第八話【記憶潜行】
収納空間からホーンラビットを出して、わざとらしく尻尾を引っ張りながら酒場に入る。
そもそも俺の筋力強化もそんなに万能じゃなかったからな。
「おいおい、アポロお早いお帰りだな? ……ん?」
「オヤジ、こいつを仕留めてきたから畑被害は無くなると思うぜ」
俺の言葉が聞こえているのか聞こえていないのかはわからない。だが、酒場のオヤジは怪訝な顔をしている。
「どうした?」
「おいおい、お前こいつはバイホーンラビットだぞ?」
バイホーンラビット通称二角兎……よく見れば角が二本ある。なんだ、俺はてっきりただのホーンラビットかと……魔力の試し打ちに浮かれていたしな……
「C~Bランク程度の魔物をよく倒せたな……その分魔法力は減少しているようだが」
傍から見ても魔法力は枯渇しているように見えるだろう。特に回復をしたわけではないし、瞬間爆発を使っていたのが功を奏したか。
「まぁ、俺も色々な修羅場はくぐっているしな」
Aランク相当の炎の精霊とだって戦闘経験はあるからな。嘘は言ってねえ。
「農民からの依頼だからな、銀貨は2枚だ。そして酒場からの討伐報奨金としてさらに銀貨を2枚渡しておく」
偉く羽振りがいいなとは思うが、農民にとっては死活問題だ。これくらいが普通なんだろうかな。
今までギルド管理は、専門の算術士に任せていたからあんまり相場がわかっていないのが現実。
知識はあるが、流行には少し遅れている。なんせ、そういうことを学ぶよりは強くなりたかったから。
最新の魔法技術とかモンスター情報とかは調べてたんだがなぁ。黒焦げだからバイホーンだろうがシングルホーンだろうが気づけなかったな。
――さて、宿分を差し引いてもあまりが出る。貯蓄に回すのもそうだが、装備を整えるのも重要だ。
何より限界以上の魔法力を使って生命力も削られるのがやばい。引き出すのにも限度がある。
だけどだ、俺がドラの力を十二分に引き出すことが出来れば、最強になれるのではないだろうか。
届くことのないと思っていた最強。セインと昔目指した夢は、いつしか俺には届かなくなっていった。
なぁ、セイン。お前はまだ目指しているのか、この昔見た滑稽な夢を。
「……愚問だよな。だから俺もお前も冒険者やってんだもんな」
ギルド作ってダンジョン攻略して……本当に安寧を求めるなら農民でもいいし、王国お抱えの騎士になってもいい。
今の王国を脅かすほどの強い力はないし、王国自身が今一番力を持っている。権力も実力も。
「ドラ、お前一人で王国を相手にした時は一応実力的には勝ちってことになるんだよな?」
『我に敵なし……と言いたいが、少々骨の折れる相手はいたな』
そりゃあ王国にも精鋭はいる。封印術を使われる前にドラなら滅ぼすこともできたはず。
それが出来なかったって言うのは阻む奴が居てそいつがかなりの力量だったってことか。
王国を相手にするなら、解呪の方法を探した方が早そうだがそれじゃあ意味がないか。
やっぱり世界の中心は俺で、俺が犠牲になってまで解放するメリットがない。
俺だって世界の頂点を見てみたいからな。
「――頂点、視れるかもしれない」
『……悪いことは言わんぞ。一応思考回路もそこそこ読み取れるのだからな』
止められるのも無理はない。今からやろうとしていることは、神話の世界の体現。
今、俺がどれくらい努力すればこいつらの領域に届くことが出来るのか。
昔の王国軍の力はどの程度のものなのか。
それを俺は知りたくてたまらない。
街に出ようと思っていたが留まり、すぐに宿屋に帰ることにする。
「お帰りなさいませ、今日は――」
「少し籠る。飯は適当に置いておいてくれ。決して扉を開けないように」
返答を待たずして、借りっぱなしの部屋に入る。しっかりとメイキングされてるのは、手の行き届いた証拠か。
俺のモノが少しも動いていないところを見ると優良店だとわかる。治安が悪いと盗まれるからな……一応魔法をかけているから盗まれてもわかるが。
「さて、始めようか!」
『想像内でも死ぬ可能性はある。気合を入れろよアポロ』
「わかってるって!」
魔法力を体内に集中させる。微かに繋がっているリンクをたどり、思考領域に潜っていく。
今から見るのはドラが見てきて、体験した世界。
魔力も引き出せるからこれが出来る。
「――行くぜ! 記憶潜行!」