉ボディの経験で培われた私の根気が備わっていた。


また隣の部屋が煩くなる頃には、半分の文字を覚えていて。

見本を見なくても拙いながらも書ける様になっていた。


どうやら使者のオジサンが偉い人を連れて来て、二人で床に膝をついて頭を下げているらしく。

完全に閉めるのを忘れていたドアの隙間から、汗だくになって項垂れてる二人のオジサンの姿が目に入る。


マハトの声は相変わらず威圧的だし。

オズは黙ったまま、頬杖をついて汗だくオジサンズを眺めている斜め後ろ姿が、ソファーの背もたれ越しに私の目に入った。


「オズワルド様を軽んじるとは何事だ!

ゆめゆめソナタの謝罪ごときであがなえる罪とは思わぬ事だな。」


「それはもう重々に承知しております。

この度はご助力を頂いたにも関わらず、大変なご無礼を致しまして…」


「ほう?では如何に償うと言う。

それを具体的に述べてみよ。」


「それは…、如何様な罰をお望みでしょうか。

誠心誠意を持って甘んじる事を、リチャーズ様から言付かっております。」


「ならば暴言を吐いたその使者の首を跳ねよ。

それを持ってして今回の件は水に流してやる。」


「それは寛大ななお心遣いを、大変有り難く存じ上げます。」


上司らしいオジサンが表情を明るくする横で、隣に居る使者のオジサンの表情が暗く沈んで行く。


「本来ならそれで良いけど。

今回はその必要は無いかな。」


「オズ…ワルド様?!」


「はぁ?」


すると今まで黙っていたオズが、とても嬉しそうな弾んだ声でマハトが出した条件をひっくり返した。


「いやね?私は今とても機嫌が良いんだよ。

何せ長い時をかけて探し求めていた宝物を、ようやく見つける事が出来たのだからね。」


「宝物ですか…」


「うん。だから凶事でこの幸運を汚したく無いのさ。

本来なら首を落とす所か、この地を更地に戻しても足りない出来事だろうともね。」


「そ、それは…!」


「うん。

幸運のお裾分けだよ。

だから普段は手出しをしない事も手を出してみたんだ。

まさかそれがこんな事になるとは思わなくて、腹も立ったけど。

やっぱり皆が喜んでくれたら嬉しいと思ってね。」


「そ、それはもう!

寛大なる大魔導師様だと聞き及んでおりましたが、万死に及ぶ無礼を働きました事をお許し頂ける等と…。

これ程有り難く感謝致す事は在りませぬ!」


「こ、此度は知らぬ事とは言え、大変申し訳ありませんでした。」


「まぁ私が庶民の出なのは間違って無いからね。

領主の代理を務める貴方の立場を思えば理解も出来るよ。

でも私にも立場が有る。

無礼を簡単に許して仕舞えば、私に良くして下さる陛下の権威にも関わるからね。

だからこの件は内密に処理してくれると嬉しいな。」


「まさしく噂に違わぬ慈悲深きお心、誠に感謝を申し上げます。」


「このご恩は決して生涯忘れぬ事とお伝え申し上げます。」


汗を流し過ぎて茶色い髪の毛がペッタンコになった使者のオジサンが、上司に続いて涙を浮かべながら深々と頭を下げる姿に、マハトはゴホンと1つ咳払う。


「あくまでもこれは慶事故のオズワルド様の慈悲で有る。

それを仇で返す真似をすれば、二度は無い事を我はこの身と家名にかけて示さねば成らぬ。

ゆめゆめ忘れる事の無い様にな。」


「「ハハーー!」」


「その代わりと言ってはなんだけどね。

私はこの地に忍んで訪れてるんだ。

居場所が公になると、良し悪しに関わらず。

私に会いに来たがる輩が多くてね。

だから私が領主館に行くのも、使者殿が訪れるのも目立つから控えて欲しいんだ。


しばらく滞在するつもりでいるから、もし要件が有るならゲルマンと言う名の商人を秘密裏に利用して欲しい。」


「ゲルマン…ですか。」


「この宿の血縁者だよ。

私がそちらに行くとしても、そちらが訪れるにしても、今後は商人に偽装してくれると有難いね。」


「御意のままに。

それでは此度は速やかに引かせて頂ます。」


「手数を掛けて済まないね。

そうしてくれると助かる。」


「ハ!それでは御前を失礼致します。」


時代劇か何かかな?

ポカンとしながらやり取りを眺めていたけれど。

オジサン達が部屋から出て行くと、私は一目散にオズが座っているソファーに後ろから飛び付いた。


「アハハ。アミル、苦しいよ。」


身長が足らなくてオズの首に腕を巻き付けながらぶら下がっていると、彼の魔術でふわりと身体が浮いてストンとオズの太ももに着地する。


「オズぅぅー!」


涙と鼻水でグショグショになった顔のまま、私は正面から彼に抱きついた。

ゲルマンさんがちょっと不幸になったかも知れないけど、誰かが死ぬよりよっぽど良い。


「あ、ありがどー…!」


感極まってちゃんとお礼を言えなかったけれど、オズは苦笑の浮かべながらも優しく頭を撫でてくれた。


「今回は運が良かったよ。

マハトが予め手紙を送ってたから、リチャーズ・ダルヴァンが先に膝を折ってくれたからね。

私としても下手な怨恨を残さないで済むと、今後も住み易くなる。

途中でマハトも合わせてくれたしね。

珍しい事もあったもんだよ。」


「フン…」


ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべるオズに、マハトは視線を反らしながら鼻を鳴らす。


「君の手柄とはとても誉められないが、アミルの願いが私達を動かす切欠になったのは本当だよ。

状況が悪ければ聞けない願いではあったけど、叶えられて良かったね。」


「はい。ワガママをいってごめんなさい。」


流石にこれは素直に頭を下げる。

庶民に無茶振りが許される貴族に使われない為には、例え理不尽と言えども力を振るう必要が有るのだろう。


むしろ私のは本当にワガママだった。

子供だから許されたのかも知れないが、何時も同じようには切り抜けられないのだとしっかりと肝に命じておく。



でもこれはストレスだった。

常識や価値観を否定されるのだから、気持ちの良いことでは無い。

グラは新しい星に行く度に、何度もこんな思いを繰り返していたんだろう。

社会が違えばルールも違う。

その途方も無い苦労を思って彼の努力に思いを馳せると、気が遠くなる。


私は今後この人を支えられるのだろうか、と。


弘樹はダメな所が多かったから、例え能力が秀でていても気が引ける事は無かったけれど。

オズと私を比べると、何も出来ない自分が惨めな気持ちになって来る。


人が死ななくて嬉しい気持ちと何も出来なかった悔しさとで、どうしても涙が止まらなかった。

泣いてる場合じゃ無いと、何度も目を手で擦っていると。


「ダメだよ。

綺麗な目が傷ついちゃうからね。

僕は君の身体の中で、それが一番好きなんだ。」


そう言えば弘樹も目が好きだと言っていた。

多分人間の身体のパーツの中で、光を反射するのがその場所だからだろうか。

火の玉ボディの嗜好を知ってれば分かる事だけど、照れていた昔の自分に違うんだよ…、と。

教えてあげたい。


目を擦っていた私の両手を持って、ニッコリと微笑んだオズが。


「この小さな爪も、綺麗な歯も大好きだけどね。」


と、重ねて系統の変わらないフォローをして来る。

あぁ…うん。エナメル質。


と、納得しているウチに冷めた気分になって涙が止まって来た私は、「また変な事言ってるなコイツ」と言わんばかりに眉間のシワを深く刻むマハトを見て、思わずブホッとなる。


「…オズ、ありがとう。」


弘樹の訳のわからなさに戸惑ってた、周りの人達の姿がマハトと重なった瞬間だったから。

その表情が小さなツボに入って、可笑しくなりながらホッとした気持ちになる。


グラの社会と私が生まれ育った社会の倫理観が似ていた様に、この世界の社会や風習の中で私に共感出来る価値観が有るのだと。

落ち込んでいる私に、彼が言外に教えてくれた気がした。


なつみはせっかちだから。

まだチュートリアルだよ。


久し振りに送られて来たグラのメッセージとオズの苦笑を見て、恥ずかしさに頬が赤くなる。


まだ生まれてから一年しか経って無いのに。

人生の道のりの長さに、始まる前から絶望するのは確かに気が早い。


私はまだ何も知らないのだから。


でも早く追い付きたいの。

貴方を支えられる私に成りたいから。


拗ねた気持ちでチャットを返せば。

バカだなぁと、グラが。


オズの愛情の滲む優しくなった視線を受けて、もう一度彼の胸に抱きついた私に。


君が何もしなくても、生きて側に居てくれるだけで私は幸せなんだよ、と。

想像で挫折しかけた私に、耳の痛いチャットが届く。


だって、そんなの悔しいじゃない。


「焦らないで。

君はまだ産まれたばかりなんだから。

未熟な事が決して悪い訳じゃ無いんだよ。」


「…オズ。

例えそうだとしても、その嗜好だけは口に出すな。」


「マハトは何の話をしてるんだい?」


「ぶは…!」


オズとマハトのすれ違いが可笑しくて、会話の全てを知っている私は盛大に吹き出した。


「おい。何が可笑しい。」


あんまりにも私が笑い続けるから、マハトがイライラしながら聞いて来た。


「だって…マハトがへんなかんちがいをするから…」


「勘違い?何がだ。」


「オズはわたしがおちこんでたからなぐさめてくれたけど、マハトがおもったりゆうでおちこんだんじゃないんだよ。」



「グ…な、何故そんな事が分かるのだ?!」


「わたしのおしごとが、うけつけだからだよ。」


「はぁ?!」


「わたしはね。

ししゃのおじさんをたすけられるほうほうを、おもいつかなかったでしょ?


だからおとなのオズがうらやましいなぁ。

わたしはふつうのひとだから、オズみたいにながいきできなくて、こんなふうにはなれないなぁ…て、おちこんで泣いてたの。


だからオズはわたしをなぐさめるために、ちいさくてもできることがあるよ。

っていってくれたのに、マハトはオズがわたしをくどいてるとおもったんでしょう?」


「実際にオズは瞳やら爪やらを誉めていたでは無いか!」


「それはわたしがめをこすらないように、とめようとおもったからでしょ。

ほめるところをふやしたのは、そこだけがすきっておもわれないように、きをつかってくれたんじゃないの?


それなのにどうしてマハトがそんなふうにおもうのかわからないけど、おきゃくさんがいってたよ。


おとこのひとはすぐに、すけべなかんちがいをするって。

だからマハトはすけべなかんちがいをしたのかなぁ?って、すぐにわかったの。」


秘技受付嬢は耳年増戦法。

説明しよう!

これは私が子供らしく無い発想を披露する時に、向こうに不信に思われない為の理由として、たまに炸裂する必殺技なので有る。


「へぇ、そうなんだ?」


「な…違う!私は決してスケベなどでは無い!」


オズの視線を受けたマハトが面白いぐらいに動揺しているが、耳年増戦法は今回も効果はバツグンな様だ。


「スケベねっていわれて、ちがう。

っていうおとこのひとは、ムッツリスケベなんだって!」


「ななな…」


「アハハ、そうなんだ。

アミルは良く知ってるね。」


「おきゃくさんがいってたから!」


ちなみに実際に客がそんな話をしてたかどうかは知らない。

あくまでも必殺技なだけなので。

「おきゃくさんがいってたよ。」は、必殺技を行う時に必ず使う掛け声で有る。


「わ、我を愚弄するな!」


「ねぇ。

どーしてスケベだとぐろーになるの?

おとこのひとはみんなスケベじゃないとダメって、おきゃくさんがいってたよ。

そうじゃないと、しそんがはんえいできないらしいよ?」


「ぐぬ…」


「それじゃぁ僕はスケベでも良いんだね?」


「いろんなおんなのこにスケベなひとはダメよ?それはうわきものっていうんだって!」


「じゃあ僕はアミルにだけだから、問題無いね。」


「問題だろう!

相手の年齢を弁えてから言え!」


彼はずっとそれが言いたかったんだろう。

やっと言えたと言わんばかりの勢いで叫ぶと、ちょっとスッキリしたのか嬉しそうな顔をしている。


「そうは言われてもねー。

アミルが小さいから仕方が無いよ。」


「だったら育つまで待て!

それが正しい男の姿だろう!」


「えー!

そりゃこれだけ待ったんだから、もう少し待つぐらい何でも無いけどさぁ…」


拗ねた子供の様に唇を尖らせたオズが、私に視線を向ける。

それを受けて小首を傾げた私を見て。


「可愛いからムリ。」


「そこを自重しろと言っている!」


ヒッシと私に抱きついて頬擦りするオズに、マハトがまた唾を飛ばして吠えていた。


弘樹の事を思えば、中身の進歩に私は感慨深くなる。

これぐらいスキンシップをしてくれる人だったなら、夏海も幸せだっただろう。

まぁあの頃は逆に私が引っ付いてたから、それはそれで幸せだった。

つまり私は何時なんどきだって幸せになれる人なのだ。


でもカップルって、そんなもんだよね。

相手と愛情を深める方法なんて、人それぞれだもの。


どれだけスキンシップをしてくれる相手でも、気持ちが冷めたら恋は終わるのだ。

弘樹みたいにクールでドライな奴が相手でも気持ちが冷めかったんだから、スキンシップの多さは関係無い。


育児放棄には流石にムカついてたが、私も子供達だって弘樹が大好きだった。

言えば望んでる事はしてくれたから、不器用な人だと思ってたから。


不器用なんじゃ無くて、宇宙人だったから感覚がズレてただけだったけど。


それを思うとグラはどれぐらいの経験を積んで、こんなに変われたのだろうか。

オズの性質が大きいのかも知れないけど、アンドロイドモードでも優しかった。

それを思うと彼の努力が切なくなる。

昔に私が弘樹に教えて来たスキンシップを、彼が覚えててくれた事が嬉しかったのだ。


おばさんと幼児は涙脆(もろ)いんだからね。


また目頭が熱くなって、オズにしがみついて甘えてると。


「ほらアミルがまた泣いちゃった。

僕は誰が何て言おうと、アミルが小さくても大好きな事を恥だとは思わないよ。」


「オズのどうどうとしてるところは、おとこらしくてすてきよ。

でもへんなめでまわりからみられちゃうから、じちょー?してもいいよ。」


「君はとても優しいね。

愛してるよ。」


ほのぼのと抱き締め合ってる私達を見て、何故かマハトが青白い顔で胸を押さえていた。

仕方が無いから今度ゲルマンさんに、唐辛子に似たスパイスでも頼んであげよう。

少しでも胃薬の代わりになればイイね。




登場人物



レジェンドリー

グラのオリジナルの呼び方。


エミューン

レジェンドリーのコピー遺伝子を使って作った者の名称。


エミューンα

他種族の遺伝子を使って作ったエミューンの名称


惑星エレクトロニクス

グラのレジェンドリーが住んでるグラの母星。

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